第三章、待遇3
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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聡は、何食わぬ顔をしながら、「今日、浩二の家に行くよ..」。
そう告げて立ち上がり、教室を出ようとしたその時だった。(行くなよ...)。
その脳裏に走った言葉で一瞬、足が止まる。
聡は後ろを振り返ると、真が自分の机の所で、佇んで自分を見ていた。
真はその時初めて今、聡がどんな境遇に置かれて居るか、気づき始めた。
そして、小さな声で呟いた。
「お、お.ま.え..」。
そう囁くと、寂しそうな眼差に変わる聡を、真は目にしていた。
真は聡を佇みながら、見送っていた。
浩二のアパートで..
聡は一度も浩二の家に、立ち寄った事が無く、ただ自宅の場所だけは聞いていた。
世田谷区に在る隣接している団地、そこの5号棟224番と言う心覚えだけで向かう。
団地にたどり着くと、建物に大きく書かれた番号を探すと、
1棟、2棟、順番に数字が描かれていた。
そこの5号棟を目にすると、ため息を付きそこに向かう。
その棟の一階の入り口に、備え付けられていた、
郵便ポストを目にする。2-224そこに鈴木と書かれていた。
聡はそれを確認して、二階に上がる。
200番から順番に、部屋を追って行きながら歩いて行くと、
表札も何も掲げられていない、ただ2-224とドアに書かれているだけの部屋に辿り着く。
戸惑いながらチャイムを鳴らす。
聡は下を向いたまま、家人が応答するのを待っていた。
一~二分の時間が流れたであろう反応が無い、再度チャイムを鳴らしてみる。
..また反応が無い。
仕方なく玄関扉を、二~三回軽く ”ドンドン”と、叩いた。
すると向かって、右隣の住人がドアを開けた。
若い女性がドアノブを持ったまま、片手で子供を抱いて顔だけ出して、
「鈴木さんなら、先週引っ越されましたよ..」。
聡は「へ..?どちらへ...」。
「ええ、自分の実家に帰るとかで、無くなった息子さんの位牌を手に、
下の娘さんと、出て行かれましたけど..」
聡は、「あ、そうですか....」と、頷き帰ろうとした。
「あの~...」、聡は後ろを振り向き、立ち止まった。
「鈴木さん.、息子さんを無くされたのですよね?
かなり精神的に病んでいたみたいでしたけど..突然の事故で
なんと申し上げて良いか..私も返す言葉を失ってしまって」。
聡は俯き静かに、「そうなのですか」。
住人の女性、「ええ、『なぜ息子だけが..』と、仕切りに」。
子供をあやしながら、聡に告げた。
聡は、「解りました、有難うございました」と、
軽く頭を下げて帰ろうとしたその時、女性がぽつんと呟いた。
「聡君が犠牲になれば、良かったのに..」。
その時、聡の足が止まった。
そして、また後ろを振り向いた。
女性は聡を、その本人だと把握した様子で。
「そう言ってましたね..息子さんが無くなった後、何時も..」。
聡はまた軽く頭を下げ、そこから俯きながら静かに去っていった。
階段を降り、この棟の入り口にたどり着き外に出た。
すると「聡!」と、自分の名を呼ぶ声がした。
振り向くと、真が遠くで佇んでいた。
聡はそれを見て、ゆっくり真の方に歩いて行き、真の前に佇んだ。
真、「なー..少し話しようぜ、あそこで..」と、この敷地内の小さな公園を指差した。
聡は真に連れられて公園に向かうと、二人はベンチに座った。
まだ肌寒い季節に二人は、制服のズボンのポケットに手を入れながら、下を向いていた。
しばらくこの二人に、沈黙時が流れる。
さりげなく真が呟く、「押し切れば良かったんだよ..」。
聡が覚束ない眼差しで真の方に顔を向けると、真は遠くを見つめながら、
「俺さーお前入れるの反対だったんだよ」。
聡はその時、振り向きながら俯いてた。
真が何気にガムをポケットから出し、聡に勧めると聡はその一枚を貰った。
そして真が、「俺たち中坊の時から、バンド組んでいたの、知っているよなぁ.」。
聡が俯きながら頷く。
真、「最初は俺達なー、楽器なんか出来ないくせに..
形ばっかで、リズムは皆なばらばら、一番ひどかったの浩二...」
その時、聡は俯きながら苦笑い。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。