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第七話 決別

ノエルがうちを訪れて以来。

彼女は少し硬さが取れたと言うか、明るくなったように感じる。

まだぎこちなさはある、が彼女は私に様をつけなくなった。


彼女は笑うことが増えたように思う。

一方の私はと言えば特に変わったことはない。

頭にあるのは魔法と決闘。


考えても変わるものじゃないのだけども考えずにはいられなかった。


そんなある日の出来事だった。


ノエルは友好関係を広げていったがそれが仇となった。





ガチャン!


テーブルのティーカップが激しく振動する音。

それは午後の昼下がりの空気には似つかわしくない気配。


それは甲高い声とともに私の耳元にも届いた。


「思い上がりもそこまで行くとは……所詮貴方は庶民の身。

 分をわきまえなさい!」


「わ、私はそんなつもりじゃ……」




騒動の中心にいたのはノエルとセラだった。

どうやらノエルがセラを怒らせたらしい。

原因はよくわからないがノエルはセラとその愉快な仲間たちに

取り囲まれて、針の筵のような状態であった。


私は静かに立ち上がり、そっとその騒ぎのもとに近寄った。




それはある意味絶好のタイミングだった。

私はセラがノエルの頬を叩こうとしたその瞬間

体を乗り出してセラの手首を掴んで捻りあげていた。


「随分穏やかじゃないな」

「なにかとおもえば狂犬じゃない」


彼女は私を振りほどこうとしたが私はわざと力を込めて握り直した。

「ほう、相変わらず口が減らないな」


更に力を込めるとミシミシと嫌な音がし始める。

「い、痛い! 離しなさい、この痴れ者が!」


そう言うと彼女は私に向けて左手を取り出して杖を向けてきた。

私はそこでようやく放り投げるように放してやると彼女は後方に大きく倒れた。


「ノエル、大丈夫か?」

「い、いえ私は大丈夫です! でもリズちゃん……」


私たちの眼の前には激昂したセラがいた。

取り巻きたちは、立ち上がってセラのご機嫌伺いをしている。


「許さないわ……」


そういうとセラは再び左手で杖を私に向けてきた。

右手は相当固く握ったからな。

しかし状況は芳しくない。




するとその場に深い紺色の腕章をつけた生徒たちがやってきた。

そして腕章には金の糸で生徒会と刺繍がされている。


彼らは私たちの間に入り込むようにして入ってきた。

そのうちの1人がセラの杖を掴んで言う。


「校内での私闘は禁止されている。

 加えて魔法の使用は下手すれば停学処分だぞ」




それでも杖をこちらに向けたまま、震える左腕を収められないセラ。


しかし生徒会の生徒は鋭い視線でセラを睨むとセラはようやく矛を収めた。


だがセラの抵抗はそれで終わりではなかった。


「……わかりました、では私は正式にこの狂犬に決闘を挑みますわ!」


その言葉に辺りは激しくざわつき始めた。


決闘。初めて聞いたときにはその言葉に胸が踊ったが

今の私には、そのような高鳴りはなかった。

代わりに胸の中に広がったのは責務という言葉。


「おいおい、1年が決闘だって?」

「しかも女子同士の決闘なんて聞いたことがないぞ?」


雑音が耳に入ってくる。

どうやら異例の事態ではあるらしい。


生徒会の生徒は冷静にセラに問いかけていた。


「決闘をするという意味、わかっているのか?」

「当然ですわ!」


すると深呼吸する音とともに強い言葉でセラは問い詰められた。


「ではセラフィーナ・アストレア、決闘のために何を求める?」

「そこの狂犬を土下座させて、一生飼い犬にすることですわ!」


……辺りに重い空気が張り詰める。

決闘というのは約束事が発生するのか。

厄介なシステム。戦いに動機など不必要だ。

不純な枠組みだと私は感じたが、渦中にいる私に拒否権はないようだ。


「エリザベート・フォン・ローゼンタール、この決闘に応じるか?」


その聞き方からどうやら拒否権があるらしい。


「断れるのか?」

「拒否も出来る……正直に言う、君は拒否するべきだ」

「何故だ?」


すると彼は肩をすくめて言う。


「戦士でもない、魔法使いでもない、君が魔法使いの名門である

 アストレア家の令嬢を相手に勝てる未来はない」


その言葉は私の心を大いに刺激した。

自分が否定するのと他者に否定されるのとでは大きく意味合いが異なる。


私は覚悟を決めた。


「私は逃げない、受けて立つ」


更に周囲のざわめきが大きくなった。


「中途半端なプライドがそう言わせているならそんな物は捨てるべきだぞ。

 この学園で決闘を受けた以上、相手の要求は絶対だ。それでもいいのか?」


「構わない、その時はその時だ」


私は見逃さなかった。

セラが勝ちを確信し、ニヤけたその瞬間を。


「……言っても聞かなそうだな。わかった。ならば君が勝った場合

 相手には何を要求する?」


「ノエルに謝罪しろ、ほかは必要ない」


……馬鹿げている。

負けてはいけない戦いに勝利の算段なしで挑む。

滑稽な話だ。

以前の私ならそれはあり得ない。


「ふふ、言ったわね、覚悟しておきなさいよ」


そう言うとセラとその取り巻きたちは去っていった。


「リズちゃん……ごめんね」


ノエルは涙を浮かべながら私を見ていた。


「気にするな、売られた喧嘩は買うだけだ……」


その時、私の覚悟に火が着いた。

負けるわけには行かない。






その日の夜、私はヨハンと相談した。


「ヨハン、私にこの決闘に勝つ可能性はあると思うか?」


彼は少しだけ押し黙った後に答えた。


「ゼロではありません。ですが圧倒的に不利でございますな」

「どうすれば勝てる?」

「それは……」




ヨハンの策は策とも言えないような代物であった。

しかし今はそれにかけるしかなかった。


「勝てないわけじゃないならやるしかないだろう」

「それはそうですが、しかし随分無謀な賭けを選びましたな」


「気に入らないか?」

「そうですね、良くはないと思います」

「素直だな」

「しかし……合理性だけで動かないのは、実に貴方らしい」

「そんなに私は不合理に見えるか?」

「自覚がございませんでしたか……もうちょっと早くに言えばよろしかったですかな?」

「どうせ変わらんだろう」

「わかっていらっしゃるならば結構でございます」


私はその日、腰まで伸びる髪の毛を手で掴み、ハサミでバッサリと

適当に切り取った。


雑に切ったが、髪の毛は肩より下まで伸びる程度になった。

その髪を輪ゴムで束ねた。


決闘の時間まで、私は静かに鍛錬をして過ごした。


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