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レジェンダリー艦隊の勃興  作者: ひゅーまのいど
1/6

1. 苛烈にして、穏やかな日々




「第一・第二主砲、目標群体に対し、即時攻撃始め」

『照準ヨシ』

「撃ちー方始めっ」


 とある銀河の片隅。

 交易路さえ寂れた宙域で、光が瞬く。

 二基・四門の砲身から放たれた“光の彎曲”。それは、砲身の向く方へ一直線に跳んでいき――直後には、爆発的な輝きを放った。


「続けて第二斉射、攻撃始め」

()ぇーっ!!」


 それを見届ける青年――胸に『艦長』のプレートを着ける彼は、次の攻撃を指示する。

 そして、彼の声を復唱する女性――白い軍服を女性的な部分で大きく押し上げ、九本の尾を揺らす彼女は、その追撃の合図を改めて発した。

 そんな中、船のA.I.が告げる。


『警告。敵性生物・クラスⅡヨリ、“実体粒子弾”ノ発射ヲ確認』

「レーザースプレット迎撃照準。完了次第発射」

『照準開始……完了』

()ぇーっ!!」


 青年は、間髪入れずに続ける。


「続けて右舷(みぎげん)回頭。ヨー(プラス)50、ロール(マイナス)30」

『Y+50、R-30』

「敵っ、再び攻撃!」

「回頭待てっ。迎撃第二射、攻撃始め」

()ぇーっ!!」


 ――それからというもの。攻撃、追撃、反撃、その繰り返し。

 しかし、こちらは単艦にも拘わらず、敵の群体を圧倒する攻撃が目標宙域を襲う。

 その主砲の攻撃力たるや――。

 小惑星が放つガスの尻尾とも、光学兵器のビームとも違う光の帯は、鈍い光で宇宙を裂きながら進む。

 ……そして目標では。

 体長にして数十から数百メートル。まるで、海の魚類を模した様な、おぞましい“怪物”達が、光の爆発による被害に、のた打ち回っていた。


「――第八斉射終了。轟沈『二〇』、半損『五三』」

「よし。残存個体に対しSSM照準。クラスⅠ・Ⅱ、またそれ以下は、両用砲による任意射撃を開始」

『両用砲一番カラ四番、オート、撃チ方始メ。続ケテ、SSM照準ヨシ』

「SSM攻撃始め」

「撃ぇーっ!!」


 その声と共に、真空特有の煙が立ち上り、数十発のマイクロミサイルが発射される。

 先に発射された両用砲と後追いのミサイル群は、既に死に体であった化け物の群体に対し――仕上げと言うべき打撃を与えるのだった。




「――目標群体の殲滅を確認。艦長、ご指示を」


 先制したとは言え、まさに圧倒的な勝利に帰結した戦闘。

 現場の惨状とは裏腹に、艦橋はあっさりとした雰囲気を醸し出す。

 女性が指示を乞う声も、至って平静だ。

 青年は、次の指示を今か今かと待つ彼女に微笑を浮かべると、表情を戻して告げる。


「当該宙域に戦闘終了を宣言。全ての戦闘用具を納め、これより“アノマリー”探索に移行する」


 アノマリー。

 それは、『既存の理論や法則では説明できない現象』や、時には『特異な物体』に定義される言葉だ。しかし、戦闘が終結したとはいえ、戦場では聞き覚えの無い響きには違いない。

 それでも、軍服の女性は得心した顔で頷いて、微笑む。

 ――いつも通りの指示だ。

 そんな雰囲気さえ漂わせる彼女は、二人しかいない艦橋で次の指示を発するのだった。


「了解。――対艦戦闘・用具納めっ。CIWSは受動モードに移行」

『全兵装ヲ収納。近接戦闘を受動モードニ変更』


 そうして指示通り、主砲や両用砲へのエネルギー回路が遮断され、戦闘用具が収められる。

 先程から機械音声を発していたA.I.が、きびきびと無駄のない工程で船中を操作する。

 そして、全てが定位置に戻り、最後に艦橋の防護シャッターが上げられると――宇宙に浮かぶ星々が、視界一杯に広がるのだった。


「それではミズハ、頼む」

「はい。喜んで」


 さて。

 先程とはうって変わり。青年と女性は、柔和な言葉で意思を伝え合う。

 戦闘が終わったからなのか。――まるで、これからは自分達のプライベートな時間だと言わんばかりの雰囲気だ。


「アノマリー、探索開始」


 ミズハ。そう呼ばれた女性は、頭の上に生えた耳と、九本の尻尾をユラリと揺らしながらその眼に光を宿す。

 青い光だ。

 その双眸は、艦橋のフロントガラスを突き破らんばかりに凝らされ、事実――とある情報を“遥か彼方”より持ち帰る。


「……クラスⅠが三つ。……クラスⅡが一つ。――おめでとう。今日も豊作よ」

「ありがとう。お疲れ様、ミズハ」


 ミズハは、目の光を終息させると、揺らめかせていた尻尾を下して青年に近づく。

 そして、彼のひじ掛けに腰を下ろすと、豊かな尻尾を彼の邪魔にならない方向に下ろして、振り向き様に言った。


「順調ね。ヤヒロ」

「いつも言ってるが、ミズハがいるお陰だよ」


 アノマリー。

 語意とは別に、滅多に見つからないからこそ、そう呼ばれる代物でありながら、彼は“いつも”と口にする。

 今日も当たり前の様に発見できているのは、彼女のお陰だと。

 そして、――巡視船クラスでありながら、“戦艦並”の攻撃力を持つこの船が正しく運用されているのも、彼女の助力があってこそ。

 それを心の底から理解し、感謝する彼。

 ミズハは、改めて彼の方を見ると――。


「ふふっ。どういたしまして」


 身に染みた様に、うっとりと顔を綻ばせるのだった。

 それから、顔を上気させるミズハから青年が目を逸らし、それを彼女が笑うといった“恒例行事”を済ませた後。

 青年――もといヤヒロは、人差し指でこめかみをトンと触り、考える様にして言う。


「うん。この調子なら副砲の製作を始めてもいいかもな」


 ヤヒロは、目の前のコンソールを操作する。

 すると、全面ディスプレイに一基・一門の回転砲座の設計図が映し出された。

 そこには、『材料表』と記された表が随伴していて、彼はそれを悩んだ顔で眺める。


「んぅ。ただ……重力子偏向コイル用に、あと20グラムは欲しいところだな」


 あと20グラム。それは、かのアノマリーから精製される材料を指す。

 既に100グラム確保しているが、副砲の特殊部品を作るには足りないのだ。

 ……たとえ、100メートルを超える“化け物の死骸”を漁っても、数グラムも出てこない事がほとんどの“アノマリー”。

 今回も発見しているとはいえ、使用料に足るかは未知数だった。

 ――と、その現実に唸る彼に、ミズハが告げる。


「そうね。でも、見た限りクラスⅠのアノマリーが、その倍くらいの質量を持ちそうよ。もっとも、この時期は彼等の出現率も高いし、アノマリーを含む群体の予測も容易。それに、“核となる部分”は揃っているのだから、基部は作り始めていいと思うわ」

「なるほど。うん――よし。ではその方向でいこう」


 ひとまず結論は出た。作れる部分は作ろう、ということだ。

 ヤヒロは早速、コンソールから『製作開始』を指示する。

 すると画面が切り替わり、この船の工作室が映し出されると――そこでは、工作台を取り囲むロボットアーム群が、わっせわっせと作業を開始する光景が見えるのだった。


 そして、作業開始から間も無く。

 隣の画面に移った材料表のうち――紫の字で“レジェンダリーCⅡ”と書かれた項目が、『1/1』から『搬出済』に変わる。

 それを確と見たヤヒロは、どこかホッとした表情を見せると、全ての画面を閉じて、座席にリラックスした姿勢を取るのだった。


「ふぅ……。まぁしかし、一度ステーションには寄らなきゃかな。生活必需品は一応余裕があるが、ストック分が切れそうだ」

「そうね。それに、もしかしたら副砲の部品もいくつか購入する必要があるかもしれないわ。……結局は、誰かさんが機能を“たぁくさん”追加して、仕様変更になるんだもの」

「う゛……」


 十隻の艦隊より、一隻の最強艦を――。

 雑多で巨大な戦艦より、装備をこれでもかと組み込んだ高機能な駆逐艦を――。

 そんな考えを持つヤヒロは、新しい装備を作る時、無駄な余剰スペースを許さない。

 無論、メンテナンス通路は設計に盛り込むが、そこで作業する時の“体の動き”まで仕様に加え、『こう動けば狭くても大丈夫。仮に火災事故があっても、隣の配管から冷却ガスをもってこれる』などというマニュアルまで作る徹底ぶりだ。


 ミズハは、彼のそんな性格を見越して、ステーションに着いたら部品屋をあたろうと考える。

 ヤヒロも、必要物資を買ったら合流するつもりだ。

 ……ただ。

 必要な事が終わり、その後何をするかは予め二人の中で決まっていて――。


(今回は俺がエスコートする番か。さて、どんな所にするかな)

(今回はヤヒロがエスコートしてくれるのよね。ふふ、楽しみだわ)


 二人は、揃って甘いデートのひと時を思うと、静かに笑うのだった。




お読みいただき、ありがとうございます。

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