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Beautiful bow  作者: 天猫紅楼
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兄と呼ぶな

それから数刻後、私も帰り支度をして帰路に着いた。

すっかり日も暮れて、夜空には三日月からこぼれ散らばったように無数の星が瞬いていた。 それを見上げながら大きく伸びをして歩きだすと、壁に寄り掛かっている人影が視界に入った。

「誰? ……ジーナスか、びっくりした……」

 ジーナスは、一人でそこに立っていた。

「そこで何やってんの?」

と尋ねると、彼は鼻の頭をこすりながら背中を壁から離した。

「何って……お前を待ってたんだよ」

「私を?」

 待っててなんて言ったっけ?と首を傾げる私から視線をそらし、ジーナスは夜空を見上げながら言った。

「ほら、さっきのこともあるし、もし残党がいたら、襲われるかもしれないだろ? だから!」

「あら! やっぱり私を心配してくれてるんだ?」

 私はいっぱいの笑顔でジーナスの顔を下から見上げた。 彼はふいっと顔を背けると歩き始めた。

「ほら、行くぞ!」

「へへっ」

 私は嬉しさに頬を緩ませ、ジーナスの背中を追った。

「久しぶりだね、一緒に帰るの!」

 私が言うと、ジーナスはちらりと視線を送って

「ああ」

と小さく答えた。

「小さい頃は、毎日一緒に帰ったもんね、ふざけあいながらさ!」

 私は、昔そうしていたように剣を振り下ろす真似をした。

「あーー、そんなこともあったな」

 ジーナスは、ポケットに手を突っ込んで笑った。 私は笑い返しながらクルクルと回った。

「本当に大丈夫か?」

「ん? 何が?」

「だからその……夜道が怖くて帰れねーとか……思ってたんじゃねーか?」

 私は思わず吹き出した。

「だぁいじょうぶよ! 毎日のように対決してる獣に比べたら、軽い相手だったわ!」

「……」

 ジーナスは思いがけず真面目な顔をして、クスクスと笑う私の頭をグイッと押さえると

「あんま、無理するなよ」

と小さく言った。 すぐに踵を返したジーナスの様子に、少し違和感を感じた。

「ジーナス?」

 その背中に言うと、ジーナスは大きく伸びをした。

「なんだ! 心配して損した!」

「ええっ?」

「俺、女の子の誘い断って来たんだぞ。あーーあ! 損した!」

 これみよがしに大きな声で言うので、私もさすがにカチンときた。

「損したとはなによ! 私だってジーナスの世話なんて要らないんだからね! 送ってくれなんて、頼んでないし!」

 私もそれなりに強くなったし、だから昼間の強盗だって退けられたんだ! するとジーナスも言い返してきた。

「そうだな! もうガキじゃねーもんな!」

「そうよ! ベーーッ!」

 舌を出してしかめっ面をする私に、ジーナスの眉がひくついた。

「お前……ムカつく!」

「お互い様よ! でも……」

 私は少しトーンを落として改まった。

「さっきはオヤジの剣の事ばかり言っていたけど、やっぱり私のこと心配してくれたの、嬉しかったよ。 お兄ちゃん!」

 するとジーナスは、ズイッと腕を伸ばすと、私の頬をギュッとつねってきた。

「お前っ! そんな風に呼ぶなっていつも言ってるだろうが!」

「ひははは(イタタタ)!」

 ジーナスは容赦なく、私の頬をグイグイと引っ張ると、

「分かったか?」

と言いながら、やっとその手を離した。 私は赤く腫れた頬を手でさすりながら涙目になっていた。

「送るのはここまで! じゃ、おやすみ!」

 突き放すように言うと、ジーナスは背中を向けて去っていった。

『すっかり忘れてた……』

 ジーナスは【お兄ちゃん】と呼ぶと極端に嫌がるんだ。 家族同然に生活していて、私から見たら兄のようなものなのに、ジーナスはそれだけはひどく嫌がった。

「俺とお前は家族みたいに育ってはきたけど、血のつながった兄妹じゃねーんだ! だから【お兄ちゃん】なんて呼ぶんじゃねーー!」

「【アニキ】は?」

「一緒だろーーが!」

 その口調から、キレた怒りではないというのは感じていたが、明らかにものすごく迷惑そうな様子だった。

『血がつながってないことなんて、分かってるのに……』

 デュクスやチョーナムは、【オヤジ】や【ジイ】と普通に呼ばせてくれるのに、ジーナスだけはそう呼ばれるのを嫌がった。 たまに口にすると、冗談でもこれだ……それにしても容赦無いなあ。

「ん~~もう……」

 ヒリヒリする頬をさすりながらジーナスの背中を見送ると、傍に立つ建物を見上げた。 あんなことを言いながらも、私の住むアパートの前まで、ジーナスはちゃんと送り届けてくれていた。

「素直じゃないんだから……」

 私は頬を緩ませながら、部屋の扉を開けた。

 もう私もジーナスも、オヤジたちと一緒に住んではいない。 数年前、それぞれに自立するために部屋を借りて別々に住むようになった。 炊事洗濯に掃除……一人で生活するのは大変だけど、とても充実した生活を送っている。

『ジーナスはちゃんと食べてるのかな?』

 昔から掃除も苦手な人だったから、もしかしたらゴミ屋敷かもしれないな。 そんなことを考えながら、昨夜の残りのシチューを温めた。

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