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雲は遠くて  作者: いっぺい
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112章 芸術と自然は、人間をまともなものにする

112章 芸術と自然は、人間をまともなものにする


 7月2日、土曜日。朝から青空で、日中の気温は31度と、真夏のようだ。


 午後2時を過ぎたころ、川口信也は、下北沢駅南口の改札付近で、

清原美樹みき小川真央まお岡昇のぼる南野美菜みなの4人と、偶然に出会った。


「あらっ、しんちゃん!」


 最初に信也を見つけた美樹が、満面の笑みで信也に声をかけた。


「よーぉ!美樹ちゃん、真央ちゃん、美菜ちゃん、岡ちゃん。こんなところで会うとは!あっはは」


 信也はそう言って、いつものように、さわやかに笑う。


 信也は、バリカンで刈り上げて、てっぺんは長くても2センチほど、前髪は6センチほどで、

夏向きのリーゼントに決めていた。午前中にカットしたばかりだ。1990年生まれの26歳。


 5人は、シティー カントリー シティ (CITY COUNTRY CITY)で、お茶をすることにした。


 その店は、南口から歩いて1分のビルの4階にある、パスタもおいしい、カフェ・バーだ。


 店では、中古アナログ・レコードやCDなども販売している。

すべての中古レコードは、設置してあるターンテーブルで気軽に楽しめる。


 美樹と真央と美菜の3人は、1992年生まれ、同じ24歳だ。

3人は、早瀬田わせだ大学を卒業すると、去年(2015年)の4月から、

信也も課長をしている外食産業のモリカワ本社に入社した。

モリカワは、連結決算も、900億円と、順調の優良企業である。


 岡昇は、1994年12月5日生まれ、まだ、21歳。早瀬田の商学部の4年生。

大学のサークル、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)の会計をしている。

美菜は、そのMFCで結成したロック・バンドのドン・マイのヴォーカルをしている。岡は交際中だ。

そのMFCでは、信也や美樹たちも、バンドを組んで、楽しくやっていた。


 5人は、「5人用のテーブルがないじゃん」とか言って笑いながら、

店のスタッフにたのんで、4人用の四角いテーブルに、椅子を1つ足してすわった。

店内は、正午の開店から18時までは禁煙になっている。店の席数は15席だった。


 みんなは、セットメニューのアップルケーキとコーヒーとかを注文した。


「おれ、この店、好きなんですよ。レコードを自分でかけてけるし、

ライヴやお芝居のチラシが置いてあったり、下北しもきたらしいですよね!しんさん!」


「岡ちゃん、おれのことは、しんちゃんで、いいんだって。しんさんじゃぁ、語感も変だし。あっははは」

岡ちゃんも、下北が大好きなんだから、来年の就職先は、モリカワに決まりだよな。

おれも、純も、推薦するから。入社を待ってますよ、ね、岡ちゃん」


「こちらこそ、よろしくお願いします。しんちゃん!

おれも、大学を卒業したら、モリカワに就職したいっすよ。

社員の音楽とかの芸術活動に理解がある、そんな環境のいい会社って、なかなかないですよ。

それに、本社に就職できれば、しんちゃんや純さんや、美樹ちゃん、真央ちゃん、

美菜ちゃんとも、一緒なんでしょうからね!うれしいなぁ!あっははは」


 岡はそう言って、天真爛漫てんしんらんまんに笑うと、みんなと目を合わせた。


「モリカワは、芸術活動支援の慈善事業のユニオン・ロックの効果で、

世の中に優良企業のイメージが広まっていて、

すごい追い風の順風満帆じゅんぷうまんぱんなんですよ。

うちと、竜さんのエタナールは、数少ないホワイト企業って呼ばれてますからね。あっははは」


 信也は、そう言って、どこかいたずらさかりの子どものように、笑った。


「岡ちゃん、モリカワに入って、一緒にお仕事しましょう!」


 美樹が、そう言った。みんなは、明るく笑った。


 岡が、「ありがとうございます」と言って、ちょっと頭をかいた。


お客の女の子が、アップした女性のひとみがジャケットの、

B’zの、『LOVE PHANTOM』(ラヴ・ファントム)の中古のシングルCDを試聴して、

その曲が店内に流れる。


「あぁ、わたし、この歌好きなの。愛はまぼろしなのかしら?って考えさせられる歌詞で、

小説のような深い内容よね!」と、小川真央まおが言った。


「B’zは、いいわよね。稲葉さんの声は素敵すてきよね。

特に、稲葉さんのシャウトは、わたしのお手本にしたいの」


 南野美菜みなはそう言う。


「美菜ちゃんの歌も、十分に素敵な声ですよ。

でも、この『LOVE PHANTOM』は名曲ですよね。

しんちゃんの新曲の『子ども的段階の賛歌』も、

8ビートと16ビートの複合のリズムで、『LOVE PHANTOM』に似た感じですよね」


 岡は、信也にそう言った。


「そうかな。『LOVE PHANTOM』は、おれのより、アップテンポで、

ロックとクラシックが見事みごとに融合されている名曲だよね。

松本さんのアーミングやタッピングも決まっていて、最高のプレイだよね」と信也は言った。


「しんちゃんの『子ども的段階の賛歌』も、名曲よ。わたし大好き!

わたし、しんちゃんに聞きたかったんだけど。

やっぱり、みんなが平和に幸福に暮らしていくためには、

子どものころの気持ちを忘れては、ダメってことなのかしら?」


 美樹が信也にそう言った。


「おれ、子どもたちを、極端に美化するわけじゃないんですけどね・・・。

たとえば、この自然界には、もともと善や悪という考えがないように、

子どもたちは、何が善で、何が悪かも、自分で判断できない、

自然児というか野生児のような存在ですからね。

だから、悪いことをする子どももいるわけですけどね。

そんな子供たちの成長には、親や社会の愛情とかが必要なんですよ。

でも、子どもって、やっぱり、その心というか、魂は、無垢むくというか、

けがれがなくて、清浄なんだと思うんですよ。

ですから、子どもたちの感性や感受性は、鋭敏えいびんで、ゆたかで、

自然の中で、自由にのびのび、楽しく遊ぶことに夢中になれるんですよね。

いわば、子どもたちには、芸術家や詩人の資質がもともとあるんでしょうね。

そんな子どもたちが、大人おとなになって、平和で楽しい社会を作っていけたらいいなと、

おれは空想してしまうんですよ。あっははは。

大人になっていくと、いろいろな迷妄めいもうに、人は迷い込むものですよね。

あやまった考えを、真実と思いんだり、信じ込んだりで、

なんか、違うんじゃないのっていう感じの、大人が多すぎますよね。あっはは。

まあ、そんな迷妄から、子どもたちやみんなを守る、考え方をしていかないと、

明るい未来は実現しないような気がするんですよ。あっははは

そう言えば、ノーベル賞の大村智さんは、『芸術と自然は、人間をまともなものにする。』

と言っていますけど、おれも、自然と芸術、この2つだよな!とよく思うので、

さすが大村先生だなあって、名言だなあって、共感するんですよ。あっははは」


 みんなに、信也はそう語った。


・・・美樹ちゃんも、陽斗はるとくんと、うまくいっているようで、幸せそうだ、よかったぜ・・・


 微笑ほほえむ美樹を見ながら、信也はそんなこともふと思う。


≪つづく≫ --- 112章 おわり ---


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