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第十九話 セオドア・グランツ

夜明け前、僕は1人、部屋でひたすら瞑想をしていた。

戦いには、魔法行使に置いても、精神を常に揺さぶられない事が

何よりも大事だ。


朝日が昇る。

僕はその光で瞑想を終わりにした。

平静を保たないといけないのにリズのことを思い浮かべると心が揺れた。

僕は一度その思いを振り切り、消去した。


いつもと同じ、今日も負けられない戦いに勝つ。ただそれだけ。


僕は一階に下りると、料理を作り始めた。

あまり料理は得意ではないが、

ルルのためにも食事は毎日用意する必要がある。


本当は作りたてを用意してあげたかったが今日はそこまで余裕がなかった。

僕は適当に作ったスクランブルエッグとハムをパンに挟んで

一気に味わうこともなく胃袋に放り込んだ。


あまり味には頓着しないが、今日は特にひどい。

食べた時に味がしなかった。


緊張している。だがそれは別に今日が特別じゃない。

今までもそうだった、難しい相手は沢山いた。

むしろ今日の相手はその中では一番やりやすい相手だ。


だがどうしても顔がちらつく。それは僕を動揺させる。


僕はルルの分の朝ごはんの下にメモ書きを残す。


そう言うと僕は家の前で待つ馬車に乗り込んだ。

「セオドア様、今日はいつにもまして早いですな」

「ああ、今日は『負けられない』からね」






学校につくと、まだ生徒はまばらにしかいなかった。

いずれも部活動の練習や真面目な生徒が予習をしたりと

思い思いの生活を送っている。


そんな時だった、僕の後ろから声を掛ける人物がいた。


「やぁ、今日は早く来てると思ったよ」


黒い髪をなびかせたアルがそこには立っていた。


「君も物好きだな、決闘には必ず顔を見せる。

 こんな形骸化したものに執着する意味があるのかい?」


すると肩をすくめてアルは言う。


「ご指摘は最もだが、君が戦うんだ。君の戦い方は実に美しい。

 それに、対戦相手の方にも幾分の興味はある。

 なぜ君がそこまでご執心なのかまではわかりかねるがね」


僕はリズのことを否定された気分になった。


「君にはわからないだろう。

 だが正直言うと僕にも正確にはわかってない。

 それを理解するために戦うんだ」


アルは首を振って言う。


「ますますわからないが、君が物事に固執する性格なのは知っている。

 納得するまでやればいいさ。もっともこの戦いに

 そこまでの価値があるとも思えないがね」


あくまでも彼はリズを低く見る。


「本当にそう思ってるなら何故こんなに早く僕に会いに来た?」


僕の問いに彼は答えず、手を降って去っていった。






負けられない。

僕は残りの時間を演習場で瞑想して過ごした。

体力、魔力共に浪費するのは良くない。

ここは日頃の修練を信じるべきだ。


心を落ち着かせるんだ。


何度も顔が浮かび上がる。


自分でもわからなくなってきた。

リズはいった。

それは情愛ではないと。


だが僕の中の感情は嘘ではないと思う。

強烈に彼女に何かを惹きつけられる。

好奇心なのだろうか。

それも嘘ではない。


しかし、それも含めた感情が人間なのではなかろうか。

僕にはそれがわからなかった。





決闘の時間は目前だった。






そして、約束の正午。


そこに立つ少女の姿はあまりにも異様だった。


いつもとは違うがきらびやかなドレス姿。

そしてその右手には長槍が一本。


会場はいつも以上にどよめいていた。


彼女は拳で戦うとばかり思っていたため

これには僕も驚きが隠せなかった。


そして僕は彼女のドレスに魔封じの刻印がされていることに気がついた。

しかし魔封じの刻印はドレスにつけたとしてもせいぜい一発しか受けられないだろう。


リズ、それが君の回答なのか?

僕は困惑した。


「二人とも、白線の位置に立って!」



僕は白線まで歩いていく。

リズも白線まで歩いてきた。

そこで槍の刻印に目が行った。

槍にも魔封じの刻印が施されている。

刃先は鋭くなく、あくまでも『決闘用』の非殺傷仕様となっていた。




まさか槍で僕の魔法を弾こうというのか?

それはもはや人間業ではない。

しかし、彼女は諦めない。

往生際の悪さなのか、それとも勝算なのか。

僕は測りかねた。


だが、負けるわけにはいかない。

勝てば彼女を得る。

負ければすべてを失う。


僕は戦闘を頭にイメージした。


前回のセラフィーナでの戦いは目に焼き付いている。

リズは間違いなくまっすぐ突撃して僕に一撃を入れることを狙うだろう。

つまり僕がやることはひたすら下がり、魔法を撃ち、距離を取ること。


「両者構えて……」


僕は杖を構えた。

突進してくる。その前提で僕は事前に自らの後方に魔法を『置く』イメージをした。

彼女は槍を両手に構え、鋭い目線を僕に送る。

万が一もない、だがやるからには1%も隙は与えない。



「始めっ!」



僕は魔法を足場に行使し、大きく後方に跳躍した。

同時に後ろに魔法陣を連続で展開し、火、雷、岩と様々な物質をリズに叩きつける。

大怪我をさせるかもしれない、だが僕とて負けるわけにはいかないのだ。



瞬間、その尽くが彼女の連続突きで叩き落された。

僕は考える前に、撃ち続けていた。

ひたすら後方に下がりながら魔法を絶え間なく浴びせ続ける!


しかし彼女は止まらなかった。

同じことの繰り返し。

僕はひたすら下がり続け、彼女は前に出続ける。


だが終わりは近い。

彼女は弾きそこねた魔法を少しずつ体に受けていた。


ドレスは破け、あらゆる場所が痣となって、そして血を流していた。

しかし彼女は止まらない。いや、むしろ距離が詰められていた。


彼女が血を流している。

僕は上手く捌いてるはずだ、なのに何故詰められる?!


僕に出来ることは『限られて』いた。

距離を取る、魔法を撃つ。だが止まらない。何故か距離が詰まる。

僕は彼女の動きを観察した。


……正気ではない。彼女は魔法を敢えて被弾していた。

槍で裁く、魔法を撃つ。この工程では前に進めない。

だから致命傷以外の魔法を敢えて避けていない。

故に距離が縮まる。

その槍裁きはもはや目と鼻の先まで届かんとしていた。


『負けるわけにはいかない』


負ければ彼女も、そしてルルとの日常すらも。

この手から手放すわけにはいかないんだ!


僕は己の魔力が焼ききれても構わないと、

一度に10発分の魔法を発射した!


その瞬間だった。僕の腹部に、彼女の槍が強烈に打ち込まれていた。

刃は潰されている。それでも呼吸が奪われた。


ありえない……彼女はその10発すべてを最小限の回避にとどめ

血まみれになって立っていた。


負けられない……だが僕の意識は意思を無視して消え去っていった。


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