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第八話 セラフィーナ・アストレア

私は侍女に小言を言って当たり散らした。


「っ失礼しました!」


震えるように引きつった表情で私に許しを請う。


しかし私の右手首に残った痛みは消えない。


侍女は何度もタオルを冷水につけては私の手首を冷却していた。


この痛みがあの狂犬の顔を嫌でも思い浮かび上がらせてくる。

そのたびに私は苛立ちを抑えられなくなりそうになっていた。




ことの発端は、思えばあの狂犬とよくつるんでる女。

ノエルとかいうあの女がくだらないことを

言わなければこのようなことは起こらなかった。


何が王子様と結婚したい。だ。

笑わせてくれる。

あの様な下賤の女には身分の低い男がお似合いだ。

高貴な身分の男には相応しい女が相応しい。


そう思った時、手首の痛みとともにまたあの女の顔が頭に浮かんだ。

私は手首を何処かに叩き付けたい衝動に駆られたが

ぐっと右手を握りしめて我慢した。


明日は決闘だ……負けるつもりはない。

だが利き手のダメージを広げるのは負け筋につながりかねない。

いや、問題なのは体調より心。

私が平静であればあの様な力しか脳がない女に負ける道理はない。


聞けばあの女は魔法がほとんど使えないに等しいらしい。

今になって思えば笑えてくる。

男のように剣を振ることもできない、魔法も使えない。

ただ体が強いだけの女がどうしてあそこまで思い上がれるのか。


考えるだけでも『イライラしてくる』のは何故だろうか。


私はその「痛み」のせいで夜はあまり寝付けなかった。






翌朝、私は寝不足だったが、あの女を「犬」に出来ると思うと

心が高鳴り、頭のぼんやりした感覚は吹き飛んでいった。

むしろ若干テンションは高いかもしれない。


朝食の時間。

いつも両親は忙しく1人で食べることがほとんどだったけれども

珍しく今日は父が同席していた。


無言の朝食。

私はさっさと食事を済ませようとした時でした。


「お前、今日は決闘をするらしいな」

「ご存知でしたか」


てっきり私は私に興味がないと思っていた。

興味があるのは私が「誰に嫁ぐか」ということだけ。


「決闘をすること自体は構わん。しかし……」


父の眼光が鋭く光った。


「絶対に負けるな。やるからには必ず勝て。

 それが我々上級貴族が世間に求められる在り方だ」


「……はい、わかりました、お父様」


それだけ言うと、父は席をたった。





私は自室へ戻ると、最後の確認をした。

服装に乱れはない。

姿見の前で私は右手で杖を取り出すと構えた。

魔力を込めると中空に魔法陣が浮かび上がる。


よし、問題ない。

相変わらず痛むが、自在に動くし、魔力も通っている。

懸念していた要素は全てクリアされた。


後はあの女を叩きのめすだけ。

私は喜びのあまり、声に出して笑っていた。






こうして私とあの女との決闘は始まった。

決闘は広い広場にあの女と私が二人のみ。


3メートルの間隔を区切るために引かれた白線のみがルール。

まいったと言わせるか、気絶させれば勝ち。


私はあの女をどうやって苦しませて勝つかを頭でイメージしていた。

どのみちあの女には魔法は使えない。

近寄ってくるのを見てはそれを魔法で叩き落としてやる。

何度でも、何度でも立ち上がるたびに、苦痛を与えてやる。


それが私をここまで苦しませた罰だ。




先に舞台に立っていた私は、あの女がでてくるのを待っていた。


ひょっとしたら怖くなって逃げたのか?


そんな事を思っていたらあの女は姿を表した。


服装はあくまでもドレスのまま、しかしあの女の特徴的な長い髪は

バッサリと切られており、髪は雑に後ろで束ねられていた。

そして武器はなく、ただ両手にはグローブがはめられているのみだった。


私は内心、あまりの滑稽さに笑わずにはいられない気持ちでいっぱいになっていた。


本当に私に勝つつもりなのかしら?

そんな意思や心意気だけで勝てるなら世の中苦労はない。

そう、私の苦悩など、この女には決して届くことはない。



「二人とも、白線の位置に立って!」


私とあの女は3メートル先まで近づくことになった。

その表情は怯えも、焦燥感もなかった。

私は再び苛立ちそうになったが、その心を殺した。


これは私が売った喧嘩。

勝たなければならない。

敗北は許されない。


「両者構えて……」


静かに審判が告げる。


私は右手に杖を取り構える。

まだ痛みはある、だが全く問題はない。

イメージする。

開始とともにあの女は私に突っ込んでくるしか出来ないだろう。

そのことごとくに魔法を当てる。ただそれだけでいい。


私は杖に魔力を込めると杖の先端は青白く光り始める。


一方の相手は体を半身に構えてこちらをまっすぐ見据えていた。

間違いない、あの女にはただ前に出るしか策はない。


「始めっ!」


一際大きな声とともに私はすぐに岩の魔法を叩きつけるイメージをした。

その時だった!


杖を前に突き出したその時、何故かあの女はもう私の顔に近づくほどに肉薄していた。

ありえない! 彼女には魔法を使うことが出来ないはずだ!


私は理解が出来なかった。

今からでは魔法を迎撃に当てるには遅すぎる。

私は咄嗟に顔を両手で守ろうとしたその時だった。


胸に凄まじい打撃音とともに強烈な激痛が走った!

息ができない。

耳鳴りがする。

視界が崩れる――

こんな事は許されない……。


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