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雲は遠くて  作者: いっぺい
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75章 バッハの話に熱中の信也と詩織

75章  バッハの話に熱中の信也と詩織


 3月22日、日曜日。春らしい、おだやかな風の吹く、青空である。


川口信也と大沢詩織は、行きつけの、下北沢西口から歩いて1分の、ケーキと喫茶の店、

TiSSUEティッシュで、チーズケーキや、かぼちゃのケーキを食べながら、くつろいでいる。


 TiSSUEは、信也の2つのマンションからも近い、明るい店内には、

本がならんだたなもあって、家庭的で可愛かわいい内装だった。


「しんちゃん、できたばかりの、『TRUE LOVE 、PART 2』、聴かせていただいたけど、

よかったわよ。感動しちゃったわ。うっふふ。さすが、しんちゃんって感じ・・・」


「あ、あれね。ありがとう。詩織しおりちゃんにそういってもらえると、うれしいよ。あっはは。

でもね、あの歌はね、うちの美結みゆちゃん、利奈りなちゃんに聴いてもらったんだけどさぁ、

歌詞に、マザー・テレサという、カトリック教会のシスター(修道女)を書いたものだから、

ポップミュージックとしてとか、商業的にはとか、ふさわしくないんじゃないかとか、

二人には、けっこう言われちゃったんだよ。あっはっは」


「そうなの。でも、きっと、お兄ちゃんのことが心配で、好意的にいろいろ言ってくれたのよ。

美結ちゃんも、利奈ちゃんも、とても気持ちのやさしい人たちですもの。

マザー・テレサさんって、やっぱり心のやさしい人で、

長い間、献身的なお仕事を続けていらして、ノーベル平和賞を受賞したんでしょう。

インターネットで調べてみたの」


そういって、詩織は、育ちのいいお嬢さまといった、どこかいつも上品な瞳を細めて、

信也に微笑んだ。


 ・・・詩織のミディアムヘア、長すぎず、短すぎず、かわいい・・・、と信也は、ふと思う。


「おれてってさ、バッハのことが気になってね。バッハって、あの、G線上のアリアとかで、

有名な、ヨハン・ゼバスティアン・バッハなんだけどね。

彼は、18世紀のドイツで活躍した人で、65歳の人生だったんだけど、

それまでの音楽を集大成したりして、西洋音楽というか、現代音楽というか、

現在ある音楽への道をひらいた天才だったんだもんね。

ベートーヴェンは、バッハの芸術のことを、大海のように、果てしなく、広く、深いと言っているけどね。

しかしまた、バッハのまだ生きていた時には、いまほど評価はされていなくって、

作曲家というよりも、宮廷や教会のオルガンの演奏家だったり、聖歌隊の指導者だったらしいけどね。

おれが、不思議に思うことというのが、なぜ、バッハがあのような偉大な芸術家になれたのか?

現代人が聴いても、感動的な作品を創造できたのか?というようなことなんですよ。

そんなことを考えていたら、バッハは、やはり、神への信仰が深かったわけでしょうから、

おれも、ふと、神さまっているのかな?とか考えをめぐらしてしまうわけですよ。あっはは。

そんなわけで、つい、歌詞に、マザー・テレサとか書いちゃったんだろうね」


 そういって、やさしい眼差しで語りかける、信也の表情を、うっとりとながめる詩織である。


・・・しんちゃんって、ロックミュージシャンなのに、知性的な容姿なんだから。

それなのに、野生さもあるんだから。いまに、芸能界で大ブレイクしちゃったり、

・・・と詩織は、信也に見とれながら、ぼんやりと思う。


「・・・そうなんだぁ。確かに、バッハの、G線上のアリアとかって、そのモチーフ(主題)は、

神さまやキリストのような感じですものね。

しんちゃんも、そのうち、神さまを信じるようになったりしちゃったり。うっふふ」


「そうだよね。バッハみたいに、美しくって、人々に愛され続ける、

永遠に残るような作品を創造できるのなら、神さまを信じるかもね。あっはは」


「うっそー!しんちゃん」


「な、わけないって、詩織ちゃん。あっはは。

おれって、なかなか、神さままでは信じられないよ。実際に見たりしない限りね。あっはは」


「よかった。それで安心。わたしも、信仰心って、希薄なのよ。うっふふ」


「まあ、おれも、一生、信仰心は薄いんだろうね。詩織ちゃんと同じさ。それでもいいじゃん。あはは。

でもね、バッハのことを調べているうちに、わかったこともあるんですよ。

やっぱり、バッハという人の中には、いわゆる『愛』っていうものが、

それこそ、ベートーヴェンが言うように、

果てしなくて、広くて、深いものとして、あったんだんだろうってことを思うんですよ。

そんな大きな『愛』が、バッハの芸術を、大海のように、美しい、生命力のある、

いつまでも人に感動を与える、すばらしいものにしているんだろうってことですよね」


「そうよね。しんちゃんの言うとおりね。愛の力よね。愛の力って、偉大よね。

それに、バッハの曲を聴くことって、歌の創作には、とてもいいことだと思うわ。

だって、たとえば、ハードロックのディープ・パープルのギターリストのリッチー・ブラックモアだって、

バッハやクラシック音楽から強い影響を受けていて、バッハの曲のコード進行を、

ハイウェイ・スターとかに使っているらしいもん」


「そうだね。バッハって、ロックに通じる人なんだよね。ロック魂の元祖かもしれないなぁ。あっはは。

なぜならね。バッハの生きていた時代には、マルティン・ルターという、偉大な宗教改革者がいたんだよね。ルターは、当時の腐敗の進行するカトリック教会と対決し、宗教改革の立ち向かい、

聖書のドイツ語訳を完成させたりしたんだよね。そのルターの魂を受け継いだ一人が、

バッハだったというわけなんだよね。脳科学者の茂木健一郎さんも、

そんなことを『音楽の捧げもの』っていう本に書いているんですよ」


「わたしも、その本は持っているわ。茂木さんって好きだな。やさしくって、愛のある人よね。

茂木さんって、音楽好きよね。やっぱり、クラシックが1番好きなのかしら!?

私たちの音楽も、好きになってくれると、うれしいわよね、しんちゃん」


「うん、そうだね」


 信也と詩織は、目を合わせて、楽しそうにわらった。


≪つづく≫ --- 75章おわり ---


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