第二十四話 挨拶
王子との決闘の日は着実に近づいていた。
体の外傷は完治している。
必要なのは覚悟だけ。
……私は今度こそ負けるのだろうか。
ヨハンに私は解決案を求めたがヨハンの回答は無常だった。
「セオ様以上の魔法をつかい、戦士並の体さばきを持つ。
経験値はおそらく学園随一の人物です。
おまけに前回の戦いは観察されています。
二度同じ手は通用しないでしょう」
重い空気が漂った。
「ヨハン、前の武装はどうなっている」
重い空気を振り払うようにヨハンは答えた。
「はい、武器自体はまだ耐えます
衣服はボロボロですから、こちらは作り直しですな」
私は頭の中でイメージする。
あらゆる想定が頭を駆け巡るが、勝算は浮かばなかった。
そもそも今までの戦いも偶然や慢心、奇手といった
真っ当な勝ち方は一度もしていない。
どの相手でもまともに当たれば負けるのはわかっている。
ヨハンは言った。
「リズ様、念の為確認しておきますが……」
「言うな。決闘は断らない」
するとヨハンは顔を斜めにして、口に手を当てていった。
「ちなみにリズ様は勝利に何を賭けたのですか?」
「私にちょっかいかけてくるな、バカ野郎、だ」
「それはそれは……」
「愚かだと笑うか?」
するとヨハンは愉しげな顔をしていった。
「実にエレガントでございますな」
その顔はどこか優しげだった。
決闘前夜。
セラとノエルは私の家に集まって夜のお茶会をすることになった。
「祝勝祈願」と銘打っての集合だったが
誰も勝ちを予想しているものはいなかった。
お茶会は静かなムードで始まった。
侍女とヨハンが黙々と食事とお茶を用意する。
セラは押し黙っていたが、ノエルは愉しげにお茶菓子を
口に詰め込んでいた。
「ノエルさん……せめてお茶会ぐらいは落ち着いて
食事されては如何? 食事は逃げませんわよ」
もはやノエルが食いしん坊なのは周知の事実だったため
セラも世間話のついで程度のトーンだった。
「我が家の食事と比べれば贅沢三昧なので!
ここで食べておかないと次いつ食べれるかわからないですからね!」
そんな彼女の素朴な笑顔は見るものの気持ちをほぐしてくれた。
ヨハンが私のティーカップに紅茶を注ぐ。
その紅茶には私の顔が浮かび上がった。
そこに映るのはかつての苛烈な自身の顔ではなく
幼く、か弱い、しかし目付きの悪い女の顔があった。
私はその紅茶に、かつて私を苦しめた毒を思い出した。
そのうえで、私はその紅茶を一口、飲み込む。
甘い香りが口の中に広がった。
痺れるようなことはない。
口にものを入れたままモゴモゴとノエルは言った。
「そのぉ、アルフォンス殿下ってそんなに強いんですか?」
その問いに、ため息をついてセラは答えた。
「今年の在校生の中でこなした決闘の数は最多の7回。
そのいずれもが圧勝で、一度も攻撃を受けたことはありません」
「7回も挑まれてるんですか?!」
「まぁ、王族で何かと目を引く存在ですからね。
加えて魔法の腕前は教師顔負け、おまけに容姿端麗の王族。
全く付け入る隙がありませんわ」
別に容姿端麗は関係ないが、強敵であることに変わりはない。
そんな中、紅茶を、酒を飲み干すように飲むとノエルは言った。
「何故リズちゃんはそこまでして決闘に挑むんですか?」
「さぁ、何も考えてないんじゃないですか?」
考えてない、か。
実際にそうなのかもしれない。
私は静かに笑った。
「笑ってる場合じゃないですわよ……まったく。
人に心配かけておいて当人が危機感がない。
手におえませんわね」
「確かに、私は愚かかもしれない。
ただそれしかやり方を知らないだけだ」
静まり返る場。
しかしそれを打ち破る声があった。
「でも、それがリズちゃんらしいです」
その言葉に、ヨハンもセラもゆっくりと頷いていた。




