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雲は遠くて  作者: いっぺい
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8章 美樹の恋 (その6) 

「わたし、おみくじ、きたい」


「じゃあ、おれも、おみくじ引こうかな」


つないだ手はそのままに、

ふいに、くちびるがはなれると、

美樹みき陽斗はるとは、そんな話をして、わらった。


それから、ふたりは、

あからんだ、おたがいの顔に、

おかしさが、こみあげてきて、

いっしょになって、声を出してわらった。


神社の桜の木のそばのベンチで、

はじめてかわしたキスは、

ふたりには、まるで夢の中の、

物語でも見ているような、

現実感の希薄な感覚であった。


ベンチの上には、ときおり、

春のらされながら、

あわいピンクの花びらが舞い落ちる。


ふたりには、時間が止まったような、

神社の境内の風景だった。


祈祷済きとうずみの、お札やお守りや絵馬えま

おみくじなどを頒布している授与所じゅよじょへ向かって

ふたりは、ぶらぶらと歩き始めた。


神社の入り口の、神域しんいき

シンボルの鳥居とりいや、

本殿ほんでん拝殿はいでん

参拝者さんぱいしゃが、

手や口をきよめる場所の、

手水舎てみずやなどの建築は、

朱色しゅいろで統一されている。


赤い色は、魔除まよけの色であり、

命や生命力の象徴の色であった。


そのあかは、あけと呼ばれて、

まさに神聖なおもむきがあった。


鳥居とりいのすぐそばに、

ひさしの大きな、黒塗りの屋根の、

手水舎てみずやがある。


小さな男の子と女の子をつれた、

5人の家族らしい参拝者が、

柄杓ひしゃくで、水をすくって、

手を清めたり、うがいをしていた。


ここ、下北沢・神社は、

交通安全や災難などの厄除やくよけや、

ふくをもたらす神様かみさま

商売繁盛はんじょうの神様、

縁結えんむすびの神様などで、

地もとには有名であった。


「わたしんちも、はるくんちも、いえの宗教が、

神道しんとうだなんて、

やっぱり、なにかの、ごえんね、きっと・・・」


「そうだね。きっと。神道って、

教祖きょうそも創立者もいないし、

守るべき戒律かいりつも、

明文化めいぶんかしてある教義きょうぎもないじゃない。

めんどうくさくなくって、いいよね」


「そうそう。むずかしくないところが、わたしも好き」


そういいながら、ふたりは、5人の家族連れのいる

手水舎てみずやの横道を歩いて、

石垣いしがきかこまれた高台の上のある

本殿ほんでん授与所じゅよしょかった。


ときおり、かすかにそよぐ風が、ふたりには、

やさしい感触かんしょくで、心地ここちよかった。


神道しんとうって、日本では、古来からあって、

大昔おおむかしからあったじゃん。

自然が神さまっていう、自然崇拝すうはいの思想だよね。

ちかごろじゃ、人間は、自然をこわして、

自分の欲望のままに生きいるけど。


おれ、大昔の人間のほうが、優秀つーか、偉かった気がする。

自然をとうとび、崇拝すうはいするっていう点では。


自然の中の生命のいとなみや、動物や植物とか、

山や森や海や岩とかにも、神の力を感じて、

おそれ、おののいたっていうからね。


現代人は、自然を征服せいふくしたつもりでいるけど、

どちらの考え方が正しいのだろうね。美樹ちゃん。

おれは、古代人のほうが正しいと思うよ」


「わたしも、古代人かな。はるちゃん、すごいよ。

哲学ばかりじゃなくて、宗教もくわしいんだね」


「宗教も、思想だからね。興味があるんだよ」


「ふーん」


≪つづく≫ 


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