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激甘・団子・レンジ  作者: kotarouop
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団子・激甘・レンジその2

 頭の片隅で、鬼のような形相で怒り狂っている彼女の姿がちらついたが僕は大して気にしないことにした。

 後々の鬼より目の前の天使のために僕は時間を割きたかった。

 人間の一生はそんなに長いものではない。長く生きてもせいぜい120年程が限度だろう。

 そのうち、体が健康であり、好きなときに好きなことができる時間など本当に限られている。だからこそ僕は自分の欲望に逆らうことなく自由に生きてやりたいことを好きなようにやることを信条として生きてきた。だから今ここでこの小さな女の子に協力することは少なくとも間違いではないだろう。

 「ところでお兄ちゃん。どこ行くの?」

 おや?僕の後ろから天使の声が聞こえるな。と、思ったらさっきの女の子だった。

 今は僕の後ろに乗せて自転車を走らせている。今までの流れからしてもしや誘拐などとあらぬ勘違いをしている人もいるかも知れないが、これにはちゃんと理由がある。

 そう、理由があるのだ。

 本当に理由があるからちょっと待って。

 もう少しでいうから、そうそう。

 「君が壊してしまったレンジの代わりを探しにこれから街に行こうと思ってね。ここからでも街までは歩きじゃ遠いし、僕もちょうど街に用事があってね。」

 「でも、私お金持ってないよ?」

 「大丈夫。こういっては何だけど、僕の知り合いには変人が多い。電子レンジくらい気前よく分けてくれるよ。」

 電子レンジを気前よく分けてくれる知り合いってどんなやつよ。といっていて僕も思ってしまったが、でもこれには実際にあてがある。

 「そっか。なら安心だね!」

 少女はにっと笑い周りに花が咲いたようだった。おかげで前方不注意で電柱にぶつかりそうになってしまう。危ない危ない。まったく可愛いってのは罪だな。危うく事故で大怪我するところだよ。

 それから僕はこの女の子と家族のことや学校のことを話しながら街へと向かったのだった。


 「ついたよ。留守じゃなきゃいいんだけどね。」

 「すごい大きなお家だね。」

 女の子は首を上に上げながら感心したように声を上げた。

 確かにこの家はでかい。

 民家にしては大きすぎるとも言える。

 洋風の四階建てでまるで御伽噺に出てくる館のような風体をしている。

 僕は門の前のインターホンを鳴らして少しばかり待つ。

 「ねえお兄ちゃん。ここにどんな人が住んでるの?」

 僕はこの質問にどう答えようか悩んでしまった。

 いや、悩むようなことじゃないとは思うが。

 僕はもちろんこの家にすんでいる人のことを知っているし、それなり親しくはしているはずなのでどんな人なのかもよくわかっている。でもあえて言わせてもらえれば僕はあの人についていくら言葉を並べて語ったとしてもそのどれもがあの人を示していて、しかしそのどれにも当てはまらない。そんなつかみどころがなさ過ぎる人だと僕はいわざる終えないだろう。

 だから僕はこの質問に対して、僕なりの意見としてあの人についての印象を答えた。

 「かなり変な人だから、君も十分に気おつけてね。」

 「変な人とは失礼なやつだね。」

 僕は驚いて後ろを振り返った。

 そこには男とも女とも取れない容姿をした人が立っていた。

 Tシャツにジーンズ、サンダルという実にラフな格好で髪は肩にかかっておらずしかししっかりと切りそろえられている。身長は男性にしたら少し小さく女性にしては少し高いくらいで声もどちらとも取りにくい中性的な声をしていた。

 「何で後ろにいるんですか。びっくりしましたよ。」

 「買い物帰りだよ。そこのコンビニでね。帰ってきたら家の前に君がいたから驚かしてやろうと思ったんだが。ところでそこの小さいお嬢さんは君と彼女のお子さんかい?」

 僕の後ろに隠れて恐る恐る様子を伺う天使がそこにはいた。

 「いや、違いますよ。この子はさっきそこであって何やかんや一緒にくることになった子です。」

 「話が省略されすぎていてなにひとつわからないんだけど?」

 僕はこのことあったいきさつを話した。

 「で、最近新しい家電を大量に買ったってあなたが話しているのを思い出して電子レンジを分けてもらえないかと思ってここにきたわけです。」

 「どうでもいいけど、電子レンジを分けてもらいに来たって生きていて一生使いそうにない言葉だね。」

 そういって笑いながら門を開き家の中へと入っていく。

 「立ち話もなんだからね。入りなよ。」

 僕たちはその言葉に甘え家の門をくぐった。

 女の子は相変わらず僕の後ろに隠れながら僕のズボンを握っている。

 僕はすでに幸せで、ここに来た目的などほとんどどうでもよくなっていた。


「さて、さっきの話だけど、確かに私の家には現在使われていない家電が32個あり、その中に電子レンジも3個ほどある。それを君に譲るのも別に問題はない。何せ君の頼みだからね。私も無下にはできないよ。でもタダで譲ってしまっては君もさすがに悪いと感じるだろう。私は君にそんな罪悪感を感じてほしくない。そこでだ。私の頼みをひとつ聞いてほしい。そうすれば君は依頼を受けた報酬として、当然のこととして電子レンジを持ち帰ることができる。これで君にも私にも貸し借りはないきれいな友人関係を継続させることができるだろう?」

 僕たちは玄関を入ってロビーをとおり広さ二十畳はあるんじゃないかというリビングに座りこの人が入れてきたお茶を飲みながら一息ついていた。

 「まわりくどいですよ。簡潔にレンジほしけりゃ頼みを聞けって言えばいいじゃないですか。」

 「それじゃまるで私が無理強いをして君にものを命令してるみたいじゃないか。私は友人として君に頼みたいことがあるだけなんだよ。」

 「どちらでも変わりませんよ。それで頼みっていったい何なんですか?どうせやるしかないんですから早く教えてくださいよ。」

 「君は相変わらず小さい女の子以外には冷たいね。」

 「違います。僕は可愛い女の子に優しいんです。」

 「おや?私は可愛くないのかい?」

 そういってウインクをしてくるこの人は確かに可愛い。今は活発な年上のお姉さんに見える。だが、

 「あなた女性なんですか?」

 「さあ?どうだろうね。君にはどう見える?」

 「そうやって性別すらはぐらかすから扱いに困って結局雑になるんです。」

 「ひどいものだね。扱いに困るものはできるだけ丁寧に扱ったほうが安全だよ。」

 まあ私に関してはそれであっているけどね。と続けた。

 ちなみに、女の子は僕の隣で出されたオレンジジュースとケーキを食べるのに忙しそうだ。

 口の周りについているクリームをなめとってあげたい衝動に駆られるがさすがにそれはやばいと僕でも理解できているので自重する。

 「それで頼みたいことって何ですか?あまり疲れることはやめてくださいよ。僕にはこれから家に帰っても鬼に土下座して謝るというイベントがあるんで。」

 「相変わらず君たちは仲がいいね。」

 それはそうなのかもしれないけど、少なくとも今の僕にとっては憂鬱なイベントだ。

 「まあそれは後々君が頑張りなさい。それじゃ私の頼みなのだけど。」

 そこからは真剣な口調で語られた。

 僕はその内容に驚かざるおえなかった。

 何度も頭の中で今言われた言葉を繰り返す。

 言葉の意味を繰り返す。

 そして結論は変わらず出る。

 僕は携帯で時間を確認する。

 間に合うか?

 自分の中で自問自答が繰り返される。

 迷っている時間はない。

 こうしている今も時間は刻一刻と確実に世界を流れている。

 今の僕には一秒も時間を無駄にしてる暇はない。

 今すぐに僕はあの場所へいかなければならなかった。

 僕はもう決意を固めていた。

 行こう今すぐに。

 すべてが手遅れになる前に。

 僕は目の前の紅茶を飲み干し挨拶もそこそこに女の子と一緒に館を後にした。

 

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