人の好みは千差万別的、な。
意外と書いてて楽しいこの話。
神官長様へ促され連れてこられた部屋は、魔法陣のある部屋の隣でした。
わたしたちが出ると、不思議なことに魔法陣がある部屋への扉が消えてしまいました。
わたしが驚いた顔をしていると、神官長様はにっこり笑っておっしゃいました。
「このままにしておくと不用心ですからね。他の誰にも利用できないよう封をしたのですよ。まあ、もともとそれ相応の魔力がなければ、魔法陣は使えはしませんが」
なるほど。
これは基本神官長様専用のもの、と考えればいいのでしょうか。
魔法ってすごい。
いえ、すごいのは神官長様でしょうか?
わたしが感心していると、神官長様が座ってしばし寛ぐようおっしゃってくださいました。
座るように勧められたそこにあったのは、これまた見事な細工の椅子とテーブルです。
…………高そう。
弁償はとてもでないができそうにないので、うっかりぶつけて傷でもつけないように、と恐る恐る腰をかけると、神官長様手ずから淹れてくれたお茶を手にしました。
深緑のお茶です。
見たことのない深い緑の色合いで、何やら強烈な異臭を放ってはいますが、これを断ることはわたしの選択肢にはありません。
覚悟を決めて、すすすっと飲んでみます。
………………………。
口に入れると思ったよりも臭気がないのがせめてもの救いですが、苦くて苦くて人間の飲み物には思えません。
もしや、これはしびれ薬!?
が、間の前の神官長様は実においしそうにこのお茶を啜っています。
まあ、わたしに一服盛る意味などありませんから、当然でしょうが。
「……はあ、やっぱり薬草茶は美味しいですねえ。身体の中から浄化されるような気がします。こればっかりは他の者に任せると満足いく香りと味がでないのです。なので、わたし自身で薬草の栽培から採取、煎じるところまでするのですよ。あなたにも気にいって頂けると嬉しいのですが」
「は、はあ……」
神官長様はにこにことしていらっしゃいます。
さすがに、こんな笑みでこんな風にお勧めしてくれているのに、とても苦くて飲めませんとは言えません。
だけど、これを美味しいと言い切る神官長様……。
ちょっと味覚障害を疑……、いえいえいえ。
…………まあ、人の味覚の好みは人それぞれですからね。
わたしはそう思って神官長様の言を、全力で否定したい気持ちを無理矢理納得させるのでした。
プロット一切なし、行き当たりばったりで書いてますが、次回もよろしくお願いいたします。