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雲は遠くて  作者: いっぺい
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33章 新井幸平の誕生パ-ティー (2)

33章 新井幸平の誕生パ-ティー (2)


「良さん、そうなんですか。個人の中に、馬と騎手がいるという比喩ひゆって、仏教の開祖の釈迦しゃかもいっていますものね。釈迦しゃかは、騎手が馬をよくらして、よく手なずけるように、おのれの神経や感覚器官を静めて、高ぶりを捨て、汚れの無くなった人、このような人は神々でもうらやむっていう言葉を残しているそうです。わたしもそんなブッダの言葉はとてもよくわかる気がするんです。仕事に追われたりして、感情的に興奮したり、取り乱した状態って、心にも体にもストレスとなって、良くないですもの。いつも楽しい気持ちや、晴れやかな気持ちでいるように努めることって大切ですよね」


「そうですよね、美咲さん。楽しい気持ちや晴れやかな気持ちかあ。ぼくも大切にしたいと思います。心が乱れていては、仕事の出来もいいわけがありませんよね。心にも体にも害になるだけでしょうし。脳の生理学者のマクーリンは、こんなことをいっているんです」


 そういって、両手を使って説明を始める森川良に、同じテーブル席にいる、美咲の左隣の清原美樹と小川真央と、森川良の右隣の松下陽斗はると野口翼のぐちつばさの5人は、聞き耳を立てるように集中する。


 先日の3月9日の日曜日に、住宅街にある一軒家のモアカフェ(moiscafe)で、フロイトの心や精神の話をした美樹と真央は、その日、店におくれてやって来たきた陽斗はるとつばさたちとも、その話で大笑いしたりしながら盛り上がったのだったが、きょうはその話にくわしい美樹の姉の美咲に会えるのだから、もっとくわしいフロイトの話を、直接聞いてみたいものだと、4人はなんとなく思っていたのであった。


「マクリーン博士は、人間の脳は進化しながら、3つの層に分かれているっていってますよね。片手で、にぎりこぶしを作ってみます。そして、もう一方の手で、その上から握りこぶしを包みこみます。これが脳の三層のモデルです。下になっているほうの手の手首が、原始的な脳の脳幹のうかんを表します。

脳幹は、生命維持に重要な機能の中枢部であります。脳幹は感覚神経や運動神経の通路にもなっています。いわゆる本能的な反応をつかさどります。具体的には、呼吸や心臓の鼓動などを維持したり、危険をすばやく察知したりする、原始的な本能をコントロールしています。誰かにあまりにも近寄ちかよられると怒りや不快感を覚えるのは、この爬虫類脳によるものなんです」


 そういって、テーブルのみんなを、森川良は微笑みながら見わたす。


「良さんって、学校の先生みたいですよね」と、思わず美樹がいうと、みんなで声を出してわらった。


「ははは。美樹ちゃんにそういわれると、照れちゃうな。さて、そして、その握りこぶしが、大脳辺縁系だい のうへんえんけいといって、大脳皮質のうちの、旧皮質、古皮質からなる部分を表します。大脳辺縁系は、本能的行動や情動や自律機能や嗅覚をつかさどっています。いいかえれば、ホルモンのシステムや、免疫システムや、セックスとか、感情とか、それと長期記憶などの重要な部分を担っています」


「フロイトの説の、イドと呼ばれる本能と、エゴと呼ばれる自我じがと、スーパー・エゴと呼ばれる 超自我があるいう、3つの分類に似ているお話ですよね」


 そういう美咲に、りょうも、やさしく目を輝かせながら、微笑ほほえむとうなずいた。


「そしてですね、この脳幹と大脳辺縁系の握りこぶしを包んでいるこの手が、大脳新皮質を表しています。この大脳新皮質は、大脳皮質のうちで、哺乳類ほにゅうるいで出現する部分です。カメとかワニとかトカゲやヘビなどの爬虫類はちゅうるいにはありません。大脳新皮質は、人間の知的活動に関与していると考えられている部分です。大脳新皮質はとても人間的な脳なわけでして、論理的思考や数学的思考や哲学的な思考などの、いわゆる知性を、人間の知的能力を司ります」


 そんな話をしながら、熱心に聞き入っているみんなを見わたすと、森川良は、ひと息入れた。


≪つづく≫


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