第二十三話 理解
暖かい日差しが心地よい。程よく涼しい風が駆け抜けるその日、
私はついに退院日を迎えた。
その日はいつものメンバーが勢揃いした。
そう、彼を除いて。
「退院おめでとう、リズちゃん!」
「まぁ、貴方ほどの人でもちゃんと怪我をする人間だったんですね。
一つ勉強になりましたわ」
この二人は相変わらずだった。
ヨハンは黙って私が友と話し合うのを見つめていた。
だが、ここに彼はいない。
代わりにいたのは彼の代理人であるアルフォンス王子その人である。
相変わらず私をずっと見ていた。
私は言った。
「毎日毎日来てくれるのは嬉しいが、退院でもだんまりか?」
そう言うと彼は口を開いた。
「体は大事にしろ。あいつもお前が苦しむことは望んでない」
少し棘があるが、一応本心で言ってるらしい。
「わかっている、私も別に好き好んで怪我しているわけじゃない」
「だったらいいんだがな」
軽口を叩いて彼は背を向けた。
彼はそれで整理がついたのだろうか。
私にはわからなかった。
しかし。
10歩ほど歩いたところだろうか。
彼は振り向いて言った。
「リズ、王家に入れ。側妃として遇するぞ」
何を戯言を……。
とその顔を見れば、彼は至って真面目な表情をしていた。
「あ、アルフォンス殿下の側妃?!」
「誠ですか殿下、それは?!」
慌てふためく二人、しかしヨハンのみが私の答えを理解していた。
「実にもったいない話ですな」
「断る」
私はきっぱりと言った。
「ななな、何を考えていらっしゃるのですか貴方は?!
王室ですよ?! たかが一介の貴族ごときでは届き得ない世界ですよ?!」
「そ、そうですよ! リズちゃんはこういった事に頓着がなさすぎます!」
外野はうるさかったが私には関係のないことだった。
彼は言った。
「ふふっ、まぁいい。正直君はそういうと思っていた。
私が出来る責務はもう全て果たした……」
途端に彼の空気が変わった。
「セオは最後までお前を信じていた……だが私は違う」
強い風が一瞬私たちと王子の間を通り抜けた。
「ならば私との決闘を受けよ。
そしてもし私が勝ったら君は学園を去れ」
一気に周囲の空気が重くなる。
「り、リズちゃん……」
ノエルが震える手で私にしがみついてきた。
凄まじい圧だ。ノエルが震えるのもわかる。
「わかった」
「お待ち下さいお嬢様!」
ヨハンが私を遮った。
「邪魔立てする気か?」
「リズ様、冷静になってください。
相手はあのアルフォンス殿下、
今度こそ、本当に万に一つも勝ち目はございませんぞ」
珍しくヨハンが慌てている。
「どうか、矛を収めてくださいませ、アルフォンス殿下。
リズ様は決闘となると……」
そういうヨハンの言葉を遮って王子は言った。
「知っている。だから言っているのだ。
ここで飲み込めるのであればお前はセオの時に飲み込めばよかったのだ。
それをしなかった。ならば今度も飲み込めまい」
すると今度は悲鳴のようにセラが叫んだ。
「アルフォンス殿下、どうかお許しください。
リズは……不器用なだけなのです……」
「セラフィーナ嬢、貴方は彼女にアストレア家としての矜持を
奪われた側にも関わらず、それを良しとするのかい?」
そう言われるとセラは唇を噛み締めて黙ってしまった。
「いちいち他人に噛みつくな、やってやると言ってる」
彼はそれまでの中で、最も艶やかで、ゾッとする顔を浮かべていった。
「ならば、この決闘は成立だな。もう逃げられないぞ」
「逃げた覚えはない。一度だってな」
寒気がしそうな狂気的表情を浮かべた王子はそのまま去っていった。
「リ、リズちゃん……」
震えるノエルの頭をそっと私は撫でた。
「心配するな」
しかし彼女から恐怖の表情は消えることがない。
「貴方、馬鹿なのは知ってましたが、ここ迄愚かだとは知りませんでしたわ」
減らず口を叩くセラの顔はやはり血の気が引いていた。
「知らなかったのか、今更だな」
私は珍しく呆然とするヨハンに喝を入れるように声を出した。
「次の戦いだ、準備をするぞ!」




