第十章、サプリメント5
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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香菜が部屋から階段を覗くと、母親が階段の一番下で、
手招きして小さな声で、「香菜、…ちょっといい?」。
香菜は聡を見て部屋を出ると、階段を下りていった。
秋子は香菜が階段を下りて来るのを確認して、台所の方に歩いていった。
呼ばれた香菜は、台所に行くとすでに、夕飯の支度が出来ていた。
聡の分も一緒に、おかずとお茶碗が並べられていた。
台所に居た母親が、「聡君、夕飯一緒にどうかな?」
香菜は、首をかしげて部屋に戻った。
部屋に戻り、聡を見つめた。
聡の脳裏に、(お母さんが夕飯、聡君の分も作ってくれたの)。
作ってくれたと言われてしまうと、遠慮は出来ない聡は、
「申し訳ないなー、そんなつもりじゃなかったのに..」と、
申し訳なさそうな顔をしながら、後頭部に左手を当てて、
「じゃあ..ごちそうになります」。と、立ち上がった。
香菜は嬉しそうに聡の手を引き、二人は階段を下りて行った。
香菜と聡は、台所に行くと母親が、「聡君食べていって、こんな物しか無いけど」。
聡は、申し訳なさなさそうに、「本と済みません、突然上がりこんで、
夕飯までごちそうになるなんて」。
秋子、「いいえー、香菜の心の友を、粗末には出来ないわ」。
香菜は微笑んで、聡の座る席を引いて上げた。
聡は、「有難う」。一言告げて、テーブルに腰を落とした。
香菜も、自分の席の椅子を引き席に着いた。
久しぶりの三人での食事、親戚の誰かが来なければ、有り得ない出来事に、
秋子と香菜は楽しそうであった。
聡は両手の親指に箸を掴み、手を合わせて、「頂きます!」と、頭を下げて食べ始めた。
久しぶりの三人での食事に、話に華が咲いていた。
その会話の中で..。
秋子、「聡君は、御兄弟は居るの?」。
聡、「歳の離れた姉が居ますが、結婚して..旦那が大阪に転勤したので、今大阪に住んでいます」。
秋子、「じゃー、一人っ子みたいなものね」。
聡、「ええ、十二離なれていますから、母親二人居るみたいでした」。
秋子、香菜が笑っていた。
秋子、「お父さんは…」。
聡、「親父は..僕が十二歳の時、離婚したのですけど..
酒癖悪くて。でも、週に三回くらい、家に来るんですけどね」。
秋子、「大変だったでしょうね」。
聡、「親父は建設関連の、現場監督やったり、クレーン動かしたり。
仕事もまじめにやっていたみたいですけど..我が強くて、
飲み屋で喧嘩ばかりで、よく飲み屋、警察から、電話掛かって来ていて、
お袋もそれに耐えかねたみたいで。でも家で暴れたり、
お袋と俺と姉に手を上げたりした事、一度も無いのです」。
秋子、「それでは、お母さんが気が滅入るわね」。
聡、「親父..俺達家族には..そんな所、決して見せなかったのです。
家に帰ればいい親父なのです、理解が有って」。
香菜、「はとひふん、はんふぉふぉ、ふぉーはひふとなんはお」
(聡君バンドのボーカリストなんだよ)。
聡、「ええ、僕バンドのボーカリストだったんです」。
香菜、「おひほんひゃーと、ひふも、とっふはんはんはお」。
(オリコンチャート、何時もトップだったんだよ)。
聡、「あー、音楽の自主制作の部門で、少し人気有ったのですけどね..」。
秋子、「自主制作って..自分達でレコーディングして、自分達でCD作ると言う事でしょ?」
聡、「えー、それを、業界用語みたいなもので、インディーズと言うのですけど..」。
秋子、「CDも売れていたのよね、きっと..」。
聡、「都内だけの、ほんの一部だけです、そんな全国に知れる程では、無いですよ」。
秋子、「屋上で喧嘩した理由も、その事で…?」。
その時香菜は、突然母親を見て、「う~んうううう~ん」と、
顔を強張らせてしきりに、顔を左右に振った。
秋子は、聞いてはいけない事だと躊躇して、
「あ..ごめんなさい」と誤り、自省した面持ちで箸を口につけた。
聡は、「それだけが理由じゃなく...いやぁーう、売れてくると、
いろいろ、メンバー自分のポリシー出てくるので、喧嘩は日常茶飯事でした」。
香菜は、少し俯き加減に。
その表情を隣で見た聡は、香菜の頭を撫でた。
香菜は聡を見て、苦笑い。
秋子はそんな二人を見ていて、考え事をしていた。
そして突然、「ねーえ、あなた達!香菜が書いた歌を、聡君が歌ったら?」。
二人はその時“へ”っとした表情で、秋子を見た。
二人は、顔を見合わせた。
秋子は何かを思い出したか、夕飯を食べるのを止めて、椅子を引いて立ち上がり、
居間の方に行ってしまった。
二人はその秋子の姿を見て、台所から出て行って行ってしまった後、
「どうしたんだろう?」と、話していた。
すると辞書を読みながら、台所に戻ってきた。
読みながら椅子に座り、何かを調べていた。
調べたい事柄を見つけたか、ページを捲る手を止めて、そのページを見入っていた。
“はっ”と、二人の顔を見た秋子は、「サプリメント」と、急に発した。
二人は、何の事か解らず、またお互い顔を見合わせた。
秋子が、「あなた達の、二人のコンビ名に相応しいわ!」。
聡が、「へ..、どう言う意味ですか?」と、尋ねると、
秋子は微笑みながら、「補う、又は、補い..」。
聡が、少し香菜の顔を見て微笑んで秋子に、「じゃー、略してサプリなんてどうでしょう」。
香菜は、嬉しそうに、「はふひはひひ」(サプリがいい)。
聡は香菜に、「じゃー、サプリにするか!」。
香菜は、“うん”と、大きく頷いたのであった。
秋子の提案に、まだ実感が沸かない二人では有ったが、
ほのかに秋子だけはこの二人に何か、不思議魅力を感じていたのだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




