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Beautiful bow  作者: 天猫紅楼
15/31

新しい仲間たち

「ほら。 とにかく落ち着きなさい!」

 ティスは、自分の馴染みの店へ私を連れていった。

 薄暗いバーの奥のテーブル席に向かい合いで座ると、ティスは私のためにホットミルクを注文し、自分は何かカクテルのような名前のドリンクを注文した。

 程なくして私の前に差し出されたカップからは、甘い湯気が立ち上っていた。

 ティスに促されるままに、私はカップを手に取るとゆっくり口に付けた。 温かく程よい甘さのミルクが喉を伝わり、体を温めた。 やっと落ち着いた様子の私を、ティスは肘を付いて覗き込んだ。 小さなテーブルなので、二人の距離はとても近く感じた。

「で、一体何があったのか、話してくれる?」

 その優しい声に、私はまた心が砕けそうになったが、私の言葉を待ってくれているティスのために、少しずつ言葉を紡いだ。 ティスは、たまにしゃくりあげながら話すたどたどしい私の話をじっと聞いてくれた。 そして一通り伝えおわると、私はホットミルクを飲み干した。 ティスが、綺麗にリップの塗ってある赤い唇を少し開けたので、ティスの言葉を待った。

「ほんと、ジーナスくんも分かってないわね。 シエロの気持ち……」

 あきれたように言うティス。

「こんなに彼のことが好きなのにね」

「違うわよ! 私はそんなこと言ってない!」

 否定する私に、ティスは笑いながら手を振り

「いい加減に認めたら? 何人かにはもうバレてるんだし」

「バレてるって何がよ? 私はそんなんじゃな――」

 ティスは私の唇に、自分のグラスを押しつけた。

「いいの? ジーナスくんがアイカの所に行っちゃっても?」

 試すように細い目をして言うティスに、グラスを押し返した私は

「だから! ジーナスは、私のことは赤の他人だって言ったの! 家族っていうのも迷惑だって! もうアイツとは関係ないわ!」

と睨み返した。 ティスは少し驚いたようにしばたかせて、小さく息をついた。

「そう、分かったわ。 でも仕事はどうするつもりなのよ? あなた、ジーナスくんと一緒のパーティーじゃない?」

 その答えはもう決まっていた。 私はティスを真っ直ぐ見つめていった。

「私、ティスと同じパーティーに入るわ! 変えてもらうのよ!」

「本気?」

と言いかけて、私の真剣な眼差しに折れたティス。

「分かったわ。 じゃあ、変えてもらいましょう」

と、諦めたように肩をすくめた。



 翌日、まだ頭に包帯を巻いたままのジーナスは、元気よくヴェナトーネに顔を出した。

『タフな奴……』

 私は彼に気付かないふりをして、ティスとスケジュールの確認をしていた。 パーティーの変更はさっき済ませた。 オヤジは少し怪訝な顔をしながらもパーティーの変更を了承し、私が抜けた後の穴埋めをどうするかと聞かれたが、私には関係ないからとお任せした。 だから誰が入るのかもわからない。 でももうジーナスとは関係ないんだ。 アイツからしたって、嬉しいだろう。 私と離れられるのだから。

 私の横で、少し心配そうに見つめるティスに

「大丈夫よ。 私は強いから!」

と言うと

「そりゃ、シエロの強さは知ってるから、私たちとしては心強いけどねえ……」

とまだ納得しきれない風に苦笑していた。

「今日から一緒に仕事させてもらうわ。 よろしくね!」

 同じパーティーになる仲間たちに挨拶をした。 サラマもテハノもカラタも、突然のパーティー変更に最初は驚いた顔をしていたが、すぐに

「よろしく!」

と手を出してくれた。

「シエロが入ってくれたら、百人力だぜ!」

と満面の笑みを見せたのは、黒髪を一つに束ね、褐色の肌をしたサラマだ。 ショートの赤髪が印象的なテハノも嬉しそうに笑顔を見せ、カラタも

「一度は手合わせ願いたかった相手だ。 喜んで仲間に受け入れるよ!」

と、そばかすの散らばった頬を緩ませた。 皆、それまでの私のパーティーに次いで、実力のある人ばかり。 勿論ティスも、私に負けず劣らず実力はある。 私は新しいパーティーに心浮かれた。

 やがてティスと一緒に居る私に気付いたジーナスが、駆け寄ってきていきなり

「シエロ、お前なぁ! なんてことしてくれたんだよ?」

と怒ってきた。 

 どうやら昨日私が放ったのは焼き菓子だけではなくて、同時に生まれた爆風が部屋の中を踊り狂い、中にあった物が巻き上げられて散乱したようだった。

「あれから片付けるの大変だったんだからな!」

 そういうジーナスに、私は冷たい視線を投げた。

「あ、そう」

「『あ、そう』ってお前なぁ~~!」

 なおも近づいてくるご立腹なジーナスに、

「その片付けも、マイカが手伝ってくれたんでしょう? 良かったじゃない。 部屋も逆に綺麗になったんじゃない?」

とケラケラ笑うと

「おい! そこまで言うことないだろ? 俺はなぁ――」

『頭を怪我してるんだぞ! 少しはいたわれ!』

とでも言うつもりだったのだろうが、私は話の途中でティスの腕を取るとその場を離れようとした。 ジーナスは声を荒げて引き止めた。

「おいこら、シエロ!」

「もうあなたとは関係ないから。 じゃ」

 私は他人行儀に微笑むと小さく手を上げ、ティスを引っ張っていった。

「ちょ、ちょっと、いいの? ジーナスくん、びっくりした顔してずっとこっち見てるわよ?」

「いいのいいの! 気にしない!」

 私は、戸惑うティスをひきずるように、これからやっかいになるパーティーを乗せた馬車に飛び乗った。


 カラタが操縦する馬車は、軽快に走り始めた。 乗り心地は少し悪いが、流れる風に髪を梳くと、心まで洗われるようで気持ちが良かった。

「今日は西の森だよ!」

 サラマが楽しそうに言った。 ティスが

「西の森には美味しい果物がたくさんあるから、サラマはつまみ食い出来るのが嬉しいのよ」

と説明してくれた。

「そっか、サラマは食いしん坊なのね!」

と笑うと、彼は

「あそこの果物はホントに美味しいんだぜ! シエロも食べてみなよ!」

と一生懸命に説明してくれた。 それは私も知っている。 ジーナスがまだ熟していない果物を口にして、腹痛を起こしてたっけ。

「今度はちゃんと熟した果物を選ぶのよ!」

 テハノが眉をしかめた。 私の心を読まれたのかと驚いていると、

「サラマは慌てん坊だから、なんでも食べられると思ってんのよ!」

 少し吊り目のテハノは、呆れ返ったふうに空を仰いだ。 照れたように頭を掻いて苦笑するサラマにジーナスが重なり、思わず言葉を無くしてしまった。

「さぁ、もうすぐ西の森の入り口だよ!」

 カラタが荷台の私たちに声をかけた。 皆自分の武器を確認して手にした。

 今日の獲物は肥大化したネズミだ。 果物を食い荒らすだけにおさまらず、町にまで現れて被害を加えているという報告と退治の依頼があったのだ。

「ネズミって、小さくてすばしこいから苦手なんだけど、肥大化してるってことは、少しは動きが鈍くなっているのかしら?」

 ティスが、鳥肌の立った腕をさすりながら身震いするのを見て、私も頭の中で思い描いてみた。 森の木々の間を走り回る無数の巨大なネズミを思い描くと、私の背筋が寒くなった。

「勘弁してほしいわ……」

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