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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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23/25

女装と地雷と待ち合わせ

 通り行く人々の一割も理解を示さなさそうなオブジェの前で、索理は待っていた。手にはハンドバッグ。中に入っているのはエチケット系グッズや財布くらいのものだが、これも立派なファッションの一部だ。あと、スカートには手軽にモノをしまえるポケットがない場合も多い、と付け加えておく。


 時刻は十三時半だ。


「わり、ちょっと遅れちまったか」


 じりじりと夏の日差しに焼かれる気分を味わっていると、そこに現れたのは、髪をいつものハーフツインにまとめ、耳たぶに長めのピアスを揺らしている未有だった。もちろん、メイクはいつもの地雷仕様だ。


「ううん、そんなに待ってないよ。ほぼ時間通りだし」


 私服姿を見たのは、あの地雷服を彼女の仕事着と考えるなら初めてかもしれない。とはいえ系統は似通っていた。ゴシックロリータの肩口をシースルーにした、というのが手っ取り早い表現だろうか。デニール数の低そうなニーソックスが細い脚を包んでいる。いつもより背が高い気がして足元に注目すると、五センチはありそうな厚底のブーツが、太陽光をぎらぎらと反射して黒光りしていた。


 胸元やスカートの脇から垂れるチェーンが強烈なアクセントになっている。メタリックな装飾が異質さを生み、出で立ちから個性が爆発して、彼女を街の景色から浮き彫りにしている。


「黒河さんのおでかけモードってそんな感じなんだ。大人っぽい……って言って誉め言葉になる?」

「知らねー。外が暑そうだったから、適当に薄着のやつを選んできただけだ。ベースはゴスロリだし、どっちかってとロリぃんじゃね?」


「そっか。じゃあ無難に、可愛い、が正解だね。とっても似合ってる」

「おう。夕木も似合ってる。フツーだけど」

「ルックスで食べてるインフルエンサーにそう言ってもらえるなら、十分光栄だよ」


 真宵に宣言した通り、今日の索理はそんなに凝った格好をしていない。意味も知らぬ英文が書かれた白Tシャツに薄めのカーディガン、下は水色で薄手のロングスカートを選んだ。シャツに色を合わせ、靴は白ベースのスニーカー。アクセサリーも首からネックレスを下げている程度で、つまるところ、大衆的な一般人のコスプレ。


「正直、夕木はどんな格好してくるかと思ってたんだが、私服もしっかり女装なのか。違和感がなさすぎて逆にちょっと怖ぇな。すれ違っても気付かなさそうだ」

「服はお姉ちゃんたちに貸してもらったりもしてるから、割とトレンドを押さえてるかも?」

「あたしの言う違和感のなさはそこじゃねーんだが……ま、いいか」


 未有はふらふらと歩き回ると、待ち合わせ場所である謎のオブジェに背を預けた。ポケットに手を突っ込んでスマホを取り出し、時間を確認している。


「んで、残りの二人は? あたしが微妙に遅刻だから、一番最後かと思ったんだが」


「藍と真宵なら、元々ちょっと早い待ち合わせ時間を伝えてあるから。ボクが遅刻した、ってことにして先にカラオケ入ってもらってるよ。そうじゃないと逃げられちゃうかもしれないし、この場で大騒ぎになったら目を引いちゃうけど、カラオケの中なら多少騒ぎになっても問題ないだろうし」


「授業中は寝てるくせに、そういうところには頭が回るのかよ。てか、騒ぎになる、って前提が頭に入った上でのセッティングなんだよな……あたしのほうが胃が痛くなりそうだ」


 ハハ、と乾いた笑いが未有の唇から漏れだす。


 そんな様子すらも絵になるな、と考えつつ、索理はぐっと拳を握って気合を入れる。


「というわけで、行きますか」


 自ら作り出した修羅場。それが大口を開けて待ち受けていることを理解した上で、索理は元気よく足を踏み出す。一本結びの桃色が夏風に揺れる。


 そんな索理の背を、未有の声が追いかけてきた。


「──なぁ、夕木」

「なに?」


 索理が振り返ればそこには、未だ一歩目をためらう未有が、気まずそうな顔で佇んでいる。片足体重で、だらりとぶら下がった自分の肘を握っている。


「なんで夕木は、そんなに地雷メイクにこだわるんだ? 今のままでも十分だと思うが。ナチュラルメイクじゃダメなのかよ?」

「そんなの、地雷メイクの方が可愛いからに決まってるじゃない。初めて話した時に言わなかったっけ?」

「いや……それだけが理由だとしたら、ここまでやらねーだろ、普通」


 未有は真剣な声をぶつけてくる。


「お前、これから何が起こるかちゃんとわかってんのか? お前とあの二人がどんな関係か知らねーが、あたしに突っかかってきたあの様子じゃ、確実に穏便には済まねーぞ。あたしは元々関係値ゼロだから知ったこっちゃねーが、下手したらお前らの友情的なもんが粉々、ってパターンもあり得るだろうが。それはお前にとって、地雷メイクなんかの犠牲にしてもいいもんなのか?」


「うん」


 即答する。できてしまう。


「ボクは純粋に、もっと可愛い自分になりたいだけだよ。黒河さんだって同じだよね。理想の自分を目指すためにメイク道具厳選したって言ってたし。ボクだってそうだよ。いつだって全力で、理想の自分を目指していたいじゃない?」


 すらすらと言葉が出てくる。本心だからだ。変なことを言った自覚はない。


「夕木、お前……」


 だが、索理の包み隠さぬ本心は、尋ねてきた未有をポカンとさせてしまったようだ。


 理想の自分。それを追い求めるのが、そんなにおかしなことだろうか。目標を持って生きなさい、などと、人生の先輩たちはよく嘯くではないか。


「早く行こうよ。パフェ、予約の時に頼んであるから、もう完成してルームに届いてるかもよ?」


 唖然とする未有の手を引いて、索理は意気揚々と戦場へと向かった。

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