いきなりそんなこと言われても的、な。
勇者、登場。
「あの、やはり人間違いじゃ……」
「いえ、託宣に間違いはありません」
「えと、では託宣の内容に間違いが……」
「いえ、託宣に間違いはありません」
……ええと。
取りつく島もないとはこのことでしょうか。
いえ、神官長様はとてもにこやかに優しく接してくれています。
が、ですが、ね……。
「あの、でも……」
「はい」
「勇者様のパーティーと言っても。わたし、魔法も使えませんし、剣なんて持ったこともないですし。とても魔王と戦うだなんて……」
農民なので、鍬や鋤は持ったことありますけどね。
というかほぼ毎日持ってますけどね。
まさか、それで戦えなんてこと……、あったりするんでしょうか。
「ああ、そういうことですか」
神官長様は納得したように、頷きました。
「これは心配させて申し訳ありませんでした。あなたは戦う必要はありません」
「え?」
「今回の勇者のパーティは戦力としてはもう充分なのですよ。勇者本人からして規格外ですが、騎士や魔法使いもかなりの実力の持ち主です。これ以上の戦力の補充は必要ないかと思います」
神官長様のその言葉に、わたしははて? と首を傾げました。
「では、わたしは何のために……?」
「それは……」
その時です。
バン! と大きな音がして、壊れるかと思うほどの勢いで扉が開きました。
驚いて音がした扉の方を見ると、そこには一人の男の人が肩で息をしながら立っていました。
その男の人は、よく晴れた空色の瞳と、よく実った小麦色の髪をしていました。
年の頃はわたしより少し上なくらいでしょうか。
「……ああ、もうバレたのですか」
そう、小さく神官長様が呟いたのが聞こえました。
この人はどなたですか、と神官長様を見上げそう聞こうとしたわたしでしたが、実際には口を開くこともできませんでした。
何故かと言うと……。
「会いたかった!」
とその突然部屋へ乱入してきた男の人に抱きしめられたからです。
「!?」
驚きました。
もちろん、いきなり見知らぬ男の人に抱きつかれたこともそうですが、たしかこの人、今扉のところにいましたよね?
その扉からわたしのところまで、少し距離ありますよね?
何か、瞬きする時間くらいしかなかったはずなのに、どうやってあそこからここまできたのですか。
瞬間移動なのですか。
かたまるわたしに、その男の人は感激しような表情で続けました。
「本当に、本当に会いたかった。やっと会えた。やっと、出会えた! 俺の……、俺の生き別れの妹よ……!」
………………………………はい?
聞き間違いでしょうか?
いえ、耳元で大声で叫ばれたので聞き間違いようはないと思いますが。
わたしには、生き別れた兄はいないのですが…………?
次回までに勇者の名前考えないと。