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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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13/20

女装と地雷と映えクレープ

 索理は画像にあったイチゴのクレープを選び、早々に支払いを終えて完成を待っていた。


 未有はというと、ビジュアルに対するこだわりが相当強いようで、カウンターに貼り付いてあれこれと注文を付けている。


「この生クリーム増量ってやつと、クッキー枚数追加ってのは両立できねーのか」

「クレープの上部に追加するものですので、バランスを取る都合上、どうしてもどちらかということになってしまいますね。別添えでよろしければご用意できますが」


「いや、それだと映えねーからな……しゃーねーか、クッキー追加で頼む」

「かしこまりました」


 ようやくまとまったようで、未有が手招きで索理を呼ぶ。その表情は基本的にはトレードマークの仏頂面ながら、期待感から微妙に口角が吊り上がっていた。


 追加オプションの関係で索理の分よりも値が張る形になってはしまったが、このクレープ屋を提案することに決めた時点で覚悟していたので痛くはない。支払いを済ませると、索理のクレープが先に仕上がっていたのでそれを受け取り、待合のベンチに腰掛けた。先に座っていた未有は、黒のハイソックスと黒光りするショートブーツに包まれた脚をぶらぶらと遊ばせている。


「まだかなー、まだかなー」

「死ぬほどオプション足してたから、ちょっと時間がかかるんじゃない?」


 レシートを見てみれば、未有が選んだのはチョコレートアイスが入ったクレープだったらしい。クッキーだけでなく、中のクリーム増量、チョコスプレー追加、バナナトッピングとやりたい放題だ。コンセプトはチョコバナナなのだろうか。


 案の定少し時間がかかって完成したクレープは、具材が山盛りになっていて今にもはちきれそうだった。全てを一枚の生地にまとめきった店員の努力がうかがえる逸品だ。


「夕木はあんま盛らなかったのな。メイクと一緒かよ」

「そういうわけじゃないけど、あんまり味が多いのは得意じゃないから。食べたい味があったらまた来るし」


 未有の分も揃ったので早速、と索理がクレープに口をつけようとすると、未有が慌てた様子で制止してきた。


「待て待て、映えるスイーツがあるってんで来たんだぞ。写真撮る前に食ってどうする」

「え、ボクの分も撮るの? てっきり自分の分だけにするのかと」


「二人分あるんだから並べて撮るだろ普通」

「それもそっか。それならボクもクッキーとか追加したらよかった」

「まーこれはこれでいいだろ。ほら、こっち寄せろよ」


 未有は早くもカメラアプリを起動してスマホを構えている。索理が乾杯するように自分のクレープを近づけると、意図せず肩がぶつかってしまった。軽く謝るが、未有はむしろ肩を索理の方に寄せ、それどころか腰までもを滑らせて二人の距離を詰めてくる。ふわりと香った甘い匂いは、恐らくはクレープのものではない。


 未有の指が動くと共に数回のシャッター音が鳴る。こだわりの角度があるようで、未有は目を輝かせながら、クレープの周りを惑星が回るかのようにスマホを動かしていた。


「ん、もう食っていいぞ」


 おあずけを解除する未有の声に、索理はクレープに手を付けるよりも先に、さりげなく未有との距離を空けた。


「あとで撮った写真送ってほしいな、そんな盛り方してるの見たことないし」

「投稿しとくから勝手に保存しとけ」


 索理の提案を不愛想に切り捨てつつ、未有は自分のクレープにかぶりつく。


「んま」

「美味しいよね。クッキーも一緒に食べると、食感的にアクセントになるからおすすめ」


 索理が指でウサギ型のクッキーを示すと、未有は次の一口でそこを齧り取る。口に含みすぎたらしく頬をパンパンに膨らませてはいたが、「んー!」と嬉しい悲鳴を上げていた。


 索理も自分のイチゴクレープに視線を戻して、恥ずかしくない程度の大口で思い切り頬張った。イチゴの爽やかな酸味と生クリームの強烈な甘みが一度に口の中に広がり、索理はゆっくりと絶妙なマリアージュを楽しむ。


 しばらくの間はそれぞれのクレープを楽しんでいたのだが、ふと隣を見てみると、あれだけがっついていた未有の手が止まっている。それだけでなく、彼女が索理の手元に目線を固定していることに気付いた。


「……どしたの?」

「甘すぎて飽きた」


 あれこれと追加しすぎた弊害だろう。おまけに未有はクリームだのバナナだのと甘みの強いものばかりを選んでいた。過剰摂取した糖分で胸焼けしてしまっているようだ。


 気持ちはわからなくはない。索理も初めてここのクレープを食べた時は、オプションに目が眩んでいろいろと追加した挙句に胸焼けを起こしてしまった。お腹のキャパシティは問題ないのに、脳が食べることを拒絶する。頭が痛いわけではないが、ぽやぽやと宙に浮いているような感覚を味わった。未有も今同じ気持ちを味わっているのだろう。


 甘味に目がない様子だったし、変に口を出してへそを曲げられたくはなかったので、未有のやりたいようにやらせていたのだが、それがよくなかったらしい。先ほどまでのきらきらとした目はどこへやら、半分ほどが残ったチョコレートクレープには目もくれない。代わりに見ているのは、索理がのんびりと楽しんでいた、残量が同じくらいのイチゴクレープ。


「もしかして、交換してほしいとか思ってる?」

「……じー」


 確かに、クレープにおいてのイチゴは甘みというよりも、全体を引き締めると共に飽きを来させないための酸味としての役割が強い。未有はその酸味を求めているらしい。


 とはいえ、イチゴのクレープには既に索理が口をつけている。恰好は女の子でも索理は男だ。


「まあ、黒河さんがいいなら構わないけど……」

「マジ?」


 索理が口をつけたもので構わないのなら、という意味を含ませてそう言ったつもりだったのだが、未有は気にもせずに反応すると、さっと素早い動きで互いのクレープを入れ替えた。甘み以外の味を相当欲していたらしく、一目散にイチゴを口に含むと、ようやくほっと落ち着いた表情を見せた。


(まあ、黒河さんが気にしないならいいけど。せっかくいっぱいトッピングしてたのに、勿体ないしね)


 索理もその様子を苦笑いで見つめつつ、アイスが溶け始めていたクレープを急いで食べきるべく、多めの量を口に含んだ。




 クレープが口に触れた瞬間、舌打ちのような音が二つほど聞こえた気がしたが、多分鳥の声か何かを聞き違えたのだろう。


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