第二十章、思い出8
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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恵美が急に感情的になり、「私が死ねばよかった、そうよ..私がいけないのよ#!」
そう言って、立ち上がり、気が狂った様に、廊下をフラフラ歩き出した。
その時、斉藤も立ち上がり、恵美の前で立ちはだかり、張り倒した!
斉藤は恵美の両肩を持って、ゆすりながら、
「ばかやろー#! お前だけの問題じゃないだろ!お前だけ責任かぶってどうするんだ#!」。
小百合、「そうよ恵美! 誰が悪いと追及したら、皆なよ!私達も香菜ちゃん甘やかしてきた。
最初は、誰にでも遠慮がちな香菜ちゃんを、私達が天使と称えて、
我がままになる様、仕向けたのよ#!」。
真、「それに連れて香菜ちゃん書いた歌。俺達が曲を付ける事で、全国ヒットする。
増してや、アルバムも売れ行きが上々だと、
元を作っている香菜ちゃんを、疎かに出来ないから..」。
大崎、「昔、俺もそうだった。何で人は、事が起きてしまってから、事の行いを見直すんだ。
何度も自分の体験を話して、少しでも解ってもらおうとしても、
結局自分自身が体験しなければ、本当の意味なんて伝わらないのか..」。
そう言って大崎は、椅子から立ち上がり、ここから去って行った。
一時安置室では香菜が聡の胸の中に、わずかながらまだ温もりが残っている箇所に、
顔を埋めて、楽しかった頃を思い出していた。
一瞬で駆け抜けた青春の思い出。初めて出会ったときめき。
聡のおどけた顔。悲しい思い出を癒しあった一時、
何より自分が絶え間なく愛され、強く抱かれてきた日々。
一つ一つの思い出を、かみ締めて行ったのだった。
その時、最初に出逢った時の話を思い出した。
(俺は..二十日くらい前、校舎の屋上で落雷に遭ったんだ。
それから..十日間意識不明。 気が付くと誰もしゃべっていないのに、
そこに居るみんなの声が、脳裏に走るようになって..。
ま~長所なんだか短所なんだか、よく分からないのだけどさ~)。
そして、あの夏の一時を思い出した。
(もし..、神の定める日が来た時、俺達二人で、天から降り注ぐ稲妻に身を捧げような..)
この空間に居る時間がどのくらい経ったのだろうか。仲間達は誰も、時計を見る事をしない。
秋子、何も言わずスッと立ち上がり、「様子見てきます」。
そう告げると、安置室に向かった。
階段を下りて、地下にたどり着くと、冷ややかな空間が辺りを包んでいた。
角を曲がりまっ直ぐで薄暗い廊下に、一つの部屋のドアだけが開いていた。
それは紛れも無く、安置室だった。
秋子は嫌な予感が走った。急に廊下を駆け出し、開いていたドアの部屋を覗いた。
覗いてみると、二人の姿が無くなっている。ただ白い布だけが床に落ちていた。
秋子は焦りながら、皆が居る二階のナースステーションに走り出した。
その時、香菜は聡を肩に背負い、エレベーターの中だった。
エレベーターの扉が開くと聡を抱え、屋上のに繋がる最後の階段を上って行った。
聡は両足裸足のまま、香菜は階段を一歩一歩踏み出す。
その時、踏み出した右足が、階段から滑った。すると右足の靴が脱げた。
脱げた事など構いもせず、必死に聡を抱え階段を登りきると、
聡を抱えたまま、厚く重たい扉を開けた。
空は澄んでいた、街の明かりと星空が輝いていた。
そして聡を、屋上の中央付近に座らせた。
香菜は首にしていた、十字架のリングを金網に巻いた。
香菜は跪き手を組み、心の中で神に祈りを継げた。
(助けて下さい!助けて下さい!聡君をお願い..お願いです!)
跪き顔を天に向け、手を組み祈りを天に捧げた。
星空を見上げる香菜、眼を瞑り涙が溢れ出す。
その涙が頬を伝い下に落ちると、街の明かりが香菜の表情を、薄っすらと照らしていた。
神はまるで香菜の行いの罪を、”いたしからん#!”と、告げている様な空模様だった。
香菜は自分の罪を心の中で参照し、神の許しを求め、天に向かって神に告げていた。
しばらくすると澄んだ空から、”ゴロゴロ”と、小さな音が聞こえてきた。。
急に澄んでいた空から、この屋上を雷雲が包み出して来た。
雷音が次第に大きくなって行く、すると香菜は組んでいた両手を強く握り締めた。
ぱらぱらと、大粒の雨が屋上に落ちてきた。
急に大粒の雨が、屋上めがけて、降り注いだ。
びしょ濡れになる二人。
香菜は祈り続けた。
雷雲は豪雨と共に鳴り響いた。
その頃仲間達が、病院内を看護婦と医師達と共に探し回っていた。
何気なく小百合は、病院の廊下からぼーっと、窓の外の状況を眼にしていた。
嵐の空模様が目に入った。その時、二月の悪夢を思い出していた。
聡が浩二の胸座を掴み、睨み合い、自分がびしょ濡れでその二人の行方を、
恐怖と共に感じ、そして聡の叫んだ言葉が蘇った。「
きにいらねーんだったら、止めてやるよ#!」。
小百合は窓を見つめながら、目を見開き、叫んだ、「屋上よ!」
静まり返った病院内に、その声が響き渡った。
屋上では秋の冷たい雨に打たれ、金網に巻きつけられた十字架から、雨の雫が滴り落ちていた。
イナズマが”ピカ!”っと光った直後、雷音が鳴り響く。
あの時の様に…
最後の祈りを天に向かって心で告げた。
(私はどうなっても構わない、私の身代わりに、聡君を助けて!)
その瞬間!ピカっと、十字架に稲妻が走った。
十字架から火花が飛び散った。
パンと言う鈍い音と共に、リングから切れて稲妻の光に輝き、宙に舞った。
それと同時に二人は、倒れこんだ。
“バタン”と、うつ伏せに倒れこんだ二人の頭の前に、光り輝き宙を舞いながら、
”カラン”と黒く焼け焦げた十字架が落ちた。
数分の時が流れた。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




