つまり勇者様は別格的、な。
お待たせしました。
神官長様は実にわかりやすく説明してくださいました。
実のお母様にとても酷い扱いをされ、あげくに捨てられるように城へ召し上げられた勇者様は、お母様をお母様とは認めなくなりました。
勇者としてこの世に生まれ出されるために必要だった母体、それがお母様という存在なのだと。
肉体を得るためだけに必要だったもの、それは決して親などではない。
親などとは認めない。
だから自分には本当の親などはいないのだと。
強いて言うのであれば、己を勇者として生み出した神、それこそが親であるのだと。
そして、自分と同じ神の託宣を受け城に召し上げられたわたし、つまりはマリアベルのみが生き別れていた妹であると。
「はあ、そうなんですね」
イマイチ理解はできかねますが、納得はできました。
その思考に至った勇者様に同情はいたしますが、うーん。
その原理でいくと、わたしが年上だったのなら生き別れの姉になっていたのでしょうか。
あれ、そうなると……。
「他の勇者様一行の皆様も生き別れの兄弟姉妹ということになるのでしょうか?」
「何を言ってるんだ。俺の妹はマリアベルしかいないぞ」
うん、勇者様。
神官様への質問なので、ちょっと黙っていてほしいです。
「いえ、託宣を受けられたのは勇者とあなただけなので」
「そうなんですか?」
つまりは、勇者様の妹認定はわたしだけ、ですか。
あれ?
しかし託宣を受けた人間が二人だけ……?
「他の皆様は、どうやって勇者様パーティ一行に選ばれたのですか? というか、どなたがいらっしゃるんでしょうか? 皆様託宣で選出されるわけではないのですか?」
わたしの質問に、神官長様は少し困ったように微笑まれました。
「そうですね、勇者一行は勇者、騎士団長、首席魔法使い、神官長であるわたし、です」
「神官長様もですか。……でもそのメンバーって、皆様その役職のトップなのでは……」
魔王討伐にこぞって留守にされたら、国の機能として大変なことになるのでは……。
「そうですね。通常はない選出です。本来は勇者一行は旅をしつつ魔物、魔族と戦いながら経験値を上げ、魔王討伐に向かうものなのですが……」
「あ、出た」
突然、神官長様の話の途中に勇者様が声を上げられると、わたしから離れてすくっと立ち上がりました。
「マリアベル、ちょっと行ってくる。すぐ戻ってくるから」
そう言うと、スッと勇者様の姿が消えました。
「……!?」
わたしが目の前で起きたことに驚いていると、神官長様は小さく溜め息を吐かれました。
「大丈夫です。勇者は瞬間移動ができるので」
そうなのですか、それはすごい。
「勇者様とは皆、そのようなことができるのですね」
「……いえ、普通はできません。どの文献をあたってみてもそのような記録はありません。今期の勇者が別格なのです。その強大な力も、その存在も……」
神官長様がそこまで言ったと同時に勇者様がスッと姿を現しました。
今度は驚きませんよ?
「ほい、狩ってきた。低級の魔族だった。これそいつが落とした魔石」
勇者様はそう言うと、神官長様へ何やらキラキラする石を渡し、またわたしにべったりと張りつかれました。
神官長様は非常に微妙な表情でその手渡された魔石を見下ろしています。
「……このように、勇者はどんな離れた場所でも魔族や魔物が現れると感知して瞬時に討伐してくるのです。はっきり言って旅に出る必要がまったくありません。勇者一行のメンバーは魔王復活時にはさすがに勇者一人ではきつかろうと選ばれたそれぞれの実力者であり、この破格の勇者にそれなりに付きつきあえるであろう人物、が選ばれた結果なのです……」
そう仰られた神官長様は、どこか非常に疲れたような顔をされていました。
……うん、神官長様、ファイトッ。
わたしは勇者様を背中に張りつけたまま、神官長様に心の中でエールをおくりました。
次回に続く、です。