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第五話 婚姻

「エリザベート様」


私は久しぶりに声をかけられたらしい。


入学式から一週間が経過していたが私に声をかけてきた奴は

セラとかいう鼻持ちならない女だけだった。


咄嗟のことに私は振り返ると、そこには

淡い栗色の髪に茶色い瞳をもった女が立っていた。


「あんたは?」


私は見たこともないその女子を観察した。

体つきは至って普通、際立った美人でもないが顔は整っている。

そう、ほとんどすべてが普通の女だった。


「ノエルと申します」

「何の用だ」


私は間髪入れずに聞いた。


「用はありませんわ、ただ」

「ただ?」

「エリザベート様はその……ある意味有名ですので」

「その名前は長ったらしいから、リズでいい」


変わった女だ。

わざわざ地雷原の中に入ってく行為に等しいのに。


「わ、わかりました、ではリズ様で」

「……それで? 実物に会った感想はどうだ」

「そうですね……」


彼女は人差し指を唇に当てて少し迷った様子を見せた後


「面白そうな人でした!」


なんてことを口にした。


「何が面白いんだ?」

「だって貴方は全く常識が通用しないんですもの」

「常識?」


私は思わず鼻で笑ってしまった。


「そんなものがなんの役に立つ?」

「何を言ってるんですか? 私たち淑女に男性が求めるものは

 気品や礼儀作法と言った『常識』を持つ女性ですよ」


気持ち悪い。吐き気がした。

そんなものは常識ではない。


「そんな者はただの依存だ。もしそいつがいなくなった時どうするんだ?」

「だから気品や礼儀作法を身につけるんですよ。

 幅広く受け入れられるように」


なるほど、これは私の早とちりだった。

彼女は『常識』を『武装』にしたようだ。

それもまた一つの在り方だろう。


「たしかにそれも一つの在り方だな」

「と言うよりそれが学園の女子生徒のほとんどの一般的考えですよ?」

「別にそれが一般的な事と、私の考えとは関係ない」


すると彼女は私の正面に回り込んできた。

その茶色の瞳はまっすぐと私の目を見ていった。


「リズ様は一体何を求めていらっしゃるのですか?」

「さぁな、今更考えたこともない。別に何かが欲しい訳では無い」

「本当ですかぁ? 私は素敵な男性に見初められて、幸せな結婚をしたいですわ。

 例えばほら、あそこにいるお方……」


そういうとノエルは目線を遠く先の人物に移した。

その周りには複数の女性たちの声が聞こえる。


その中心には、ひと目見たときは女と見間違えた。

黒く肩より下まで伸びた髪をもつ男が囲まれていた。


「誰だあれは?」


それにノエルはびっくりした表情を浮かべる。


「本気で言ってますか?! この国の第一王子、

 アルフォンス・ヴァルディエール殿下ですよ?!」


「知らん。強いのか?」


私は冗談のつもりで言葉を投げた。

しかしその返答は思わぬものだった。


「強いですよ、とても」

「ほう、それは面白い」


私はズカズカと女たちに取り囲まれたその王子とやらのところに歩いていった。


「え、嘘でしょ?! ま、待ってー!!!」





私が彼の前に立つと周りの女たちは王子を盾にするようにして

後ろに回り込んだ。

ざわめき立っていたが、私はそれを無視した。


「リ、リズ様、一体何を……」


私はその王子の体、表情などをつぶさに観察した。


体の線は一見細いがおそらく中はしっかりと鍛えられている。

そして何よりも特徴的なのはその瞳。


とても力強く、自信にみなぎった目をしている。


その王子とやらは微笑みながらも

私同様に私を値踏みしていたのを目線から感じた。


沈黙を破ったのは王子の言葉からだった。


「なるほど、これがあの有名なローゼンタール家のご令嬢か」


「どうせ碌でもない噂でしょう」

「リズ様! 相手は王子様ですよ! 少しは言葉を……」


「まぁそうだね、だがなかなか面白い噂だとは思うよ」


そういうこの王子様とやらの余裕の表情は崩れない。

私はこの男の余裕を崩したくなった。


「あんた、強いらしいじゃん、どのくらい強いんだ」


私は射抜くように王子を見た。

凡夫であればこの言葉と目線で怯む。


しかし彼の目線は厳しく私を貫き返した。


「ああ、強いよ。 間違いなく君よりもね」


私は身構えようとしたが、この男の顔は『かかってこい』とも

『私のほうが強い』とも書かれていなかった。


私のことをこの男は全く歯牙にかける価値もないと判断している。


一歩踏み出せるはずだった。だが、足が床に縫い付けられたように動かなかった。


「そう、それでいい。ここにはルールがある。やり合うなら別の場だ」


そう言うと彼はその場を立ち去っていった。

追いかける女性たち。


そんな姿を私はただ見届けるしかなかった。


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