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雲は遠くて  作者: いっぺい
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107章 信也と裕子、愛について語り合う

107章 信也と裕子、愛について語り合う


 時はさかのぼって、2月28日の日曜日、午後2時を過ぎたころ。


 川口信也と落合裕子は、下北沢駅西口から歩いて4分、

カフェ・MOGMOGの2人掛けのテーブルで向かい合っている。


 MOGMOGは代田5丁目、客席20席の、完全禁煙の、

こだわりの焼きたてパンケーキが人気で、温かな家庭的雰囲気の可愛らしいカフェだ。


「このお店で、しんちゃんと過ごすのも、1年ぶりくらいよね」


 裕子は明るく微笑んで、信也にそう言った。


「そうだよね。あのおときは、偶然、下北しもきたの駅の改札で会ったんだよね」


「あれから、もう1年が過ぎるなんて、月日の流れって、早過はやすぎるわ」


「そうだね」 


 信也は、優しい眼差しで、裕子にそう言った。


 ふたりは、同じ、レモンのホットティーを、まず注文した。


 川口信也は、1990年2月23日生まれ、26歳。

早瀬田大学、商学部、卒業。下北沢にある外食産業の株式会社モリカワの本部の課長。

大学時代からの、ロックバンド、クラッシュ・ビートの、ギターリスト、ヴォーカリスト。

作詞や作曲もしている。


 落合裕子は、1993年3月7日生まれの22歳。

落合裕子は、信也の友達の新井竜太郎の会社でもある芸能事務所、クリエーションの、

新人オーディションに、最高得点で合格した才女で、ピアニスト。

現在、裕子は事務所を移籍して、

祖父の落合裕太郎の芸能プロダクション、トップに所属していて、テレビやラジオの出演も多い。

去年の1月頃の、クラッシュ・ビートのアルバム制作から、

キーボード奏者として、バンドの演奏に参加している。

クリエーションに所属している信也の妹の美結とは、同じ22歳でもあり、無二の親友である。


「わたし、クラッシュ・ビートの音楽活動を、お休みさせていただこうと考えているの」


「そうなんだ。裕子ちゃんは、いま、お仕事が、だんだんと増えて、大変だよね」


「そんなことは、あまり関係ないんだけどね。しんちゃん」


「・・・・・・。わかっているよ、裕子ちゃん。おれも、どうしたらいいのか、わからないんだよ、

いまの、おれたちのこの状況を・・・」


「わたしも、つらいのよ。だから、このまま、クラッシュビートで、純粋な気持ちで、

キーボードの演奏活動は続けられないっていう気持ちになってきているの」


「そうだよね。裕子ちゃんその気持ちよくわかるよ。

おれも昨日きのうのなんか、ねむれなくて、

ベッドから飛び出して、深夜の街をぶらぶらと歩いたんだよ。

星空がやけにきれいだっだよ。星を見ていたら、涙が出てきちゃってさ。あっはは」


「えーっ、しんちゃん。星空見て、泣いちゃったの!」


「うそだよ。そんなことないよ。深夜はまだ寒くって、

それで、涙腺るいせんゆるむんだよ。あっはは」


「あっ、しんちゃん、きっと、本当に、涙出ちゃったのよ。あああっ。うっふふ」


「ま、そう言いうことにしておこう。あっはは。

深夜に、カラフルなネオンにさそわれて、行きつけのバー(BAR)に入ったんだ。

そのバーのマスターは、アメリカが好きで、陽気で楽しい人なんですよ。あっはは。

実は、おれ、昨夜は、君のことばかりを考えていいたんですよ」


「本当に!しんちゃん。それだったら、わたし、うれしい。

あそうか、それで、星空見て、わたしを思って、泣いてくれたのね。うれしいわ!うっふふ」


「うん。まあ、そういうことにしておきますよ。おれも、裕子ちゃんのことは、大好きなんですから」


「ありがとう、わたしも、しんちゃんことが大好きです」


「でもね、裕子ちゃん。おれ、それだからって、どうしたらいいのか、わからないんですよ。

人が人を好きになるとかの、愛って、何なのだろうとか、

どうしたらいいのだろうとか、考えだしたら、何が正解なのか、わからなくなるんですよ。

おれの考えている、愛とかが、わからなくなっていくんですよ。裕子ちゃん」


「しんちゃんは、まじめなのよ。いい加減な人なら、

衝動的に、浮気なんて平気でするものよ。そして、

動物的な本能なんだから、しょうがないとか言って、自己正当化するのよ」


「おれだって、裕子ちゃんのことは好きだから、そんな気持ちになることもあるよ。

でも、それじゃあ、自分の考えている愛だとかが、その場だけの、

自分の都合で、ころころと変わっていく、筋道の通っていない、

めちゃくちゃな、矛盾むじゅんしたものになってしまうんですよ。」


「しんちゃんは、まじめなのよ。それがまた、しんちゃんのステキなところだけど。

簡単に『愛している』とかって言われても、わたしは信じられないもん。うっふふ」


「あっはは、そうだよね。愛とか、そのほかの言葉でも、

簡単に大切な言葉を、人は口にするけど、

なかなか、その言葉を信用できない、

なぜか、そんな世の中になってしまっているよね。あっはは。

でも、それにしても、人を好きになるって、時にはつらくなることもあるんだね、裕子ちゃん」


「そうよね。でも、愛って、それが、本当のもので、美しいものなら、辛くても、

きっと、幸せなのよ。ねえ、しんちゃん」


「そうだね。おれは、裕子ちゃんの幸せを、いつも願っているよ」


「わたしも、しんちゃんの幸せをいつも願っているわ」


 信也と裕子は、んだひとみで、微笑ほほえみ合った。


≪つづく≫ --- 107章 おわり ---


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