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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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6/20

幼馴染のお弁当屋さん

 寝起きで潤んだ目を無意識にこすりたくなるが、不用意に触れればマスカラの色が瞼に延びて悲惨なことになる。索理が瞬きを繰り返して潤みを逃がしていると、目の前に見慣れた顔があることに気が付いた。


「おはー。ようやく静かになったね。今日も一緒にお昼で確定、だよね?」


 幼馴染の織部藍だった。


 机に向かってふさぎ込んでいた索理に対し、藍は目線を合わせるようにしてしゃがみこみ、屈託のない栗色の双眸をぱちくりとさせて見つめてくる。身体を起こして見つめ返せば、索理と同じくらいに長い藍色の髪が不思議そうにぴょこりと揺れた。


「どしたの、もしかしてまだおなか減ってない?」

「そうだね、ボクもお腹がすいてきたとこ。今日は体育もあったし」

「かぁ。サクはいつも通り、ほとんど木陰でお休み確定って感じだったけどねえ」


 あっけらかんと笑いながら、藍は持っていた包みを、今しがた索理が身体を預けていたスペースに置いた。一人分には明らかにオーバーサイズな弁当箱だ。運動会で家族連れがつつくような、重箱が三段重なっているやつ。


 藍が風呂敷を広げて蓋を開ける。一段目にはこれでもかと白飯が敷き詰められ、梅干し三つがその上で、身体を寄せ合うようにしてぴったりとくっついている。続く二段目には卵焼きや唐揚げといった定番のメニューから、ポテトサラダなどの少し手間がかかった料理までもがぎっしりと詰め込まれていた。三段目にはまだ蓋がされたままだが、いつも通りならば食後のデザートが入っているはずだ。


 いくら食べ盛りの思春期とはいえ、この量は一人の胃袋に収まるものではない。藍に箸を手渡されながら、索理は感慨深さを込めて感謝を口にした。


「いつもありがとね、毎日立派なのを作ってきてもらっちゃって」

「ふふ、急に改まってどうしたの? いつものことじゃない」


「当たり前にしちゃいけないだけの労力がかかってるなあって思ってさ」

「気にしなくていいのに。昨日の残り物とかうちにある常備菜を、お弁当箱に収まるだけ収めて持ってきてるだけだよ。でも、どういたしまして」


 藍ははにかみながら卵焼きを口に運ぶ。索理もそれに倣った。藍が作ってくる卵焼きはいつも、砂糖をこれでもかというほどに混ぜ込んでいて、もはやスイーツとも呼ぶべき一品だ。長ったらしい授業で焼き切れかけた頭を、一口目でしゃっきりと起こすほどの威力がある。


 ふんわりとした食感と甘みを楽しんでいる索理に対し、同じく一口目に卵焼きを選んだ藍の表情は浮かない。


「どしたの。今日の卵焼き、納得いってない? 甘さが足りないとか?」

「いや、いつも通りの出来だよ。むしろちょっと甘くしすぎたかなーって」


「そんなことないと思うけどね。卵焼きって、砂糖が入るとびっくりするくらい焦げやすくなるんでしょ? それなのにきれいな表面だし、中にもしっかり火が通ってる。ボク的には百点満点だよ」

「サクがそう言ってくれるのなら、明日もこれくらいの甘さで確定かなー。気に入ったなら、わたしの分も食べてもいいよ?」


 藍は苦笑いをして、水筒のお茶に口をつける。ぷは、と息をつくと、思い返したように話題を変えた。


「にしてもさ、そろそろうちのクラスも平和にならないものかねえ」

「平和って、さっきみたいな言い合いのこと?」


「そうそう、あんなに毎日ケンカ腰で疲れないのかな? 嫌いなら嫌いでいいと思うけど、わざわざ食ってかかるからもっと酷いことになってる気がするよ」


 続いて唐揚げ、白米の順に箸を伸ばす藍。真四角を描く米の真ん中あたりに箸が入り、遠慮なく山盛りに掬われた米粒たちが口に運ばれる。


「この年代の男女って、もっと恋だ愛だとか、そういう関係を意識するんじゃないのかな、普通? うちのクラスの荒れようじゃあ、とてもそんな風な未来が見えそうにないよ」

「確かにあんまりいいクラスとは言えないかも」


 索理は弁当箱の隅で逃げ回る米粒を追いかけ回しながら呟いた。


「というか、ああいうので盛り上がる意味が分からないかな、僕は。好きなものを楽しむのはいいと思うけど、ああいうのはみんながいる場で広げるものじゃないと思う」

「それならサク的には、隠れてやってる女子組のほうがまだ理解できるって感じ?」

「隠れて?」


「あの言い合いが正しいのなら、女子たちは人に見られたくないものはちゃんと、見えないところでやり取りしているみたいだよ」

「まあ、それならまだ……迷惑がかかる人は少ないと思うし」


 口ではそう言いつつも、索理の立場から見てみればどちらにも非があると思う。


(本当に軋轢を生みたくないのなら、男子のやることにいちいち目くじらを立てなきゃいいんだ。結局はいつも、女子が文句をつけるのが言い合いの引き金になってるんだから)


 本音ではそう考えつつも、万が一どちらかの陣営の耳に入っては面倒事になりかねないので、索理はその考えを胸の中で転がすだけだ。


「住み分けができればいいんだろうけどね……まあ、私たちにとってはあんまり関係ない話だし、いつか収まるのを待つしかないかな」

「そうだね。──そういえば真宵は? 二人でもこの量は食べきれないと思うけど……今日は休みだったっけ?」


「んや、ちゃんと来てたよ? 生徒会の集まりがあるとかで、昼休みになったらすぐに教室を出て行っちゃった。しかもその後はテニス部のミーティングもあるみたい」

「万能なのも考えものだね。ご飯を食べる暇もないなんて」


 咀嚼の合間に会話を交わしながら、索理たちは弁当を食べ進めていった。

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