表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲は遠くて  作者: いっぺい
.
252/292

153章 映画『クラッシュビート・心の約束』、大ヒットする

153章 映画『クラッシュビート・心の約束』、大ヒットする


 2019年10月6日、日曜日の正午過ぎ。

まぶしい青空が見える、気温も26度ほど。


 下北沢駅西口から歩いて2分の、高田充希みつきの店≪カフェ・ゆず≫では、

映画、『クラッシュビート』の第2作目の『心の約束』の大ヒットを記念して、

雑誌の週刊芸能Fanファンの取材が行われていた。


「・・・この度たびは・・・、

『クラッシュビート』の第2作目の『心の約束』の大ヒット、ホントにおめでとうございます!」


 担当記者の、杉田美有すぎたみゆが、そう言って、みんなに微笑ほほえんだ。


 テーブルには、この映画の主人公のモデルとなっている川口信也や、

信也の彼女の大沢詩織や、この映画の原作者でマンガ家の青木心菜ここな

マンガ制作アシスタントの水沢由紀や、

この映画の主役的キャストの三人の子どもたち、

信也の子ども時代の役をしている、福田希望ふくだりく

希望りくの親友の役の遠藤優斗ゆうと、仲良い女の子の役の、白沢友愛とあもいる。

12歳や13歳になる、三人は、いまやちまたの人気スターだ。

そして、子どもたちの合唱団の先生役の沢口貴奈きながいる。そんな8人だ。


「今回の映画も、ほんと、楽しくって、見どころも満載だったのですけど。うっふふ。

わたしとしては、最初はいじめられ役だった、優斗くんに聞いてみたいことがあるんです。

優斗くんは、ご家庭が貧しいという設定もあって、仲間外れになりやすかったですよね。

でも、歌うことが大好きで、合唱団に入ることにして、すぐにみんなと打ち解けて、

仲良くなって、希望りくくんと、友愛とあちゃんとは、三人の大の仲良しになって。

映画の中では、友愛とあちゃんは永愛えまちゃんで、

希望りくくんは信也くん、優斗くんは真吾くんなわけですけど。

優斗くんの演技が、真意迫っていたというか、本当にかわいそうになってしまいました、

わたしは。あの演技の秘訣というものは、何かあったんですか?」


 記者の杉田美有みゆは、テーブルの真向かいにいる、優斗にそう聞いた。


「あれはですね。ぼくって、実際に、学校でも、みんなになかなか、

打ち解けられないっていうか、みんなとワイワイ騒いだり、盛り上がったりできない、

そんな内向的な一面があったんですよ。実際にちょっといじめの対象になったって、

感じた時期もあったし。いまは全然違いますけどね。あっはっはは」


「そうだったんですね。優斗くんは、繊細でナイーブなところが魅力的ですしね!」


「あ、ありがとうございます!そうなんですよ、ぼくって、変なところに気を使ったりして、

ナイーブなんですよ、ひとりで遊ぶのが好きだったりして。

いまじゃ、この映画に出たせいで、何事にも積極的というか、アクティブというか、

ずいぶんと変わっちゃいましたけどね。あっははは」


そう言って笑う、優斗の表情や目の輝きは、スターが持つオーラそのものだ。


「えーと、では、次のお話に移りますけど、今回の物語の最後は、

みなさん、合唱団で、美しいハーモニーで、楽しく歌っていても、

うまく歌えないで、合唱をやめようとする子どもたちもいたりしたじゃないですか。

でも、そこで、美しく歌うことよりも、自由に楽しく歌うことのほういが大切だって、

みんなで考えたりして、その結果、脱落しそうになる子どもたちも、

みんな帰ってきて、みんな笑顔の、大合唱団になっちゃうわけじゃないですか。

あのラストは圧巻というか、感動で、私は泣きっぱなしでした!」


 と言って、記者の杉田美有みゆは、ちょっとまた目を潤ませる。


「まあ、世の中って、美しいことも、楽しいし、大切だけれど、

それよりも、自由が大切だってことですよね。

どんな理屈や論理や価値観よりも、個人の自由が尊重されるべきなんですよ。

たとえば、どんなに世の中に通用しているシステムがあるとしても、

個人の自由は尊重されるべきなんですよ。

村上春樹さんも、エルサレム賞受賞式典スピーチの『卵と壁』 では、

小説を書く理由は、たった1つしかないと言って、

それは個が持つ魂の尊厳を表に引き上げ、そこに

光を当てることで、小説における物語の目的は、警鐘を鳴らすことだ、

って言ってますもんね。

日本民芸館を設立した思想家の柳宗悦やなぎむねよしは、

『美の法門』という著作で、『自由になることなくして、真の美しさはない』

って言ってますよね」


 川口信也が、笑顔で、テーブルのみんなをゆっくり見ながらそう言った。


「わたしも先生役ですけど、撮影中も、子どもたちからは、学ぶことばかりなんです。

ホント、子どもたちって、自由そのものなんですから・・・」


 子どもたちの合唱の先生役の沢口貴奈きながそう言った。


 テーブルのみんなは、明るく笑った。


☆参考文献☆


1. 【全文版】卵と壁 ~村上春樹氏 エルサレム賞受賞式典

https://ameblo.jp/fwic7889/entry-10210795708.html

2. 声に出して読みたい日本語 人生を祝祭にする言葉  斎藤 孝 草思社 


≪つづく≫ --- 153章 おわり ---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ