禁句の理由はそれだったんですね的、な。
深夜に更新。眠いです。
「うむ? 神官長が来ていると言われたのが、どこにおるのか」
威厳むんむんの騎士様は、そう仰ると周囲をぐるりと見回しました。
「あ、あの、神官長様は用事が出来て、その、あの……」
わたしは説明しようとして言いあぐねました。
普通、勇者様が山を吹き飛ばしたと言って信じてもらえるものでしょうか。
そういうわたし自身も、未だ信じられないでいるのですから。
「用事? 人を呼び出しておいて、何をやっているのだ、あやつは」
「ええと、何か勇者様が、あの、山を吹き飛ばしたとかで」
「ふむ、なるほど。それならば仕方ないな。まったく、あの勇者の阿呆にも困ったものだ」
信じた!
しかも、あっさりと!
わたしは勇者様のこれまでの行いに言い知れぬ恐ろしさを感じたのでした。
「さて、ではそなたがこれから新たに一緒に行動することになるという娘御かの。わしは騎士団長のダルガン・ギーズと申す。そなたの名はなんという?」
「は、はい。マリアベルと申します」
「ほう、可愛らしい名だ。……それにしても、雰囲気が似ておるな……」
「わたしがですか? どなたにですか?」
騎士団長様は懐かしそうな眼差しで、仰いました。
「うむ、わたしの妻にだ」
「あの、亡くなられたという奥様にですか。光栄です。どのような方だったの……」
と、わたしは尋ねかけてはっとしました。
神官長様より騎士団長様の奥様のお話は禁句であると聞いていたのに。
きっと、騎士団長様にお辛い気持ちを思い出させてしまうに違いないのですのに。
わたしは慌てて何か別の話題に話を逸らそうと、騎士団長様を見上げました。
すると、騎士団長様は哀しそうなお顔ではなく、とても慈愛が籠もった瞳でわたしを見つめていらっしゃいました。
「こうしていると、わたしと妻の娘を相手にしているような気分だ。残念ながら子供は授からんでな。そなたのような娘がおったらと、何度思ったことか。本当に、可愛らしい。まるで妻の若い頃のようだ。とは言っても妻はだいぶ若い時に亡くなったのだがな。聞いてくれるかの、わしと妻の思い出を」
「は、はい」
わたしはこくりと頷きました。
「そうかそうか。ではな、まずはわしと妻の出会いからだが……」
神官長様が騎士団長様の奥様の話はスルーするよう仰られた理由はよくわかりました。
騎士団長様、奥様のことを語るに語り、終わりがまったく見えません。
長い長い。
騎士団長様の亡き奥様への愛情は、尽きることなく今でもあふれ出ているとしみじみわかりました。
これだけ愛されているのなら、奥様も本望でしょう。
……ちょっと重くて暑苦しいかもしれませんが。
しかし、ですが、騎士団長様。
それはどこまで続くのでしょうか、騎士団長様。
これは何かの試練なのでしょうか、騎士団長様。
途中で何人もの騎士様達が、通りすがりにわたしを憐れむような目で見て行かれました。
そんな目で見るなら助けて下さい。
……無理ですよね。
上司に逆らうなんて、出来ませんものね、普通。
騎士団長様の亡き奥様への凄まじいまでの愛の語りは、すっかり夜が更けこれまた疲れ果てた様子の神官長様が戻ってきて強制終了させるまで続いたのでした。
神官長様は同じようにぐったりと疲れ果てたわたしに、「……詳しい説明をしなくて申し訳ありませんでした」と謝罪されました。
こちらこそ、言うことを守らなくて申し訳ないです。
わたしはこれからは注意されたことはきちんと守ろうと決意したのでした。
また、何故だかわかりませんがそれから騎士団長様は、わたしに会うたびに、「おお、我が娘よ」と呼びかけるようになりました。
……何故に?
騎士団長、久々話聞いてくれる相手が出てきて、嬉しさのあまりストッパー外れた模様。そして奥様似(雰囲気のみ)のマリアベルを、天国の奥様からつかわされた二人の娘と認識、暴走します。