樹木の世界
「ピーピーピーチチチチチチ」
自然の体現者はできたばっかの口と声帯を震わせて、以前から耳から伝わる波形を模倣する。
しかし自分の骨を伝わり聞こえるそれに納得いかず首を傾げる。
空を飛ぶ生命の鳴き声を模倣してみたが上手くいかない。
「あ~ああ、あーー」
それも良しと今は声を発するだけでも楽しい。
彼は鬱蒼とした森を歩む。
目的地は自らの生まれた場所である。
しばらくして、森を抜けた場所に出た。
空を覆い尽くす一つの樹木から分かたれた枝葉によって森を抜けた先でも陽の光は遮られ少し暗い。
その大木を一周する為には日が七度沈む程かかる程に巨大な樹木の麓に到着する。
ここが『彼』の生まれた場所。
この星で数少ない…否、本来あり得ない『言語』での意思疎通が可能な2人がその場に揃った。
「お目覚めですか? 久しぶりに呼びかけられて驚きました」
『──』
「はい、僕は変わったところは…あっ!最近、声帯を作りました! それらしく『言語』に発音を混ぜてみましたが…どうでしょうか?」
『──』
「わかりました!後ほど調整します」
『──』
それは傍から見れば奇妙な様子だ。
『彼』は樹木に額を当てて大きく独り言を言っているだけに見える。
だが、彼にとってこの樹木は『親』に該当する。彼がまだ自立して歩くことができない時期は樹木の内にて過していた。
そして『彼』が自立稼働可能となったことで樹木の内から這い出てきたのだ。
『彼』と『樹木』は一心同体の運命共同体である。
そんな『彼』に『樹木』は一つの頼み与えた。
『彼』は了承した。
それは以前から『彼』が望んでいたことでもあった。
その日の日没と共に『彼』は生まれ育った樹木の【世界】を後にする。
次にこの地に足を踏み入れるのは全てが終わった後に。
もしからしたら、その途中で自分の稼働限界を迎えるかもしれない。
そしたら、そこまでと諦めて、『樹木』から削り出した杖を片手に彼は旅に出る。




