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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

続編のない短編達。

私の幸せは私が決める。

作者: 池中織奈

 主様は素晴らしいお方であります。それでいて私の全てであるお方です。

 もとは孤児だったらしいのですが、今では街の郊外に大きなお屋敷を持っているほど成功していらっしゃるのです。

 光ある場所には影があります。闇があります。

 そして、栄光という光の影で主様はいつも動いています。賭博、暗殺といった裏稼業。合法とされていないものにしろ、主様はその強さと頭脳を使い成功していらっしゃる素晴らしい方なのです。

 この世界では珍しい艶のある黒髪は、不吉だと思われる方が多いようですが、私からすれば美しいとさえ思います。それに闇というのはまさに裏稼業を牛耳っている主様にぴったりなのです。黒というのは、闇の色なのです。ですから主様に相応しい髪色なのです。

 主様の目は緋色であります。その目の色の美しさといったら、見つめる度にドクドクッと鼓動が増して、息が止まるほどです。

 主様は全体的にひどく美しい方なのです。美しくも強くある主様の傍に居られるなんて私は何て言う幸せ者なのでしょう。


 私の望みは、どうか主様、私の生がある限り私を傍に置き、お使いくださいというただそれだけなのです。





 「はっ、マジふざけんなっ!!」

 その日の主様はあらぶっておられました。苛立ったように鋭く細められた目にぞくりっとした感覚が走って、体がぶるっと震えた。恐ろしいと思うと同時に、美しいと思うのです。

 周りの人間が主様を恐ろしい、怖いという時ほど、私は主様の美しさを実感します。

 そこは、主様の仕事のために設けられた広い部屋の中です。赤い椅子に腰かけたままいら立ちを見せている主様の他に、私のように主様に仕えている侍女の姿がちらほら見られます。

 主様のお屋敷の侍女服は白と黒の生地で作られた、対して他の家の侍女とも変わらないものです。ただし、主様の物の証として仕えるものたちは首に《服従の首輪》というものをつけられています。

 私はこのような服従を強制するものなどなくても主様に逆らう気など全くもってありえないといいますのに、と付けられてから数年経ちますが未だに悲しく思われます。私は元から主様に服従しておりますし、服従を強制されるような痛い目にあったことはありません。他の侍女の中には愚かにも反発して、酷い目にあったとも聞きますが、私からすればどうでもいいことです。

 元々奴隷であった私は主様と出会い、買われた時から主様のもの。主様さえ、いればそれで私は生きていける。他の誰がいなくなろうとも、ただ一人私の仕えるべき主様がいるならばそれだけでいいのだ。満足なのだ。他は欲していない。

 他の侍女たちは脅えている時もあるけど、私は違う。はやく私は違うってわかってもらってこの首輪外してもらいたい。でも主様の証が首に付けられているってのは酷く幸福だ。

 「リーファ」

 「はい。何用でございますか。主様」

 主様の呼びかけに私は迅速に、主様の元に駆けよって言葉を発す。

 「うざったいネズミが居る。そいつに賭博や人身売買を悉く妨害されている。不審な人物を見かけたら殺れ」

 「かしこまりました」

 主様の命令とあらば何だってやり遂げてみせよう。私は主様の忠実な僕。

 私は主様にきっちりと頭を下げる。


 さて、主様の命令を実行いたしましょう。




 ****************


 あたりはシンと静まり返っている。周りに人の気配はない。主様のお屋敷の廊下を私はあるく。床には赤い絨毯が引かれており、壁には所々に装飾品が飾られている。

 此処は二階建のお屋敷の一階。ちょうど裏口のある調理場の近くだ。

 ふと、気配がした。私はそれに笑った。

 侍女服のスカートの中に手をいれて、あるものを引きぬく。それは切れ味のよいナイフ。私がいつもスカートの中に隠しているもの。

 足音を立てずに動く中で、主様のいっていたネズミを一匹が視界に入る。この家のものではない。さて、殺りましょうか。

 私は気配を殺して、気付かれないように移動するそいつの背後をとる。

 そしてそのまま後ろからナイフを首にあてて、そのまま首を切断した。

 血が飛び散る。悲鳴を上げる暇もなく死んでいったそのネズミ――一人の男。主様は殺せとおっしゃった。捕える必要は一切ないのだ。

 血を被らないように殺したのだから、侍女服には一切血は被っていない。地面が血で濡れてしまっているからそれは、きっちりと処置しなければならないけれども。

 

 ああ、主様はこれでほめてくださるだろう。

 私の心には殺したことに対する感傷など一切ない。ただ感じるのは主様にほめてもらえるというその喜びだけだ。 





 ****************

 

 翌日、私は主様の部屋に報告に来ました。一人の侍女が主様に蹴られていましたが、愚かにも主様に逆らおうとしたのだとそう納得し私は淡々と報告を告げます。

 蹴られていた侍女や周りの侍女が恐怖で震えている様子ですが、そんなのはどうでもいいことです。

 「よくやった」

 ただそれだけ主様が告げます。でもたったそれだけの言葉が、私を幸福にしてくださるのです。

 主様の声は私にとって神の声にも等しいのです。主様の言葉や行動の一つ一つが私にとっての全てであって、他に変えられないものなのです。

 「一匹のネズミねぇ…。警備はちゃんとしてたはずだから誰かが招き入れたか」

 「では、内のネズミも殺して構わないでしょうか?」

 びくっとその時、侍女の何人かの肩が震えました。それに対し、私と主様が見逃すはずがありません。

 震えた数名が、一気に悲鳴をあげます。《服従の首輪》の効果でしょう。電撃が流れるそうなので、そういうのになれてなどいない侍女には苦痛でしょう。

 今震えた中には無関係の人間もいるでしょうが、少なからず外の人間に何かしら働きをかけた人間がいるのでしょう。

 思わず、頬が緩みます。そうすれば、まるで恐ろしいものを見たとでも言う風に何人かがこちらを脅えたように見ています。

 私は悲鳴を上げている数名に迷わずに近づいていきます。

 「ひっ」

 「こ、来ないで!」

 「悲鳴を上げるのはよしなさい。煩いですわ。主様の耳がお穢れになります。それよりも答えてくださいませ。あなたたちは外の人間に何か情報でも与えたのでしょうか」

 ポケットにいれていた針を目に突き立てるようにしていえば、必死になって彼女らはいう。

 「わ、わ私は本当に何も知りません!!」

 「私も、し、知りません!」

 「本当にです?」

 問いかければ勢いよく頷く。まぁ、いいです。解放してあげましょう。他数名は…、見事に青ざめておりますね。おそらく何か外にお屋敷の情報でも流したのでしょう。

 「覚悟はできてますよね?」

 にっこりとほほ笑んで私はその面々に近づいた。

 主様はそんな私と、青ざめて震えている侍女を面白そうに見ていた。


 見せしめでもしましょうか。主様に逆らったらどうなるか。


 その日、私は情報を聞き出すとさっさとその侍女たちを始末した。





 ****************


 情報を集めた所によると、主様の邪魔をしているのはアルツという正義感の強い男何だそうだです

 悪い事はやってはいけない、という台詞をいつも言っているらしいのですが、この世界が綺麗事で全て片付くとでも思っているのでしょうかと私は呆れました。

 やっている行動といえば山賊退治や、好き勝手な貴族を証拠を集めて訴えたりするなどの所謂善行と呼ばれるものです。

 500年ほど前に魔王と呼ばれる存在を倒したとされる勇者の末裔らしく、大層正義感にあふれていて、人助けをしているだそうです。

 主様の仕事の邪魔を悉くしているのは、正義感が強いのに加え、女子供に優しいという性分なためなようです。侍女の人間が縋ったらしくその男は『そんなの最低だ。助ける』と言い放ったそうです。

 そもそも何が不満なのでしょう? 確かに逆らえば主様は残酷な方でしょうが、衣食住はきっちり出来てるというのに。

 元々私と同じ奴隷であったはずの方もかなりの数が居るでしょうに、奴隷生活と比べれば断然快適だと思います。私は幼少の頃に奴隷となり、コロシアムと呼ばれる奴隷の戦士達の殺し合いに参加させられて生きてきた人間だ。負ければ死ぬとわかっていたから、ずっと戦い続けた。

 私が人間に迫害されている魔族と呼ばれる種族と人間との混血児であり、戦闘能力が人間以上に高かったからこそ生きてこられた。この力を主様のためだけに使えるというだけで、主様の役に立たせることが出来るというだけで私は満たされるのです。

 それにしても、と思う。

 情報を流したり、色々してた侍女の情報によるとそのアルツという男は『そんな男につかわれてるのが可哀相だ』だの『皆助けてあげる』だのいってたらしい。それに優しいのは女子供によく発揮されるらしが、弱い男もいるだろうにそれはどうするのだとでも聞きたくなります。

 そもそも主様に仕える幸福を、可哀相などと言われるのは不愉快です。

 それに女子供であろうと得物さえあれば、油断さえあれば一人の人間を殺すなんて事はたやすく出来る。だって人間は脆いものです。

 それを女子供だからという理由で信用しきっているらしいので、何とも滑稽なのです。裏切られたことがないのか能天気なのかはわかりませんが、主様の邪魔をするというならば徹底的に殺してさしあげましょう。

 

 私はそれを思って笑った。殺して、そして主様にほめてもらおう。



 ****************


 主様が出かけている間に、そのアルツと仲間達がやってきました。

 本当にめざわりな事です。でも、丁度良いです。わざわざ私の前に来てくださったのでしたら殺してみせましょう。

 主様のこのお屋敷に勝手に足を踏み入れるという無礼を働いておいて、ただですむと思ったら大間違いなのです。

 「アルツ、まだ侍女の子いた」

 仲間のうちの赤髪の女性が声をあげます。男にも見えますが、体格を見る限り女性でしょう。それにしても仲間5人全員女とはどういう事なのでしょうかね?

 この愚かなアルツという男と一緒にいる侍女は全員主様から逃げる気なのでしょうか。所有物の分際で。

 それにアルツはただの泥棒ではなくて? と思います。奴隷というのは主人の所有物であり、一種の財産であります。それを不法侵入しただけではなく、強奪するなんて真似を仕出かそうとしてといて正義感が強いなどと失笑ものです。

 アツルと一緒にいる侍女達は震えています。私の顔を見て、ただ、うつむいて震えるのです。

 それにしても侍女だけとはどういう見解なのでしょう。調理場で働く男達や、執事と呼ばれる面々はいません。男だからでしょうか。同じ立場なのに女しか連れだす気はにってどんな偽善なんでしょう。

 「どうして震えてるんだい? 大丈夫、俺は強いから悪い奴なんてやっつけるから」

 金髪碧眼の、アルツが笑いかけます。強い、なんて自分で自称しているだなんてその時点で笑いそうになります。それに強いというなら、どうして今油断しているのでしょう?

 「ほら、君もこっちに来て」

 アルツが声をかけます。私はポケットの中に手をつっこんで、ポケットの中の針を確認します。そしてアルツ達の方へと歩きます。赤髪の女性と距離が近くなった時、私は行動しました。

 勢いよく針をその女の目に向かってまず投げました。両目に深く針が刺さります。

 「いやぁああああああ」

 悲鳴が響く。目を押さえて痛みに暴れる女なんて気にしません。何が起きたか全く分からないという様子で固まったアルツ達にそのまま向かっていきます。

 まずは壁にたてかけられていたモップを勢いよく投げました。避けられないであろう侍女のいる方に向かって敢えて。だってそうしたらどういう行動に出るかわかるのです。

 アルツは予想通り剣を構えて侍女を庇いました。

 その間に私はアルツの仲間達に向かっていきます。赤髪の女は目の痛みで動けないので、どうでもいいでしょう。そのうち出血多量で事切れることでしょうしね。ついでに赤髪の持っていた長剣は拝借して置きました。

 修道服を着た神官であろう女の首を長剣でかっ切ります。

 貴族らしい高級な服を身につけた女の手首を切り落とします。

 そばかすの顔が特徴的な背中に弓矢を抱えた女の体を切断させます。

 ナイフを構えた女の攻撃を避け、背中から勢いよく刺し殺します。

 それで終了です。何てあっけない。戦いの素人とも言える女をこの場に連れてくるあたり何て言う楽観的な男なのでしょう。

 ちらりっと、固まっているアルツを見ます。

 「な、何でこんな酷い事を!! まさか操られているのか」

 愚かだ、とただ実感しました。操られてなければこんなことをするはずないと思っている所に失笑します。

 そもそも主様は人を操るなんて真似はしません。荒事は信用できるものか、金で雇ったものにやらせるか、自分でやる方です。侍女を戦いのために操るだなんてそんなバカな真似しません。侍女は、私は例外ですが戦闘さえも知らない人達が主です。《傀儡》とう魔法は確かにありますが、強いショックによりそれは効果を失います。

 侍女にさせたなら、きっと血を見た瞬間、誰かを殺した瞬間、効果を失うでしょう。

 「酷いことというならば、主様の所有物を強奪しようとしたあなたも悪人なのです」

 「な、洗脳でもされてるのか…? 可哀相に!!」

 「黙ってください」

 思わずいら立ちに長剣を、アルツへと向けました。

 「私の幸せは私が決めるのです。どうして、あなたに可哀相などと言われなければならないのです」

 そういって近づいてくる私に、アルツは警戒したかのように剣を構えます。でも、遅い。

 「とりあえず、不愉快ですから、死んでもらいます」

 そして私はアルツの首を、一瞬で剣ではねのけた。


 女5人もアルツも死んだ。

 侍女が目の前で私を見て震えてる。

 殺しはしませんよ、まだ。あなたたちの処遇は主様が決めるのですから。

 私はそれを思いながらも恐怖で固まりきっている侍女たちを放置して、死体の処理を目の前でし始めるのだった。



 ****************


 その後の事を話しましょう。侍女たちは徹底的に拷問という名の教育がしなおされました。切り捨ててもよかったようですが、あらたに雇うか買うのも面倒だと主様がおっしゃられましたのでそうなりました。

 教育は私に一任されたので、きっちりと、主様の素晴らしさをたたき込んであげました。

 ちなみに言うと執事や調理人達はほとんどが殺されていました。何でも生き残りの証言によると、『悪人の味方だから殺していい』と虐殺まがいの事を行ったようです。悪人の味方は誰でも殺していい。ただし女子供は例外という事だったのでしょうか。死んでも不愉快な男です。

 そのため執事達を調達しに色々と少し忙しかったです。主様の命令ですから、別に苦ではありませんが。

 「リーファ」

 「何用ですか。主様」

 あの男は、私を可哀相なんて言ったけど、私は幸せで、どうしようもないほど満たされている。

 ただ、主様が私の名を呼び、私を傍に置き、私を使ってくださるというただそれだけで。

 幸せです。幸福です。満たされてます。他に何も要りません。そんな言葉じゃ表せないほど、私はただ幸せだ。


 ――――私の幸せは私が決める。

 (誰が何て言おうと私は主様に使われるだけで幸せです)

リーファ

元奴隷侍女。魔族と人間の混血。身体能力とか色々と卓越してる。

茶髪に黒眼。主様に絶対的忠誠をささげている。


主様。

かなり色々しまくってる自由きままな人。人身売買とかもしてる。


アルツ

何だか正義感強い勇者の末裔。



勢いで書いてしまったという…。

客観的に見て不幸でもそれを幸せと思う人っていると思うんですよね。

結局考え方も性格も、人それぞれ違いますしね。



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― 新着の感想 ―
[一言] ストイック過ぎて惚れる
[一言]  短編なのに、中身の詰まった良い作品だと思います。 幸せの価値は、人それぞれですもんね。  これからも、頑張って下さい。
[一言] 何かの本で読んだのだが…… 某貧困国のスラムで少年少女を束ねて酷使していた男を逮捕したら、その少年少女達が『なぜ逮捕するんだこのクソ役人』と、一応正義の側にある筈の治安関係者に猛抗議したんだ…
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