表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただのわたし  作者: mari
2/4

わたしの変化

ただのわたしでいる時間が増えたサオリには、家族との関係にも少しずつ変化が現れていた。

自分の好きだったことを思い出し、どんどん「わたし」に還る。

4月7日。


新年度の新しい一週間を終え、サオリはホッとした週末を迎えた。


新しく始まった次女の保育園生活は、最初の三日間は慣れないペースでもどうにか過ごしたものの、四日目には次女の頻回に渡る夜泣きで寝不足がたたり、親子でダウンしてしまった。


やはり新しいペースに慣れるまでには子どもも自分も時間がかかるな、とサオリは思った。



河原に行く時間を楽しみに過ごしていたのは、最初の三日で終わってしまった。



しかし、サオリの中にも変化があった。


河原には行けないが、慌ただしい日常の中でわずかな時間の中に「ただのわたし」でいられる時間を作ろうと、少しずつ意識の変化が起きていたのだ。



寝不足でダウンした時は、とてもではないが自分のやりたいことをできるだけの体力も残っていない。

そこで、実家の母に連絡し、お弁当を頼み、子どもたちの世話もお願いした。


サオリの母はとても多趣味で、定年で退職した後もジムに通ったり農園を手伝ったりと、日々忙しく過ごしている。

人に頼るのが苦手だったサオリは、実母にもあまり頼らずに自分で頑張ろうとしてきた。

しかし、いつも限界まで頑張っては体調を崩し、助けてもらうの繰り返しだった。


今回、寝不足でダウンした時は、自分だけで頑張れなくもなさそうだったが、早めに頼ることにした。

自分の体調を最優先にすることにした。


サオリの母が来てくれたおかげでサオリの体力も回復し、おばあちゃん子の子ども達もご機嫌だった。

お弁当を頼んだおかげで家事も休めた。



ただただ、ありがたかった。


サオリは、寝室で一人休みながら、もっと人に頼ってみようと思った。

人に頼れない裏返しは、人を信頼していないということなのかもしれない。


小さい頃は誰のことも信頼していたはずなのに、いつからこうなってしまったのだろう。



「明日も農園が終わったら来ようか?」

母が言った。


以前だったら遠慮して断っていたが、お願いすることにした。



次の日、体力が戻ったサオリは、また次女を保育園へ慣らし保育に送った。

また河原へ行こうかとも思ったが、天気は生憎の小雨だった。



今、何したい?

サオリは、自分のお腹に話しかける感覚で自分と対話するようになった。


なんとなく百均ショップが思い浮かんだ。


雨はまだひどくならなさそうだったので、急いでママチャリで百均ショップまで向かった。


サオリは、百均ショップの小物をリメイクするのが好きだった。


貝殻を百均ショップのパールと繋げて風鈴を作ったり、アクセサリーのパーツを買って娘のキーホルダーを作ったりもした。


次女を出産してからは、細かいものを口にしてしまうと大変だと思い、ほとんどの材料を押入れに片付けてしまった。



サオリは百均ショップで久しぶりにアクセサリーのパーツを眺めると、とてもワクワクした。

以前よりも可愛いモチーフのアクセサリーパーツが増えていた。


サオリは、月と鍵のモチーフのペンダントトップのパーツを手に取ると、真っ先にレジに向かった。

そして、急いでママチャリをこいで家に戻った。


サオリは帰宅すると、押入れにしまっていたアクセサリーのビーズやパールなどが入ったダンボールを急いで取り出した。


買ってきたペンダントトップに合いそうなパーツを、あれにしようか、これにしようかと考えてみる。

この自分の感覚と相談しながら創作する時間が、とても楽しかった。

小さい頃に住んでいた世界に戻ったようだ。


小さな頃のサオリは、キラキラしたビーズを眺めるのがとても好きだった。

母に買ってもらったビーズをお気に入りの缶に入れて、どこに行くにもその缶を持ち歩いていた。

その缶に入ったビーズはまるで宝石のようで、サオリにとってその缶は宝箱だった。


そんな自分がいた世界。

アラサーになった今でも、このアクセサリーの材料が入ったダンボールはサオリにとって宝箱だ。


サオリは、月のモチーフのペンダントトップに、クリアビーズをとおしたネックレスの紐を合わせ、月のネックレスを作った。


お日様の光に当たってビーズとゴールドの月のパーツがキラキラと輝く。


うん、上出来。

サオリは、自画自賛するように胸を張った。



すっかり時間を忘れていたサオリが時計を見ると、保育園のお迎えの時間まであと10分だった。


急いで道具を片付けてお迎えへと向かう。



ちょっと待って。


玄関へ向かう足がグッと止まった。

そして急いでテーブルへと戻った。



このネックレスをつけて行こう。


慌てていた時間が一瞬止まる。


そしてネックレスを付けると、サオリはまた急いで玄関へと向かった。



小さな頃、宝物を持ち歩いていた時のように、今日のお迎えはいつも以上に特別な気分だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ