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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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15/20

女装男子と面積の少ない布

 二日連続で未有の部屋にやってきた索理。その眼前には、昨日はなかったものが映り込んでいた。


 違和感があったのはベッドの上。意外にもきっちりとした性格の未有らしく、布団そのものはしっかりと整えられているのだが──問題はそこに置き捨てられている面積の小さい布だ。黒一色の布地に沿うようにして、白く細かいレース生地が縫い付けられている。細部にも妙に凝った装飾が施されており、つまるところ、一言でいえば、それは。


(こ、これ、この布面積、それに特徴的な形状……まさかとは思うけど、下着なのではっ!?)


 先んじて部屋に足を踏み入れた索理がぴきりと凍り付く。


 全く無警戒のところから一転窮地に立たされた。まさかこんなところに罠が仕掛けられていたとは。


 たまに索理のことを女の子だと勘違いする節がある未有ではあるが、まさかここまで無防備なものを晒しているとは予想だにしていなかった。しかし、そもそも今日も索理が家にやってきたこと自体がイレギュラーなのだ。未有の準備不足を指摘するのはお門違いだ。


 とはいえ、流石に下着はまずい。いろいろなラインをすっ飛ばし、下手をすれば警察沙汰である。間接キスにあれだけ焦って顔を赤くしていた未有だ。着用状態ではないとはいえ自分が普段使いしている下着を見られたとなれば、それ以上の焦りを見せることは間違いない。身体のどこをへし折られるかわかったものではない。


 ここは見なかったふりをするべきか。いや、だが変に部屋の前で待っていれば、その先にある爆弾を見つけてしまった、と言っているようなものではないだろうか。


 幸いにして、未有は先にお手洗いを済ませてくると言ったきり、玄関横にあるドアの内側に篭もっている。あと数分と経たないうちに出てくることだろう。それまでに何らかの対策を打たねば。


 ──対策案その一、下着は目に入らなかったことにして、しれっとした顔で未有を待つ。もちろん、ベッドには背を向けた状態で。


 だがベッドは廊下から見て突き当たりに位置している。背を向けてしまえば変にテーブルを回り込むことになるし、その間にベッドが視界に入らなかった、という言い訳が通るかは怪しい。そもそも、女の子の下着を背にして冷静な表情を保っていられるとは思えない。索理がそわそわしているうちに、下着を出しっぱなしにした部屋に男を招いた、という重大過失に未有が気付くことになり、アウトだ。


 ──対策案その二、部屋に入らずスマホでも触っているふりをする。


 これもやや厳しい。索理がさっきから頭を悩ませて行ったり来たりしている廊下は、人一人がすれ違えるかどうか、というくらいの幅しかない。未有が戻ってくればところてん方式で索理が押し出され、先にベッドの上の下着を目にするのは索理ということになる。一般的な男子高校生ならば一番に目を引きそうなブツに気付かないフリが通用する、と高を括るのは楽観的が過ぎる。アウト。


 ──対策案その三、いっそ玄関まで戻る。地雷系女子が持っている靴のラインナップに興味があるとかなんとか理由をつけて、誠に勝手ながら靴箱を物色させてもらう。


 一応は筋が通っているように思える。無断で異性の収納を開ける、などという超絶無礼行為にあたることを除けばだが。実際靴には興味がある。女装こそしているが身体そのものはしっかり男な索理としては、女性モノの靴がサイズ的に入らないことがままあるのだ。地雷系ファッションに似合う靴のバリエーションを学べれば、少ない選択肢を広げられるかもしれない。


「……よし、これだ。これでいこう」

「どれでいくって?」

「ひゃいっ!?」


 背後から投げかけられた声に、索理は黄色い悲鳴とともに飛び上がった。


「なにビビってんだ。つか、先部屋行ってろっつったろーが。なにをチンタラしてやがる」


 しまった。対策を練りすぎるがあまり、未有が戻ってきたことに全く気が付かなかった。ようやく有用そうな手を思いついたのに全てが水泡に帰した。現に未有は廊下を詰まらせている原因である索理に対し、早く進めと言いたげな視線を向けている。


「えーっと、その、えーとですね?」

「っだよ、言いたいことがあるならはっきり言え」


「んーと、えーと……黒河さんのお部屋、昨日より少し散らかってるんじゃないかなーって。急に押しかけちゃったわけだし、見られたくないものもあるかもしれないし? だ、だからボクが先に入らない方がいいかなって」

「確かにちっとばかし服が出しっぱなしになってるか。昨日SNSに上げた写真、どれ着て撮るかしばらく悩んでたんだよ。そのせいで寝不足だ、頭が微妙に痛ぇ」


「あ、あー! それで学校では機嫌が悪かったのか。索理納得なるほどなー!」

「……夕木ってそんなテンションだったか?」


 未有の半眼にうろたえつつも、索理はどうにか拳を握って踏み留まる。ここで踏ん張らなければ、未有の自尊心と索理のどこかしらの骨が同時に砕けかねない。


 ──いや、ちょっと待って欲しい。今の会話におかしな部分があった。未有は投稿用の写真で着るための服を選んでいたと言っていた。そしてベッドの上に放置されていたのは、やたらとフリフリな可愛らしい下着。


「ってことは、昨日下着姿で写真あげたってこと!?」

「はぁ!? なんでそーなる!?」

「いや、だってそういうことになるじゃん!」


「なるか! んな真似してる変態だと思われてんのか!? あたしだってそれくらいの良識くらい持ち合わせてるわ! 大体どこから下着が出てきたんだよ!」

「それはベッドの上に──あ」


 慌てて口を塞ぐがもう遅い。未有は背伸びをしながら、索理の肩口から顔を出して部屋へと視線を向ける。


(終わったああああ! 自分から下着とか口走っちゃう最悪パターン! もう推理パートで失言する犯人を笑って見られない……!)


 思わず頭を抱えてのけ反る索理。その様子を見て、さらにベッドの上にある衣服を目にした未有は、羞恥心を爆発させ──


「ああ、もしかしてアレのことか」


 ──るどころか、なぜか得心がいったように手を打った。


「ふぇ……?」

「いや、お前が言ってたのってアレのことだろ? あたしのベッドの上に置いてある──水着」

「水着!?」


 全ての前提をひっくり返す未有の台詞に、索理は危うく腰を抜かしそうになった。

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