第六章、恋の瞬間5
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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さりげなく茶髪の男が、香菜に話し掛けて来た。
「今日休み?...」。その問い掛けに、言語に障害を持つ香菜は俯いた。
その反応に男二人は、苦笑いをする。
「卒業したんだ?」。その問いかけにも、下を向いたまま無反応だった。
黒髪のロン毛が、「あれ..ここの子(東京出身)?」 また無反応。
そんなシチュエーションは、慣れていると言わんばかりに、質問責めにする。
だが香菜は俯いたままで、応え様とはしなかった。 応えられないのである。
そうこうしていると、いきなり香菜の背中に誰かぶつかった。
その反動で、腰に付けていたポシェットに、入れて有った小物が道路に飛び散った。
それを香菜は急いで跪くと、落ちた物をかき集める。
男達は、ただ呆然と見届けるだけだった。
そして男達を見上げ、言葉にならない声で、
「あ~あ~」と、手でジェスチャーの様な事をするが、男達はどうして良いか分からない。
香菜はただひたすら跪き、何かを探している様子。
その光景に恥ずかしくなった、男達は立ち去ってしまった。
香菜は半べそをかきながら、跪き無くした物を探していた。
すると人並みの中から一人の通り掛かりの、若い男性がそんな香菜を見つけると、
さりげなく香菜の前に立ちはだかる。
香菜は跪きながら、その男性を見上げた。
その若い男性はしゃがんで、香菜の目を見て問い掛ける。
「どうしたの?」。
香菜は少しその男性を見つめた。
そして、「あ..あ~ん、あああ~」。
必死に手のジェスチャーと、今にも泣きそうな声で、
無くした物を何か伝えようとすると、若い男性はサッと、左手で香菜の左肩に手を置いた。
「携帯だろ?」。その瞬間!香菜の動きが止まった。 その男性は聡であった。
聡はしゃがんだまま辺りを見渡すと、
近くに設置されていた、ジュースの自販機の横に置れた、
缶を捨てるゴミ箱の後ろに、隙間が有る事に気づいた。
その隙間に何気なく、手を入れると携帯らしき感触が有る。
それを掴んだ。
香菜は跪きながら、その光景をぼーっと見ていた。
掴んだ物をそーっと、すき間から出す。
それは、紛れもなく香菜が探していた、自分の携帯であった。
聡は携帯と共に、跪いていた香菜の左腕を掴んで、一緒に立ち上がった。
その携帯を、香菜にそっと渡すと、香菜はただぼーっと、聡の顔を見つめていた。
香菜は「有り難う」。と表現しようとすると、「気にすんな」と聡は答えた。
二人は佇んだまま、数分の時が流れた。
何気なく聡は、「今から何処に行くの?」。
そう言われると、香菜はさっきの男二人と同じ態度で俯くだけだった。
聡は、さりげなく辺りを見回す。
そして、「ちょっ~と腹空かない...?」。
そう答えると香菜は、俯いた顔を少し上げて、「あ~あ~あはひ..ほこは..」その瞬間だった。
聡が、「あ~言葉が不自由なのかぁ~。気にするなよそんな事」
香菜は、その言葉に驚いた。
聡は、「俺は全然平気だぜ!」。
香菜はその表情のまま、首をかしげた。
「ま~いいじゃん!誰でも苦手な事は有るしさー。たまたましゃべるの、へたくそだっつー事で」。
香菜は今、目の前にいる人が何者なのか分からず、ためらっていた。
聡が「俺、名前..聡..風間聡」。
そう答えると香菜はポシェットから、紙と鉛筆を取り出そうとしていた。
そして聡が、「心で名前を言って..」。
そう応えると、香菜はポシェット中を、探している手を止めて、聡の顔を見つめた。
数秒そんな状態のまま、いきなり聡が、「こ・う・な」。
そう答えると香菜は目を丸くした。
「こうな..って言うんだ」。
香菜は今起きている状態を、把握出来ない。
なにより目の前にいる、その人が何者なのかが一番疑問だった。
普通でなはいその人に恐怖を感じ、その場から駆け出そうとした時だった。
香菜は腕を捕まれ、そして振り向いた。
聡は、「訳を話すよ..」、そう答えると、香菜の腕を放した。
そして、聡は俯いた。
「俺は二十日くらい前。校舎の屋上で、落雷に遭ったんだ。
それから十日間意識不明...気が付くと、誰もしゃべっていないのに、
そこに居る皆なの声が、脳裏に走るようになって..」。
そう言うと、顔を上げて明るく、「ま~長所なんだか短所なんだか、よく分からないのだけど..」。
香菜は、ただぼーとしているだけであった。
「今から何処行くの?」
聡が問い掛けると香菜は、少し下唇を噛んで、首をかしげた。
(決まって無いの、別に...)
「そうか..俺も暇なんだ、付き合うよ今日、って言うより、
一人より二人でブラブラした方が、面白いだろー、
ハンバーガーくらいならおごるよ、出会いの証にってさ、ははは」。
聡は後頭部に左手を当てて、おどけて言った。
香菜はその聡の対応に、少し心細そうな顔をしながら頷いた。
二人は自然と歩き出す、言葉を交わさないままただ歩いていた。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




