第四話 王立学院 第二課程
15歳になった私は王立学院 第二課程へと進んだ。
あいも変わらず私は鍛錬の日々を送っていた。
昔と違って私に突っかかってくるものはいなくなっていた。
ただ遠くから『異物』として眺められる日々だった。
しかし価値観の乖離はますます大きくなった。
まず、この貴族社会では女性は強さではなく
美しさと、付き合うことになる男性のステータスが
最も重要だということだ。
正直私にはどちらでもいいことだった。
問題なのは『魔法』の存在。
私はヨハンに魔法を使わせた実践訓練を頼んだことがあった。
結果は……惨敗だ。
あれは銃のようなものだ。
間合いを詰めるという要素を排除できる。
距離を取れば取るほど不利になる。
近づいて初めて戦いが起こる武術とは根本的に相性が悪い。
幸い学園生活で私は武を振るうことはなくなっていた。
そのため直接的に遅れを取ることはなかったが
年を取るとともに魔法を使うものは増え
それはより高度になっていた。
一方で、陰湿な嫌がらせは増えていった。
教科書を盗まれたり、カバンに傷をつけられたり。
まぁどうでもいいことだ。
私はそういった事があるたびに
どのように魔法を使い相手を封殺するか、頭を悩ませていた。
そんな中、王立学院 第二課程が始まった。
だいぶ見たことのある顔が減り、知らない顔の生徒が増えた。
そんな中、今日は身体測定が行われることとなった。
様々な測定が行われる中、私は同学年の生徒たちを眺めていた。
ひょっとすると、この私の『乾き』を潤してくれる存在が
いるのではないかと期待したからだ。
なるほど、致し方ない事ではあるが
男子の測定結果は私の身体能力を上回るものもそこそこいた。
その結果が出るたびに、女性たちは黄色い声を上げていた。
私は何をそんなに騒いでいるのかと思うと近くに一人の女子が来た。
蜂蜜色の髪に、淡い緑の瞳。
整った女だ。
周りの様子が少しだけ変わった。
ざわついている。
この女はどうやら知名度がある人物らしい。
「貴方、変わった目つきで男性を見てるのね」
「そうかね、強いかどうかでみんな見てるのだろう?」
「それは間違ってはいないけれど……貴方のは所有欲ではないですわよね。
ローゼンタールの狂犬さん」
空気が冷えるのを感じる。
なるほど、ただの雑談ではないらしい。
「私が狂犬なら、あんたは一体なにものだい」
そういうと周囲はさらにざわつきを増す。
どうやら有名人らしいな。
「名乗るのは久しぶりだわ。
私の名前はセラフィーナ・アストレアよ」
「セラフィーナ、か。ならセラでいいな」
「それは親しい間柄で呼びかける時の言葉では?」
「名前なんて分かればどうでもいい。お前も私のことはリズと呼べばいい」
彼女は黙って立っていたが、逆にリアクションがないという圧があった。
「次、ローゼンタール嬢。跳躍試験だ、わかるか?」
「はい」
跳躍試験、板の上に乗ってジャンプするだけの項目。
高さは側面にある測定機が自動的に魔法で計測する優れた装置だ。
私は台の上に立つと、少し屈んだあと、軽くジャンプした。
体が浮き立つような感覚、そして軽やかに着地した。
結果が測定値に1.01mと表示される。
その瞬間、周囲がざわつきはじめた。黄色い声も上がっている。
教師が私に聞いてきた。
「お前……今の魔法を使ってないよな?」
「はい、魔法は使えませんので」
ざわつきは更に大きくなった。
私は何をそんなに驚いているのかわからない。
「ねぇ……今の見た?」
「まるで人が飛んでるみたいだったわ」
ざわつきが大きくなる中、セラは言った。
「貴方、それは生まれつきなのかしら?」
「いや、ただ練習した結果身についただけだ」
「練習? それはなんのために?」
「自分のために決まっているだろう?」
「それがどう自分のためになるのかしら?」
「どうもこうも強くなれるだろう」
「強くなる? ちょっと言ってる意味がわかりかねますが……」
別に誰かに理解してもらいたいわけでもない。
「まぁせいぜい『練習』とやらに頑張ってくださいな、狂犬さん」
あいつは嫌味を言いに来たのか、それとも何か言いたかったのか。
私はただ、立ち去る彼女を傍観していた。




