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雲は遠くて  作者: いっぺい
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63章 第2回 モリカワ・ミュージック 忘年会 (2)

63章 第2回 モリカワ・ミュージック 忘年会 (2)


 ステージでは、オープニングとして、

沢秀人さわひでとの指揮で、総勢30名以上のビッグ・バンド、

ニュー・ドリーム・オーケストラによる、ヨハン・シュトラウス2世が1986年に作曲のワルツ、

『美しく青きドナウ』と『芸術家の生活』が演奏されている。


 沢は、レコード大賞の作品賞の受賞や、テレビドラマの音楽を制作などで、

売れっ子のユニークな音楽家で、事務所はモリカワ・ミュージックに所属している。


 1973年8月生まれ、41歳の沢は、1013年の春までは、このライブハウスの経営者でもあった。


「Jポップもいいけれど、こんなクラシックも、ステキだわ。特に、わたしはこんなワルツは大好きなのよ!身体からだが自然に動いて、踊りたくなっちゃうわ!」


 優美に流れる、3拍子の舞曲に、清原美樹は右隣の席の姉の美咲にそういい微笑ほほえむ。


「みんなで、踊っちゃおうかぁ!?」と、ワインにほろ酔いで、いい気分の美咲。


「でも、おれ、ワルツとかって、ぜんぜん踊れないんだ!今度習っておこうかな!あっはっは」


 そういって、美樹の左隣にいる、美樹の彼氏の松下陽斗はるとはわらった。


「日本は、まだまだ、ダンスカルチャーの後進国かも知れないのよね。ねえ、岩田さん」


 そういって美咲は、左隣の席の、美咲と交際している岩田圭吾けいごに微笑む。

美咲と岩田は、美咲の父の清原法律事務所で弁護士をしている。


「日本では、いまだに、60年以上も前の、1948年に作られた風俗営業法をもとに、

ペアダンスとかを、厳しき規制しているのが現状なんですよ。

取り締まっている警察では、規制の理由を、『男女の享楽的雰囲気が過度にわたるとか、

風俗や環境を害するとか、少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがある』とか、

いっているんですけけどね」


 岩田は、落ち着いた声で、優しく目を輝かせて、みんなを見ながら、

ちょっと困ったような顔で、そう語った。


「ヨーロッパやアメリカとか、外国では、ペアダンスは文化なのにね!

外国人からのお客さんたちは、日本でダンスが禁止されていることには、

びっくりするんだって、六本木のクラブのオーナーもおっしゃっていたわ」


 そういって、岩田と目を合わせる美咲。


「ダンスカルチャーを守ろうってことでは、呼びかけ人として、音楽家の坂本龍一さんや、

作詞家の湯川れいこさんとかも、活動しているそうですよね」


 美樹や美咲たちのテーブルの向かいの席にいる川口信也がそういった。


「わたしも、坂本龍一さんたちがやっている、Let’s DANCE署名推進委員会には、

共感しちゃうわ。Let’s DANCEのホームページには、『憲法が保障する、

表現の自由、芸術・文化を守ってください』ってあるけれど、

ダンスを踊る自由って、いまの日本には、無いようなものですものね!」


 美樹はテーブルの向かいの信也と、ちょっとのあいだ、見つめ合った。


「60年前に作られた風俗営業法も、いろんな犯罪の防止のために作られたらしいけどね、

なんていったらいいのだろうね、自由や芸術や文化を守ってゆくためには、

いろいろな悪と戦うことも必要なのかなって、思っちゃうよね。あっはっは」


 持ち前の楽天さで、信也はそういって明るくわらった。


「でも、しんちゃん、なんで、世の中には、悪いことをする人と、正しく生きようとする人と、

戦い合っていかなければ、いけないんでしょうね!これじゃまるで、

勧善懲悪のバトルの、エンドレスのような映画の連続だわよね。

そんなことを考えていると、わたしって、すごく悲しくなっちゃうんだけど」


 信也の左隣の大沢詩織が、信也を見つめながらそういった。


「だいじょうぶよ。詩織ちゃん、あなたには、正義のヒーロー、しんちゃんがいるじゃないの!」


 テーブルの向かいの美咲がそういって、詩織に微笑んだ。


 「そうよ。詩織ちゃん、みんなで、いっしょに、がんばりましょう!」


 美樹がそういいながら、明るくわらった。


 「おれが、正義のヒーローですかあ。まあ、いいや、

まあ、コツコツと無理はしないで、楽しく、みんなで、

力を合わせて、がんばっていかなくっちゃ。あっはははは!」


 信也がそういって、またわらった。みんなも声を出してわらった。


 忘年会の中盤からは、モリカワ・ミュージックのミュージシャンたちのオン・ステージもあった。


 後半は、大抽選大会が行われた。1等の5万円が3本、2等の3万円が4本、

3等の2万円が5本、4等の1万円が7本、5等の5千円が10本というもので、

当選者の発表されるたびに、明るい歓声やわらい声が上がった。


≪つづく≫ --- 63章 おわり ---


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