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第十六話 兄弟

私たちは何故かまたセオの馬車に乗っていた。


今度の行き先はセオの家らしい。


「セオさんの家ってすごく大きそうですね」

「ノエルさん、あまりにもその言い方、子供っぽいですわ……」


「はは、まぁいいじゃないですか。

 でもあんまり期待しないでくださいよ」


なんだかんだ言ってもそれなりに大きい家には住んでそうだが。

私たちはたどり着いた時、少しだけ驚いた。


「……本当に、小さいですね。

 うちの実家ぐらいのサイズです」


「だから言ったでしょう」


その時だった。

少し家の様子を眺めてたセラが言った。


「……これがセオドア様の『部屋』ですか」

「あーばれちゃったかぁ」


私は呆れた。

4人家族が豪邸に住んでるって自慢できるぐらいのサイズがある。

流石に私の家よりは狭いが、これが個人の『部屋』というならあまりにもでかい。


「うちは両親は別の家に住んでてね、15歳を超えたら

 それぞれ家を与えられて、そこに住むんだ」


「あまりにもスケールがデカすぎてピンときません」

「流石に私もこの規模は想定外と言わざるを得ないですわ」


まぁ目先のでかさだけに囚われてるが

要するに独り立ちしろということなのだろう。

規模はおかしいがやってることは自立心を促すこと。

間違った教育方針ではないと思える。


そうしていると1人の少女が『部屋』から飛び出してきた。


「お兄様!」


そういって小柄な少女がセオに飛びついてきた。


「ルル、大人しく家の中で待ってなさいといったのに」

「だって、お兄様が帰ってきたのが見えたから!」


セオと同じ銀髪、薄っすらと青い瞳。

兄弟であることはすぐに分かった。


「末っ子のルイーゼだ、甘えん坊で困っている」

「お兄様のお友達が来たのだから

 挨拶しない方が失礼じゃないですか!」

「わかったわかった、後で紹介するから今は家の中で大人しくしているんだ」


そういうと頬を膨らませて不満げな顔をしつつも


「じゃあ、中で待ってます。早くしてくださいよ、お兄様」


そういうとバタンと扉を閉じて中に戻っていった。


「一人暮らしといっておられましたが、兄弟と一緒に住まわれてるんですね」

「ああ、うちは8人兄弟だけど、母の血の繋がりがあるのはルルだけなんでね。

 本来は1人侍女をつけてもらえるんだけど、僕は代わりにルルを

 世話係としてつけてもらってる。最も侍女どころか

 手間が増えてるだけなんだけどね」


しかしそういう彼の顔は今までの硬直した様な顔と違って

少し柔らかさが感じられた。


「まぁ、家の中に入ってくれよ、紅茶とケーキぐらいはご馳走するよ」

「ケーキですか! いいですねぇ!」

「ノエルさん……貴方は本当に食べることしか脳がないんですか?」

「そんな事はありませんよ、素敵な男性がいればなお良いです!」

「……その能天気さは羨ましいですわ、本当に」


思えばノエルとセラは、当初は喧嘩するほどだったのに

随分と距離感が近くなった気がする。


セオに促されるまま私たちは部屋の中に入ると

中身は意外と質素とまではいかないにしろ、素朴な作りの家であった。


「まぁ適当に座ってて。今から紅茶とケーキを用意するよ」


そういうと彼は台所に入っていくと紅茶の用意を始めた。


「なんか、見た感じは貴公子って感じなのに

 家事をしているのをみると不思議な感覚になりますわね」

「そうですねー、私としては親近感湧きます!」


そんなものなのかねぇと思いつつ私はその様子を眺めていた。

うちではほとんどヨハンがやってしまう。

自分で入れようとしても大体先回りされていて

ほしいと思ったときにはヨハンがもう紅茶を入れる準備をして

待っている。実に有能だが、私にはもったいない存在だ。


すると、さっきのルイーゼと呼ばれた少女が私たちに

パウンドケーキを手渡しで配って回り始めた。


「はいこれ!」


私はそれを受け取ると、黙って口に運んだ。


すると


「あー! 食べちゃダメだよぉ! まだ紅茶出来てないのに!」


それを見ていたセラは腹を抱えて笑い始めた。


「貴方、子供に、礼儀作法を笑われるって、実に面白いですわ」

「うるさい、私がやりたいようにやって何が悪いんだ」


そういうと、ルルはもう一つケーキをもって現れた。


「今度は食べちゃダメだよ? 絶対だよ?」


すごい疑いの眼差しを向けられている。


「わ、わかった。もう食べない」

そういうとケーキを渡されたので

私はそれを皿ごと大人しくテーブルにおいた。


しかしルルはじーっと私の顔を眺めていた。


生意気な子供だ。私は目を細めて睨み返した。

しかし全く怯える様子はない。

そしてとんでもないことを言い出した。


「ねぇ、お兄ちゃんが好きな女の人ってこの人?」


その瞬間、台所ですごい音がした。


セオはあからさまに平静さを失った顔で客間に現れた。


「ルル、誤解を招く言い方はやめたまえ!」

「えーでも最近いっつもお兄ちゃんこの人のことばっかり言ってるじゃん」


「「へぇ~」」

ノエルとセラの声がはもった。


これだから女子という生き物は。

まぁ今は私もそうなのだが。


「ねぇ、ルルちゃん、お兄様はこのお姉さんのこと、なんて言ってるのかしら?」


少しだけ考えるような顔をしたあとルルはいった。


「んーとね、変な人だって!」


それをきいてセラはとうとう爆笑し始めた。


「お腹が痛いですわ! 苦しいですわ!」

「ル、ルル。お願いだからもう何も言わずに部屋にもどってくれないか?」

「えー、やだよ、このお姉ちゃん面白いし」


面白いだと?

私はセオを見た。


「一体お前は自分の妹に何を吹き込んでいるんだ?」


私は睨むようにセオに言ったがそれをセラは咎めた。


「貴方、日頃の行いが悪いからそのように言われるのですよ。

 人のせいにするのはお辞めになっては如何かしら?

 ……だ、だめ。本当におかしくて笑いが止まらないですわ!」


人を戦いではなく日常で殴りたくなったのは初めてだった。


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