第二十章、思い出5
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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それから一週間が経ち、仲間達が忙しい合間の寛げるひと時が訪れた。
目的は一段落、聡と香菜が街に出た。
渋谷駅を後に、今日は朝から香菜の機嫌が悪い、それは、たわいも無い理由からだった。
聡は連日続いた、新曲の打ち合わせと、レコーディングで疲れていたため、
香菜が自分の部屋で、寝ていた聡を起こしたが、なかなか起きてくれず。
結局遊びに行く約束の時間から、三時間過ぎてしまった。
それはなぜか、メジャーの場合インストロメンタルは先に作り、後からボーカルを入れる。
従って香菜はスタジオでギターを引き、それをテープに録音。
後は小百合引き入るスタッフ達が、曲に色んな味付け楽器を入れMIXして行く。
ボーカルは最後に出来上がった曲に入れる。
その時、色んな案を入れながら、レコーディングを何度か繰り返す。
最終的にリスクを伴うのは、聡であった。
香菜はすでに、一方的な自分の欲求を満たす事だけに慣れて行った。
聡、「仕方ないだろ# 昨日寝たの、朝の四時だぜ!」。
香菜は聡の話など聞き耳を持たず、膨れていた。
聡はその香菜の表情に、いささか頭に来ていた。
香菜、「はとひふん、ほひへふへはいはは、ひはいへいは、ほんへへひへはい#!」
(聡君、起きてくれないから、見たい映画混んでいて見られない#!)。
聡、「悪かったって!今日は土曜だし明日も休みだ。
昼間は新宿タイムズスクエアー辺りで遊んで、池袋で飯食って映画夜にしようぜ?」
香菜は聡の顔すら、見ようとはしなかった。
聡、「しょうがないだろ!#レコディーング済ませなきゃ、新曲出せないだろー!」。
香菜、「ほへほ、はえほあ、へふはほん!」(それと、これとは、別だもん!)
香菜は一人で怒ってそそくさ、渋谷駅の道路を挟んで向かい側の、歩道橋を渡り映画館に、
歩いて行ってしまった。
聡はため息を付き、しょうがなく香菜の後を追った。
映画館の前に来て見ると、思ったとおり大勢の人が、映画館の前に佇んでいた。
香菜はそれを見て、より不機嫌だった。
後ろを振り向くと、聡が佇んでいた。
香菜はふて腐れていた。
聡は仕方なく、香菜の手を引いて、その場から立ち去った。
聡と香菜は、109前の横断歩道を渋谷駅に向けて渡った。
ハチ公前で香菜が急に立ち止まり、「わはひ、かへう」(私、帰る)。
聡はついに、頭に来て、「勝手にしろよ#!」と、繋いでいた香菜の手を離し、
ハチ公前の交差点を渡ろうとした時、すでに信号は赤に変わっていた。
聡はわき目も振らずに、横断歩道を歩き出した瞬間、
加速して来た車にドンと言う音を立て跳ねられた。
聡はその反動で、引いた車のフロントガラスに、
頭部を強く殴打し、フロントガラスはクモの巣状に大きくひびが入り、
そのまま車のボンネットに、体ごと乗せられる様な形で、
急ブレーキを掛けられ止まると、聡はボンネットから転がり落ちた。
頭から血を流して横たわる聡。香菜はその一瞬の出来事に立ちすくみ、うろたえた。
そして横たわる聡に駆け寄り跪き、「はとひふん、はとひふん」(聡君、聡君)。
体を揺する、まったく反応が無い。
香菜は悲鳴の様に、名前を呼び続け、聡の体を揺する。
”はっは”と、辺りを見回すと、人々がその周りを囲んでいた。
どうする事も出来ず、跪き頬を聡の胸にあて、泣きじゃくるしかなかった香菜。
香菜は今置かれている現実意識が、襲い掛かかるのであった。
その車を運転していた、若い男性が車のドアを開け、
ふて腐れて、ぶつぶつ言いながら出て来た。
だがその、聡の姿を目の当たりにした時、
急にうろたえ、体がすくんで言葉が出ない。人々が周りを囲んでいた中から、
スーツ姿の三十後半くらいの男性が駆け寄り、
香菜の前にしゃがみ、「動かしては、ダメだ!」。
そう告げると、上着のポケットから携帯を取り出し、「あーもしもし、東京渋谷区ですけど」。
数秒間を置き、「あ..もしもし、東京救急本部ですか?ええ、そうです救急です。
渋谷東口ハチ公前で、十代後半の男の子が、横断歩道で車に跳ねられたみたいで、
頭部から血を流し、横断歩道で倒れています。はい急いで来てください」。
男性は携帯をポケットにしまうと、香菜を落ち着かせようと、「動かしたら危険だから」。
そう言われると香菜はじっと聡の胸に頬を寄せて、聡の腕を持っていた。
涙が聡の胸に落ちていた。
救急車が到着すると、頭が動かぬよう、頭に固定する器具を取り付け、
聡はストレッチャーに乗せられ、慎重に車内に運ばれた。
救急車の中で、聡にすがり付いて離れない香菜を強制的に、救急隊員は引き離す。
(救急渋谷から、救急本部…)
(本部どうぞ..)
(患者は一名男、渋谷東口の交差点で、交通事故にあった模様)
(本部了解、状態はどうだ)
(頭部を強く強打した模様で..大量の出血有り。意識無し、呼吸無し、CPA)
(本部了解)
(病院OK取れましたので、搬送します)
(本部了解)
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




