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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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11/20

才色兼備の勝利は堅い(?)

 私の勝利は堅いだろう。


 索理の心は完全に掴ませてもらった。さながら姫を攫いに来た王子様のような手際で、何人たりとも彼には指一本触れさせない。


 彼と一緒にいられる時間は短いとはいえ、索理には出せる限りのちょっかいを出して気を引いている。それによって索理が恥をかいてしまうような展開になることもあるが、そのあたりはぬかりない。きっちりとカバーできる要素を準備しておくことで、半ばマッチポンプ的ではあるが、彼にとって欠かせない存在である、という認識を植え付けることができているはずだ。成績優秀で顔も悪くない、才色兼備の同級生が見せる意外な一面に、索理は間違いなく心を奪われつつあるはず。


 そして最終的には、索理は私の存在なしでは生きていけない、ダメダメな人間にしてやるのだ。


 何を隠そう、私の最終目的は、索理を私専用の愛玩動物として自室で飼い殺すことだ。


 索理があの姿で男の子だという事実を知ったその日から、完全に心が奪われてしまった。男の子なのに、私の知る女の子の誰よりも可愛い。私など足元にも及ばない。その上現在の法律の上でも結婚が可能という、ある意味ズルみたいな存在だ。


 同級生の中ではあらゆる面で秀でている自信がある。これは自慢ではなく事実。勉強に部活に生徒会活動に、範囲は手広くともその全てを完璧にこなしてきた。これからもそうしていくつもりだ。


 この成績を引っさげて一流大学に現役合格、そのまま一流企業の内定を掴み取り、晴れて人生安泰となったところで、索理を手中に収める。帰宅すれば索理が笑顔で迎えてくれる、まさしく夢のような生活だ。索理が危険な人間社会に出る必要はない。その人形のような可愛らしさだけを発揮して、私の手元で愛されていればいいのだ。


 ……一応、目下の敵はいる。


 織部藍。索理とは幼馴染らしく、入学当初から露骨に距離が近かった。


 彼女がおせち料理に使うような重箱に毎日弁当を詰めてきていることにも驚かされたが、私の度肝を抜いたのは、二人でその弁当をつつきまわしていたことだ。間接キスなどという概念が存在しないかのように箸を進めていく様子は私の心をぐさりと抉った。箸先同士が触れても気にもしないとか、流石にラインを踏み越えすぎてはいないだろうか? ましてやそれを教室内で見せつけるのは、もはや私を含めた女子生徒に対する牽制とすら捉えられる。索理はわたしのものだ、と言外に明示しているのだ。


 重箱の一段目にはいつも白米が敷き詰められているが、その分を小さめの弁当箱に小分けにすれば、重箱を持ってくる必要はなくなるのではないだろうか? そうすれば箸が触れ合う機会も減る。私の心労も減る。そうしないということはつまり、意図があっての行いだということだ。けしからん。


 対する私は、まだあまり索理との距離を詰められていない。日々いたずらを仕込んで気を引いてはいるが、他のクラスメイトよりは仲良くできている、という程度でしかない。


 一応、自分の分まで弁当を作ってきてもらう、という約束を取り付けてからは、間接キスという藍と同じラインに立つことには成功した。


 ……いや、これは盛りすぎた。昼休みはいつも何かしらの所属団体から呼び出しがあることが多く、まだ索理たちが手を付けた後の弁当にしかありつけていない。こちら側が一方的に間接キスを享受しているだけで、索理には私の唾液を……って、何を考えているんだ私は。生々しいぞ、唾液とか。まあ、いずれは唾液交換などと頭にも浮かばないレベルの関係になることが目標なので、いちいちこんなところで照れていても仕方がない。恐らく私よりも索理の恋人ポジションに近しい場所にいるであろう藍を捲るのが、私の戦いだ。


 とにかく、私には私の計画がある。気が長い話といえばそうなのだが、索理を一生愛で続ける権利を勝ち取るためならば、どんな努力も惜しむつもりはない。




「……む? これは、藍からか」


 ポケットの中でスマホが震えた。藍からの個人連絡が来るのは珍しい。食べ物の好き嫌いやアレルギー、遊びの連絡については、索理を含めた三人のグループチャットを使うことになっているからだ。


 藍とは索理を巡って争い合う仲。それはお互いにとっての前提条件として共有されている。索理の前では表面上の付き合いを続けてはいるが、いつか自分が裏切るか、相手に裏切られるか、そのどちらかを結末に崩壊することが決まっている関係だ。


 そんな藍から送られてきたのは、一枚の写真だった。ツーショットの自撮り写真だ。


 続いて藍から送られてきたメッセージには、『どう思う?』とだけ。


「どう思う、と言われても……む?」


 加工や普段と違うメイクにごまかされそうになったが、好きな相手の顔をその程度で見紛うはずもない。写真に写っているうちの一人は、間違いなく索理だ。


 そして、もう一人は……黒河だろうか?


 話したことはないが、いつも校則違反ギリギリの恰好をしているからよく覚えている。彼女はいつも仏頂面で外を見ているので、この写真のように笑った顔は見たことがなかった。


 二人が教室で話しているのも見たことがない。私は教室を空けていることも多いが、その間は藍が目を光らせているはずだ。索理を巡るライバルとしての信頼がある。


 添えられたアカウントに飛び、いくつか写真をスクロールしてみる。送られてきた写真と同じ部屋で、黒髪の少女が一人で写っているものが圧倒的に多い。恐らくこのアカウントは黒髪の少女のもので、ここは彼女の自室なのだ。


 もし、天文学的な確率の向こう側だとは思うが、この二人が索理と黒河で、ここが黒河の自室なのだとするならば──


 ──私の、私の計画を先取りしている、不届き者……っ!


「と、とにかく藍に確認せねば……索理、これはどういう了見だ……!」

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