それは兄妹とは言えない的、な。
話進まない~。
何を聞いても会話にならない、なおかつ抱きついたまま離れない勇者様を背中に背負ったまま、神官長様より伺った話のまとめはこうでした。
勇者様は十年前に勇者としての託宣を受けられ、城に召し上げられたそうです。
その時勇者様のお年はまだ八歳。
本来はまだ親の庇護下にある年齢です。
しかし、勇者様のお母様は何というか、母よりも女としての生き方を重視するタイプのお人だったとのこと。
お父様はどこのどなたかはわからないとのことです。
勇者の託宣を告げた際、もちろんお母様も一緒にお城へ、との申し出はしたとのこと。
しかし、束縛を嫌った勇者様のお母様は多額の謝礼金を代わりに求め、あっさりと勇者様を手放したのだとか。
本来託宣とは断る権利などありはしませんが、後顧の憂いを排除する意味で、今後勇者様への接触は禁止するという条件のもの、金銭は支払われたそうです。
そのころの勇者様は、ぼろを纏い、薄汚れ、まともな教育もされず、まともな食事も与えらることもない、ガリガリに痩せこけたろくに会話もままならない獣の子供のようだったということです。
なんということでしょう。
貧しかったところはわたしと変わらないと思いますが、わたしは両親の愛情をたっぷりと受けて育ったのですから。
かわいそうな、勇者様。
そして、城に引き取られた勇者様は、同じ年回りということもあって、この国の王子様と一緒に育てられたとのこと。
そして今は立派に成長された勇者様は、歴代にないほど強力な力を持った勇者様になられたのだとか。
それは、本当によかったですね!
でも、それはそれとして……。
「なぜ、わたしは今その勇者様に生き別れの妹と言われ、抱きつかれているのでしょう……?」
勇者様はべったりとわたしに張りついています。
男の人というよりは、大型犬にじゃれつかれているような感覚なので、それほどの嫌悪感は感じませんが……。
「いいかげんになさい。妙齢の女性にそう気安く触れるものではありませんよ」
神官様が疲れたように溜め息を吐かれました。
「俺は兄だから問題ない」
勇者様にはそう言って断固拒否の姿勢を貫きます。
「あの、どうしてわたしが妹なのですか?」
「託宣で選ばれたからだ」
わたしの質問に、勇者様は答えました。
答えはしましたが、意味がわかりません。
「どうして託宣を受けると兄妹ということになるのですか?」
わたしのその質問に、勇者様は心底不思議そうな顔をしました。
「託宣を受けたんだから、同じ神に選ばれた神の子、つまりは兄妹で間違いないだろう?」
……はい、意味がわかりません。
わたしは神官長様へ困った視線を投げかけました。
わたし、勇者様と意思の疎通ができる気がしません。
神官長様、解説、お願い致します。
そして勇者の名前をまだ決めてない……。