幼馴染は勝ち確定(?)
勝ち確定、ってやつだ。
サクの胃袋は完全に掴ませてもらった。さながら希代の大怪盗のような手際で、盗まれた、とサクが感じる隙すら与えない。
毎日昼休みにシェアしているお弁当で、サクの舌は少しずつ少しずつ、わたしの作るごはんの味に慣らされつつある。このまま高校三年間ずっと食べ続けたら、流石に他の人の料理に違和感を覚えてしまうはず。そして最終的にはわたしの元に戻ってきたサクに、「藍のあの味じゃないと満足できない」と言わせてやるのだ。
元々子供の頃から一緒にいるんだし、互いの両親とだって面識がある。悪い子でないことは伝わっているはずだし、わたしがサクの人生における伴侶になったって何の違和感もない。むしろそうなるべきだ。サクの腕の中はわたしのために空いていると言っても過言ではない。
その未来を掴み取るためなら、あまり得意じゃない甘めなお弁当にも耐えられる。一気に作ってしまうから味の調整ができないのが難点ではあるのだが、その辺りは恋する乙女の気合いだ。毎日甘い卵焼きやサクの好むデザートを一緒に口にしなくてはならないことや、それによってお腹のお肉が僅かばかり体積を増していることには目を瞑らせてもらう。わたしの作戦においては必要な尊い犠牲だ。それに少しくらい体形が崩れたとして、集中的に運動すればすぐにカロリーを消費できるはず。
それに、実際サクに身体を見せるような関係になるには、まだ時間がかかるだろうし。幼馴染という立場で情けないことだが、意識するようになってからはサクに触れることになんだか緊張感があり、一定の距離を取ってしまう。昔はもっと自然に触れられたのに。
とはいえ、サクの消化器官を完全に藍色に染め上げるには長い時間が必要だ。藍色と言うと印象が悪いか。まあそこはそれ。それに体型だって、いざその時が近づいてから考えれば大丈夫だ。きっと。
って何考えてるんだわたし。そんな不純な動機でサクのこと狙ってるわけじゃないし。純粋にサクのことが好きなだけ。身体とかは、その、結果的にそうなるってだけで……ね?
みんないずれは経験することなんだし、そういう妄想したっていいじゃん! てか普通するじゃん! 独りのベッドで眠れない夜を過ごすこともあるだろ!
……一応、目下の敵はいる。
伊澄真宵ちゃん。高校に入ってから知り合った友達で、索理とも仲がいい。
それに彼女はいろいろと規格外だ。容姿は当然のように整っていて、いつも品行方正な真宵ちゃんに与えられたご褒美みたいだ。勉強をさせれば高校最初のテストで断トツの一位を獲得するし、運動をさせればどの競技もしなやかにスマートにこなしてみせる。おまけに生徒会組織にも所属して、将来は生徒会長の座まで射止めかねないといった勢いだ。
そのくせ茶目っ気も持ち合わせていて、そのギャップに男の子はメロっと落とされてしまいそう。実際、真宵ちゃんに好意を寄せている男の子の噂をいくつか耳にしたことがある。わたしはさっさと帰宅してしまうから見たことはないけれど、放課後のテニスコートにはいつも、真宵ちゃんのプレーを見守る観衆の群れが出来上がっているんだとか。
対するわたしは、何をするにも平凡以下。運動に関しては人並みだという自覚はあるけれど、勉強はてんでダメ。高校に入って授業の進度が早まったことも相まって、当てられそうな部分の予習だけで手いっぱいになる。
お弁当のために早起きした時間で勉強すれば、少しは見られた成績になるんだろうけど……背に腹は代えられない。決意して始めた三か年作戦を一年目で放棄などできるものか。
それに心配ご無用、そういった強力な敵をけん制するための胃袋キャッチ作戦なのである。
自然な流れで真宵ちゃんの分もお弁当を作ってきてあげたらまんまと食いついた。わざわざ手をかけて、毎日重箱一段分のデザートまでつけているのだ。サクの好きなあまあま弁当を日常的に食べていれば、いくら完璧美人の真宵ちゃんと言えども体型の変化は免れない。今はまだ服の上からわかるほどの変化は読み取れないが、やはりそこも三か年計画だ。サクの守備範囲の外まで、そのお腹を膨らませてやる。
まあ、当の索理はなぜか女装で日常生活を送っていて、その理由は全く分からないし、そこだけは少し不安材料なのだけれど……
とにかく! この高校生活で、わたしは必ずサクの胃袋を射止める。そのためならこの三年間、毎朝をお弁当に捧げても悔いはないっ!
「ん? なんだろこれ……」
何の気なしにSNSを眺めていたら、写真が流れてきた。女の子同士のツーショットだ。少し前から流行っている、地雷メイクってやつかな。病み系っぽい雰囲気の二人が身体を寄せ合っている。
いっぱしの女の子としてメイクには興味関心があるので、いくつか大きなアカウントをフォローしている。自分がやるかはともかくとして、こういうメイクがあることくらいは頭に入れておきたい。
そういえば、クラスにもこんなメイクをしてくる子がいたはずだ。黒河さん、だったっけ。いつも誰とも話している姿を見ないけれど、男子の間ではそのミステリアスさが買われ、ひそかに人気があるのだとか。とはいえ、学校に地雷メイクをしてくるような子はやっぱり浮いているけれど。
「そういえば、黒河さんもこんな感じのつやつやの黒髪だったっけ。化粧は派手な割に、髪は染めてないんだよなあ。……そういえばこっちの子は、サクと同じピンクの髪……」
まさか、ねぇ。そんな偶然が、ねぇ。
見たところ、二人の距離感はかなり近い。肩が触れ合いそうなくらいだ。女の子同士なら問題にもならない距離感だけれど、もし、このピンク髪の子がサクだったら……
仮に、仮の仮の仮に、これが黒河さんとサクのツーショットで、二人がそういう関係だったとしたら──
──わたしの、わたしの計画は、破綻する……っ!
「と、とりあえず、事実かどうか確かめないと……身辺調査確定だよ、サク……!」




