第四章、やるせない日2
避雷針から..ファーストラブ オリジナル
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TV台代わりにしていた、小物入れの下の引き出しから財布を取り出す。チェーン付き財布。
それをズボンの後ろのポケットに押し込むと、自分の部屋の大鏡に、自分の顔を映す。
鏡の前に置かれていた、固めのワックスを手に取り、フタを開ける。それを手に取り、頭に付けた。
髪を両手で立たせたら、決まってポーズを取る。目を細めて中指立てて。
カッコウは完璧!鏡の前で気合意を入れた。
「よ~し」。
ラップの鼻歌交じりに、家の階段を下りる聡は、玄関でスニーカーを履いて自宅を後にする。
だが一歩外に出た聡は、自分の見渡せる範囲内から声が脳裏に走る。
だが内容は、たわいも無い話題。
(お母さん、卒業式に着てく服、買いに行きたいの)
(いくら要るのよー#)。
(近藤さんの奥さん、夜十一時半頃になると、派手な服着て出かけるの知ってる?)。
(派手に見せているけどお金無いのでしょ、飲み屋にでも働きに…)。
(申しわけない..一昨日は、親戚の葬式で..)。
通りを歩いている、さまざまな人達から聞こえてくる内容。
母と娘が歩きながらの会話。
立ち止まり、携帯で話をするサラリーマン。
主婦らしき人達の会話。
みな小声で話す内容が、聡には通常のしゃべり声として聞こえてくる。
俯き加減で京王線の千歳烏山駅に向かうと、何気に切符を買おうとチェーン付きの、
黒い財布を後ろのポケットから取り出す。
普段の午後三時半、人もまばらな駅構内。
すると年老いた、女性の声が脳裏に走る。
(新宿までは、いくらだったかねー)。
ふと聡は、その脳裏に走る言葉に振り向く。
そこに年老いた、八十は出ているだろう、少し腰が曲がり気味のお婆さんを目にする..。
お金を自動切符販売機に入れてみた所、行き先の運賃が解らなくて、
指を自動切符販売機の点灯しているボタンの手前で、戸惑っている様子を見た聡は、
反射的か、自分の行き先と同じ運賃のボタンを押して上げた。
老婆はその聡の行動に、首を小刻みに聡の方に向けた。
その時聡は、「新宿ならこれで行けるよ!」。
そう答えると、お婆さんは、「あー!そうだったかね?」。
聡は、「ああ、間違いないよ」。
自分も新宿までの切符を購入して、小走りに自動改札機に向かい、
切符を入れ、ホームに向かって行ったのだった。
お婆さんは、ただ聡のその姿を、その場で佇みながら、見つめていたのだった。
電車を待っている間にも、さまざまな声が脳裏に走る。
都合よく、電車がホームに入って来た。
聡は電車が止まり、ドアが開いたと同時に、吸い込まれる様に、電車に乗った。
電車の中は座席が疎らに開いていたが、聡はドア付近のつり革に手を掛けた。
電車の中で今、自分の心理状態に戸惑う聡は、不安を抱くのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。