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第二十一話 治癒

私は王子と二人きりになった。

静かな病室には温かな日差しが差し込んでいたが

対称的に部屋の空気は冷え切っていた。


二人にしてくれというから

なにか言うことがあるのかと思えば彼はずっと黙っていた。


しかし私から話すべきことも何かあるわけでもない。


二人きりになって五分ぐらい経ってからだろうか。

彼はようやく言葉を口にした。




「馬鹿な男だ。お前のような女に入れ込んだばかりに

 すべてを失った」


「……」


私は何も答えられなかった。

だが何故か私は不快な気分になった。

それは自分の評価が低いことに対してではなかった。


しかしその言葉を発したあと、王子は自分の顔を手で抑えていった。


「昔から涼しい顔をしているくせに頑なな奴でな。

 王子である俺に対してあいつはいっつも食い下がってた。

 ……だから本音で言い合える仲だった」


「アル、お前は……」


すると彼は急に立ち上がって言った。


「その呼び方をするのは許さない。その名で呼んでいいのは

 我が友だけだ」


あくまでも彼の口調は淡々としているが今日は力強さを感じる。


「では殿下、私になにか用でもあるのですか?」


「用というほどのものはない。

 だがあいつが気になったお前という人物が気になった」


空気が冷たい。

この人物の口調はあくまでも物腰は柔らかいが

その声からは全てを遠ざけるような硬さを感じる。


「お言葉ですが、私は貴方にとって気になるほどの人物ではございません」

「ふっ、慣れぬ敬語など使わないで良い。

 そしてお前はそうは言うが自分ではそんなつもりは微塵もない」


「しかし実際問題として殿下と私とでは『釣り合わない』。

 この事実は曲がらない」

「そう、釣り合わない。だが君はセオを破った。

 正直私の見立てではセオが負けることは予想外だった」


王子は私と視線を合わせようとしなかった。

日差しの当たる窓際に歩いていき

窓に両腕を置いて寄りかかった。




私は体が動かず、私の目からは彼がどんな表情をしてるか読み取れない。


「君を初めて見た時、私は面白いやつがいると思った。

 それ以上も以下もない。それが感想だった」


体が痛む。だが私はその言葉に耳を傾けた。


「初めての試合をみた。君の鍛えたその体の在り方は

 常軌を逸していると感じた。

 だがそれもまだ、常識の範疇だと思った。

 だが実に面白い、私はそう思ったよ。」


体が痛い。

だが私は声を出した。


「今はどう思っている?」


「わからない。何かが劇的に変わったわけではない。

 世界が大きく変わったわけでもない。

 ただ1人、知り合いを失った。ただそれだけだ」


そして沈黙した。

重い空気が更に重くなった。


この男に私がかける言葉など存在しなかった。


「君は随分、彼と懇意にしていたな。

 君自身はどうおもっているんだ」




体の痛みは引くことを知らない。

全身が火傷したかのように熱かった。


私は言った。


「何も」


彼はしばらく黙っていた。

何を思っているか。

日差しのせいで彼の顔は見えない。


しばらくすると彼は窓から離れ、私の病室を去ろうとした。


「もういいのか?」

「ああ、また聞きたいことが出来たら来る」



彼の表情をみたが、すました顔に変化はなかった。


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