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Beautiful bow  作者: 天猫紅楼
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いざ、ヴェナトーネへ!

 その後数日間、私はベッドの上での生活を余儀なくされた。 怪我の事もそうだけれど、精神的なことも含めて、しばらく安静にした方が良いと言う医師やオヤジたちの判断だった。

 私が自分の生まれた経緯を知って、周りの人たちは随分心配をしてくれている。 だけど私は落ち着いていた。 夢の中で両親に会ったとき、心の中にはっきりと生まれた将来への想い。 私は負けない。 何故か、根拠のない自信があった。 それはきっと、今まで守ってくれていた仲間たちのおかげだと思う。

 幸い、私がベッドの上で退屈な時間を過ごす暇は無かった。 ジーナスは仕事の合間に会いに来てくれたし、ヨハネやサラマたちも見舞いに来てくれた。 テハノに至っては、泣きながら病室に入って来たかと思うと

「シエロごめんなさい! 私、何も知らなくて! サラマやカラタに言われた通りにしか動けなかったの! 苦しかったよね? ごめんなさい!」

と、まだ傷の癒えていない私の身体に抱きついてきたので、私はまた傷の痛みに耐えなくてはならなかった。 私はテハノの顔を覗き込み、その頬に流れる涙をそっと拭き取った。

「謝らなくていいのよ。 テハノは何も悪くないから。 これからも、よろしくね」

 私が微笑むと、彼女はほっとしたように笑顔を見せた。 

 やがて、カラタに付き添われて、ティスも見舞いに来てくれた。 彼女は恐る恐る部屋に入ってくると、言葉が見つからない様子で私の顔をじっと見つめた。 私がにこりと微笑み

「来てくれてありがとう!」

と言うと、ティスは小さく首を横に振ってそっと花束を渡してくれた。 そしてベッドの傍らに膝を着くと、私の手を握り、やっと微笑んだ。

「シエロ、元気になったら、また一緒に仕事しましょう」

と言うと、反対側に立っていたジーナスが、乱暴に私の頭を自分の胸に引き寄せた。

「ダメだぞ! 今度は俺と一緒に仕事するんだ!」

と息巻くジーナスに、ティスはくすっと笑った。

「そうか、やっと気持ちが通じあったのね」

と嬉しそうに頷いた。 ティスは私の頭をそっと撫で

「じゃあ仕方ないわね、私は引くわ」

と微笑んだ。

「当たり前だ! ティスにはカラタがいるだろ?」

と不機嫌そうなジーナスに、私は

「まあまあ」

と彼の胸を叩いて離れると、ティスに言った。

「また、この間のお店に連れて行ってよ」

「ええ。勿論よ」

 笑いあう私とティスに、ジーナスは地団駄を踏んだ。

「何? 何の話だ? 俺は、知らねえぞ?」

 それを見て私たちは笑いあった。

「内緒。 女同士で行く場所よ」

「何だよ何だよ! 俺も連れていけよぉ~~!」

 騒ぐジーナスの肩をポンポンと叩き、カラタが苦笑いをした。 それを見て、ジーナスは落ち着いたように息を吐き、私とティスの様子を見つめていた。

 ティスとは、今までよりもずっと、絆が強く結ばれたような気がした。 お互いに腹に傷は負ったが、私はこれでよかったと思っている。



 とりあえず、一つの事件は落ち着いた。 私が生きていく以上、かならずまた事件は起こるだろう。 けれど、今度は私は一人じゃない。 父さんと母さんが居るであろう空を見上げて

『私は大丈夫!』

そう伝えた。

 今になって改めて、【救えるさ。 みんなの命】と言ったオヤジの言葉の意味が分かる気がした。



 それから数日後、私は退院した。 まだ本調子ではなかったが、ティスが仕事に復帰したのを聞いて、私も遅れを取るまいと願い出たのだった。

「シエロはまだ寝てなさい!」

と諭すティスに、私は頑なに

「やだ! ティスと一緒がいい!」

と言い張ったので、とうとう医者も周りの皆も心折れたらしい。

「無理はしない」

の約束付きで、久しぶりに外に出た私は、思い切り伸びをした。 脇腹がつる痛みも、なんだか心地よい感じがした。

「すっかり体がなまっちゃったな~~」

 ぼやく私の肩を抱き、ジーナスがからかうように囁いた。

「俺が特訓しなおしてやるから、大丈夫だ! 安心しなって!」

「あーーすごい不安!」

と笑う私に、ジーナスは

「何だと?」

と眉をしかめた。 その眉を強引に指先で押し広げると、指で弾き、逃げるように走り始めた。 頬にあたる風が心地よかった。 生きている喜びとはこういうものなんだろうか? 

 不意に私の身体が浮いた。 すぐ横にジーナスの顔があった。 彼は私を抱き上げると

「言われたろ? 無理するなって!」

と心配そうな顔をした。 私は舌を出すと

「ごめん、つい!」

と笑ってみせた。 そのままジーナスは、私を抱き上げたままヴェナトーネへと走り始めた。


 流れる町の景色が昼下がりの陽にきらきらと輝いていた。 やがて見え始めたヴェナトーネの屋根の上に、誰かが居るのが見えた。 私たちを確認したように慌てて降りていくのを見て、私はジーナスに言って下ろしてもらった。 自分の足でヴェナトーネの門前まで行くと、門の前には何やら人だかりが出来ていた。

 ヨハネやカラタたち仲間たちが勢揃いしているなかから、ティスが駆け寄ってきた。

「これは一体?」

 戸惑う私にティスはにこりと微笑み

「おかえり、シエロ!」

と手を握って引っ張った。 人だかりの中に、オヤジとジイの姿も見えた。 オヤジの前まで行くと、私は改めてその顔を見上げた。

「おかえり! 待っていたぞ!」

 オヤジは、以前もそうしてくれたように私の頭にポンと手を置いて微笑んだ。

「また頼むぞ!」

 そう言うと、オヤジの後ろからサラマが顔を覗かせて言った。

「でも今日は休み! シエロのおかえり会だ!」

「えっ?」

「さ、シエロ! 行きましょう!」

 引かれるままにティスに連れていかれる私の後ろで、バンとくぐもった音がした。 振り返ると、オヤジがジーナスの背中を叩いたところだった。 思わず咳き込む彼にオヤジが何やら囁くと、ジーナスは途端に顔を赤らめてオヤジに何かを言い返した。 オヤジとジーナスがまるで兄弟のようにじゃれあう姿を、横で見守るジイ。 そんな様子を見ながら、私は心の中で感謝した。 私が今生きているのは彼らのおかげだ。

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