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吸血鬼なお嬢と眷属な私

作者: 那智

モン娘もの第二弾です。

人がめったに立ち入らぬ森のそのまた奥地。木々に囲まれたというか回りに木しかないそこには大きくて古びたお屋敷があります。

森の近くに住む人の噂ではオバケが住んでいるとか怪物がいるとかなんとか言われているのですがまあだいたい合ってます。

なぜならここの主は吸血鬼なのです。


そこで自分は吸血鬼であるお嬢の眷属やってます。

あ、眷属ってのは主に身の回りの世話と血液の提供する下僕のことです。年中無休でブラック企業とタメを張る労働環境ですがやりがいだけはあります。でもお給料とかはないので今度労働組合にでも駆け込んでみようと思います。


それはさておき眷属の朝は早いです。

日が出る前に起き軽く掃除と洗濯を済ませてから朝食を作り始めます。朝食が出来たあとはそれを食べながらテレビを見たりゲームしたりして過ごします。

何やってんだと思われるかもしれませんがこのお屋敷の主たるお嬢は日が高くなってから起きるのでそれまでは自由時間なのです。吸血鬼なのに昼起きとはいかに。

そして時計の針が10時を過ぎた辺りでテレビを消してお嬢を起こしにいくのです。


「お嬢ー。 朝というかもうすぐ昼ですよー起きてくださーい」


いつものようにお嬢の部屋のドアをノックしますがこれまたいつものように返事はありません。お嬢の寝起きは悪いのでノック程度で起きたりなんかはしないのです。

なので直接起こすためにお嬢の部屋に足を踏み入れると部屋の中央には吸血鬼のベッドたる棺桶が鎮座しています。正直部屋の中央にベッド置くのはどうかと思うのですがお嬢がこれを気に入っているみたいなので何も言う必要はないでしょう。


「お嬢、もう昼ですよ。 ただでさえニートみたいな生活してるのに昼起きまでするようになったら言い訳できなくなりますよ」


棺桶をノックしながら声をかけますがお嬢が起きる気配はありません。棺桶を揺すってみても中からは静かな寝息が聞こえるだけです。

普段からなかなか起きないヒトですが今日は特にぐっすりなようです。ここは最後の手段を使うべきでしょう。


そう決めた私は一呼吸置いてから思いっきり棺桶を蹴飛ばしました。


「ひゃあっ!?」


効果は絶大なようでびっくりしたお嬢が棺桶から飛び出しました。ちなみに三日に一回はこのような光景が繰り広げられます。


「おはようございます。 今日も良い天気ですよ」

「え、ええ・・・おはよう我が眷属、ところで今揺れなかった?」

「棺桶を揺すりはしましたが地震は起こってませんよ?」


嘘は言ってません。蹴飛ばしたと言ってないだけです。

私の言葉を信じて「おかしいわね・・・」と首を傾げるお嬢に着替えを渡し部屋を出ました。


着替えを終えたお嬢は偉そうに足を組むと私に手を差し出します。この手に特に意味はありません。ただのポーズです。


「さあ、我が眷属よ・・・時は満ちた。 血を捧げてもらおうか」

「あ、お昼ごはん、いえこの時間ならブランチですね。 よいしょっ、と・・・はい、お嬢どうぞ」

「お前もうちょっと雰囲気とか・・・いやなんでもないぞ?」


少し屈んで首の辺りの服をはだけるとお嬢がそこに顔を近づけてかぷ、と噛みました。

お嬢の牙が私の首元に食い込み、ちゅーちゅーと血が吸われていきます。


「う・・・くっ、んん・・・」

「・・・・・・」

「・・んっ! ・・・はぁ、ふぅ・・・」

「・・・・・・」

「・・・あ、ふ・・・んあ・・・」

「・・・・・・・ぷは」


ふう、ようやく牙が離れました。毎回のことながらなかなか体力を使います。たぶんHPとか吸われているに違いありません。


「ちょ、ちょっと眷属? ずっと言おうと思ってたんだけどね・・・!」

「はふう・・・なんです?」


咬まれたところを布でぬぐっていると顔を真っ赤にしたお嬢がぷるぷると震えていました。いったいどうしたのでしょう。


「なんであんた私が噛むといっつもエロい声出すの!? Mなのか!? それとも私に対してセクハラをしてるのか!?」

「いやだってお嬢の牙噛むと相手に性的興奮与える感じの能力あるじゃないですか・・・なんで『えっ、なにそれ知らない』みたいな顔してるんですか自分の牙でしょ?」

「ししし知るわけないでしょ自分で自分噛んだりしないし!?」

「いやそれでも数百年生きてて自分の能力把握してないとかヤバイでしょうに」


「えっヤバイの?」みたいな顔してるお嬢はともかくちなみに私の眷属としての能力は見た相手を麻痺させる魔眼です。それを知ったときのお嬢の「えっ、私そんな能力持ってな・・・てかかっこいいし利便性よくない? こいつ眷属なのに私より恵まれてない?」という呟きは一生忘れる気はありません。


「ま、まあ私は高貴なる者だからな。 高貴なる者は、その、自分で手を下すことは少ないのだよ。 だから牙の能力に気づかなくとも・・・」

「あれ? でもお嬢って別段に特別な生まれでもない村娘だったって聞きましたけど」

「ちょっ、オイなんでそれ知ってんだ! 誰だ! 誰から聞いた!?」

「南海岸の人魚ちゃん」

「あのさしみ女!!」


説明しましょう。南海岸の人魚ちゃんとはお魚が食べたいけど流水に弱くて海や川に入れないお嬢のためにお魚を採ってくれるヒトです。お嬢とは長い付き合いだそうでお嬢は絶対認めませんが仲の良いご友人であります。

彼女は人懐っこいお人好しなのですがお喋り好きで魚貰いに行くと二、三時間拘束されてしまうのがちょっと困りものです。

さて、お嬢ってば「あのさしみ女今度あったら三枚におろしてやる!」と怒っていますが挑みかかっても確実に海に逃げられて安全地帯から煽られるのはわかりきっているので人魚ちゃんのフォローでもしておきましょう。


「でもまあ私も眷属になって三日目くらいでお嬢のキャラ把握してましたし別段人魚ちゃんのせいというわけでも・・・」

「えっ、ちょっと早くない? お前眷属にしてそろそろ百年だけど三日でバレてたの!? てか言えよ! なに百年近くも主の痴態見てんだ! こっちは止め時見失ってたんだぞ!?」

「てっきりそういうご病気なのかと」

「そんなん長くても三年で卒業できるだろが! どんな難病だよ!?」


残念ながらヒトによっては長引いてしまうのです。


「まあまあお嬢、これからは自然体で過ごせると思えば良いじゃないですか」

「間違ってもお前が言っていいセリフじゃないからな!? ・・・あーもう、せめて格好良い主でありたいと思った私の努力はなんだったのよ・・・」


あれ格好いいと思ってたんですか?という言葉はぐっと飲み込みます。私はできる眷属なのです。


「んー、でも私は今の口調のほうがいいと思いますよ?」

「そ、そう? な、ならいいわ。 私は眷属思いだからね! これからは普通に話してあげるわ感謝しなさい!」

「それはともかくお嬢、今夜はなにが食べたいものありますか? それとも血だけでいいですか?」

「お前フリーダムかよ。 あー、もういい。 魚、魚食べたいわ。 ムニエルとか」

「わかりました。 それでは人魚ちゃんのところに行ってきますね」

「あ、待て。 あいつのところ行くなら私も行くわよ。 人の眷属にいろいろ吹き込んでくれた礼をしなくてはね!」

「海に逃げられた挙げ句塩水ぶっかけられるのが関の山だと思いますよ?」


このあとどっから持ってきたのかお嬢がパチンコを装備して遠距離対応型吸血鬼になったり、遠距離対応したのに案の定お嬢が人魚ちゃんに返り討ちにされたりしましたがそれは別の話。


これが私とお嬢のこれから何百年と続く日常のほんの一幕です。


『私』さんは男でも女でもどっちでもいいです。好きな方で脳内変換して読んでください。

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