第十二章、デビュー4
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。
親父、「お前が退院して来て直ぐだったなー?
俺が家で飯食っていた時だ。お前、俺が何にも言わないのに醤油、俺に渡して..
俺は、(さすが家族!言いたい事を把握している!)と、思ったのさ。
そしたら俺を見たろー、『ばかじゃねー?』って顔して。
俺は..読まれている様な気がしてならなかった。不思議に思い何も言わず、
心の中だけで、(きゅうす取ってくれ!)そう思ったら、
お前テレビ見ながら、俺にきゅうす渡しやがって!」。
聡、「お袋には..内緒にしといてくれよ..」。
親父、「ばーか!考えろ#。お袋に言って、お前の状態を把握したら、
お前を特別扱いするぞ!、そうしたら、お前が辛くなるだけだろ。
まだお前は若い!いや若過ぎる..。大人になれば、そうなっても知らぬ振りして、
気づかれない様にするが、それを感づかれるお前は、まだ若いな..」。
父親は香菜に、「すげーの見つけたな!やったな..へへ」。
そう言って、香菜の頭を撫でた。
香菜は、下を向いてしまった。
すると父親は、「こいつ、大事にしろよ、香菜ちゃんが聡を愛している事、
今の顔でよーく解ったが..いつかそれが当たり前になった時!
香菜ちゃんの大事な心の友は、居なくなるぞ!」。
香菜は聡の父親の顔を見て、頷いた。
父親が、「聡!」。呼ばれると聡は、浮かぬ顔して、「何だよ~!」。
父親、「この子は、きっと過ちを犯す。その時、自分の感情だけに流されるなよ!」。
聡、「何だよそれ~?」。
親父は、爪楊枝で歯の隙間の食べかすを取りながら、
「過ちは人の定めさ!悔やむ事で大きくなって行く、
でもな、この子を見ていると、不幸にさせたくなくてな..
ま!酔っ払いの戯言だ。さー二人とも飯食えよ!」。
そう言って、部屋を出て階段を下りて行った。
聡は香菜に、「ごめんな、あんなオヤジで..」。
香菜は微笑み首を振って、聡の脳裏に、(お父さんの言う事、守るよ..)
聡は苦笑いをして香菜に、「夕飯、食べようか!」。
呟くと香菜は、肩からギターのベルトを外して、ベッドの脇にそっと立掛けた。
そして聡は香菜の手を引いて、階段を降りて行ったのだった。
台所に行ってみると、テーブルには刺身、から揚げ、焼き鳥、コロッケ、サラダ、など、
居酒屋の単品で頼んだような、おかずが並べられていた。
父親はテーブルの椅子に座り、ビールを飲みながら、
テレビで東京ドームの、巨人戦の開幕試合を見ていた。
父親は、「遠慮しないで、食べてきな!」。
聡は椅子を引いて、「こっちに座りなよ」と、
父親が座っている、向かい側の椅子を引いて座らせた。
そして聡も座らせた、香菜の隣の椅子を引いて座った。
すると、母親の桂子が台所にやって来た。
桂子、「あら、お父さんに紹介した?」。
すると圭子は、「お父さん、聡のほら..」。と、父親の所に行き、肩を軽く叩いた。
父親は、「おう!香菜ちゃんだよなー。
事情も聞いているぞ、聡にはもったいねーなーへへへ」と、とぼけた。
香菜は圭子に、「ほひほうひはひまふ」(ごちそうになります)。
桂子も香菜の表情で言った事は、理解出来ていた。
桂子は、香菜の所に行き、「聡が何時も..お世話になっているみたいで..
つまらない物だけどたくさん食べてってね!」。
そう言いながら、香菜の前に置いて有った茶碗を持って、
炊飯ジャーを開け、ご飯をよそい香菜に手渡した。
渡された、香菜は頭を下げた。
聡も桂子に茶碗を渡し香菜に、「大したもんじゃないけど..」。
香菜は首を振り、聡の脳裏に、(そんな事無いよ、凄いごちそうだよ!)。
父親はそんな二人を何気なく見ていて、微笑んだ。
桂子は自分と父親の、夕食の後片付けをしながら何気なく、「香菜ちゃんのお父さん..」。
そう言おうとした時だった、父親が、「やぼな事、聞くなよ#!」と、咎めた。
そして、「この子の表情見てりゃー、解るだろ!」。
桂子が、「あ!ごめんね」。と、誤った。
香菜は微笑んで、誤った桂子に首を振った。
二人はこの食卓で中つつましく、食事を共にしていた。
テレビの野球放送が、コマーシャルに変わると、父親は聡に、「お前この頃バンドは?」
聡、躊躇しながら、「あ..あーそれなんだけどさ。売り方変える事にしたんだ」。
父親、「へー演歌でも歌うのかー?色男..あの兄ちゃんみたいに..やだねー」。
聡、「ばかやろー#んな訳ねーだろ!」。
親父、「へへへへ、対抗したら面白れーのに、なあ」。と、香菜を見て笑った。
聡、落ち着いて、「俺達二人で..」。
親父、「さっきこの子がギター抱えていた所見ると、この子がギター弾いて、
お前が歌うと、そう言う事か?」。
聡、「その通りだ!」。
親父、「ふーん..俺が名前付けてやろーか!一番星、へへへなーんて」。
聡、「トラック野郎じゃねーし#!」。
香菜はこんな暖かな家族が羨ましかった。
父親は香菜の表情を見て、今思っている事を、即座に察知した。
父親、「おう!香菜ちゃん、もうここの家族だからな、遠慮するなよ!」。
そう言って立ち上がり、「桂子、今日泊まる」。
すると香菜の所に行き、食事をしている香菜の頭を優しく撫でて、「もう、俺の家の娘だぞ」。
その時、香菜は目頭が熱くなり潤んで、「はひはほう」(有難う)。
そんな香菜に父親は、微笑みかけた。
そう言って随分前に結婚して家を出た、空き部屋状態の長女の部屋に、行ってしまうのだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




