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3,2,1、、、
彰は時計を見ていた。黒板ではなくだ。
またあの時計ずれてやがる。お経にしか聞こえないしゃべり方の国語教師(通称、釈迦)の授業を聞き流しながらチャイムが鳴るのを待った。
誰かが校内のスピーカーを壊したのか?それとも時間が止まっちまったのか?もしかしたら授業、いやお経を永遠に続けてオレ達を監禁するつもりかもしれない。妄想を広げていくうちにチャイムが、鳴った。
「イェェェイ!!!」
いち早く歓喜の声をあげたのはクラスのヤンキー担当、髪を赤く染めた柴田健治(通称ニワトリ)だ。お釈迦様はニワトリが鳴いたところへ一瞥をくれたがなにも言わずに授業を終わりにした。
明日から夏休みだ。しかし、高校3年とゆう時期だけに遊んでばかりもいられない。部活も最後の大会が終わり、みんな受験モードに切り替わっていた。彰は夕暮れを観ながら家路についた。みんなも参考書ばかり見てないで、あの赤く染まった入道雲や、うすく静かに浮かぶ月を眺めればいいのに。受験ノイローゼなんて馬鹿らしい。
家に帰ると玄関の鍵が開いていた。働きに出ているおふくろが閉め忘れたに違いない。空き巣にでも入られたらどうするつもりなんだろう。
中に入って電話をふと見ると留守録メッセージがあった。おふくろからだ。
「友達と外食にいってきま〜す。キッチンにカレーの残りがあるからね〜」
クソババアめ。
シャツに汗が染み付いて、気持ちが悪い。シャワーを浴びようと思ったときにケータイが鳴った。最新ケータイの液晶画面をみると意外な人物からだった。
「・・・もしもし。彰?・・・篠崎だけど・・・」
篠崎亮太は彰の中学時代の友人だったが、卒業以来メールのやりとりしかしていない。そのメールも、ここ一年はゼロに等しかった。
「亮太か?ひさしぶりだなぁオイ!」
彰の目の奥に中学生の亮太の姿が浮かぶ。亮太は勉強はまったくできなかったが絵が上手くて(モネも真っ青)、バスケも上手くて(ジョーダンもびっくり)、その上顔もよかった(小池徹平にそっくり)。明るい性格で常にクラスの中心にいた。
「急に電話してくるなんて、びっくりしたぜ」
「ああ、そうか、急だったね。ごめん」
彰は不思議に思った。あの亮太があからさまに暗い。こちらだけテンションが高くてすこし恥ずかしくなった。
「で、どうしたの?」すこしテンションを下げてたずねる。
「ちょっと相談したいってゆうか・・・。その・・・マジメな話なんだけど・・・」歯切れが悪かった。「オマエなら聴いてくれると思って・・・」
「なんだ?」かなり深刻そうだぞ、と彰は思った。
「オ、オレ、二重人格になっちゃった」
冗談ならシャワーの後にしてくれ、そう言ってやりたかった。