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004

 次に目が覚めたのは、先生に囲まれた保健室のベッドの上だった。

 起きてすぐに怒られ、様々なことを訊かれたが、寝起きの頭ではほとんどまともな返事ができず、この件は明日にしようと先生方が言うのを黙って聞いていた。

 実際には答えられそうな質問もあったが、多分僕の心証が悪くなるので濁しただけなのだけれど。

 まあ明日も同じように答えればいい。

 その後迎えに来た母親に同じようなことをされ、うんざりした気分で家へと帰った。

 風呂に入る気力も無く――その日はただ眠った。夢も全く見なかったほどに熟睡した。

 そして朝。

 寝る前には、いつも枕元に置いていた十字架が無いことに気付く。


「投げてから、拾ってなかったな……」


 学校に行けるだけの体力は回復しているとは思うが、さすがに今日もまた放送室に行くような勇気は無い。

 出来るのは先生に訊くことくらいか。

 昨日、保健室で目が覚めたときに渡されなかったのだから望みは低いだろうが、適当に扱うのも気が引ける。

 あれがあったお陰で助かったようなものだし。

 とりあえず、顔を洗うために洗面所に行く――途中に、母親の姿があった。

 普段は僕が起きる前に家を出て、寝た後に帰ってくるというのに。

 考えると昨日もよく迎えに来れたものだ。


「今日は学校行かなくていいわよ」


 ……は?


「覚えてないでしょうけど、あんたが見つかった時は血塗れだったらしいわよ。見た目ほど怪我は深くないから、一先ず止血と消毒だけ済ませたと聞いたけれど……今日は念のために病院に行きましょう」


 大多数がそうだろうが、僕も行きたくて学校に行っているわけではないので、

その提案は素直にありがたかった。

 ただし、学校に行かなくて良いという部分だけだ。

 僕は病院は苦手だ……あの独特の薬臭さに加え、悪い意味で生命というものを感じてしまう。

 入口の空気ですら淀んでいる風にも思える。

 病院に行くくらいなら学校に行った方がましだ。


「別にいいよ。犬に噛まれたようなものだし」

「あんたは女子か。もし犬に噛まれてたらなおさらだわ」


 実際には吸血鬼に噛まれてますが。

 ……あれ? これって大丈夫なのか?

 吸血鬼に噛まれたら吸血鬼になるとか……吸血鬼に関わる逸話の中でも、

一位二位を争うくらいには有名な話じゃないのか。

 いやまあ必ずしもそうではないだろうし、僕は"そうではなかった"だけなのかもしれない。

 または彼女が"そうではない"吸血鬼だったのかもしれない。

 はて?


「なあ、僕が発見されたときの話って聞いた?」

「大体なら聞いたわよ。首から血を流しながら倒れてたって……そうそう、昨日のお昼前にも何かあったんだって? それを知ってたのに、」


 話が逸れる予感がしたので、強引に質問を重ねる。


「いや、えーっとさ、僕って、一人だった?」

「え? ああ、他に人がいたとは聞いてないわね」


 母は質問の意図が読めないらしく、少し目を丸くしたが、答えてくれた。

 こういうときはとりあえず答えを返してくれる人がありがたい。

 ありがたいが、その感謝の意思を伝えるのはもうしばらく先だ。


「やっぱり学校行くよ。多分、放送室に忘れ物してるし」

「忘れ物? よくわからない首飾りならあるわよ?」

「え?」


 言いながら、母はその場を離れ――戻ってくる。

 手にはあの十字架が握られていた。

 だが、どうしてこれが家にあるのだろう……先生が僕に渡しそびれたから、親の方に渡したとでも言うのか。

 昨日の僕はほとんどまともに会話をしてないし。

 などとまるで必要の無い邪推をしたが、現実は全く違った。


「昨日家に帰ってきたすぐ後に、先生が届けてくれたのよ。おじいちゃん先生っていうか――男性か女性かもよくわからない人だったけど。あの先生の名前ってわかる?」


 どう解釈すればいいのか僕は想像もつかなかった。

 もっと問い詰めるべきなのか。

 いや、恐らくは、そう感じている時点でほとんど正解のようなものだろう。

 きっと、十字架は届けてくれたのは、僕に十字架をくれたあの人だ――僕は一体どこからファンタジーの世界に入ってしまったのだろう?

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