第十四話 ベルハンマー
村祭りのなかで一際騒がしい場所があった。
そこには不思議な装置が置かれており
如何にも筋力自慢の男たちがハンマーを振り下ろしていた。
私は少しだけそれに興味を惹かれた。
「あれは何だ」
私は目線だけでそれを尋ねた。
「ああ、あれはベルハンマーですね」
ノエルが答える。
「あれに興味を持つのは如何にも野蛮な貴方らしいですわね」
「余計なお世話だ」
ハンマーを振り下ろすたびに何かの金属の重りが登っては落ちていく。
歓声があがるが、そのトーンからするとあれは完璧ではないようだ。
「どんなルールなんだ」
ムキムキの男が力任せにハンマーを叩き付けているが
やはり成功ではないらしい。
「ルールはあのハンマーを叩きつけると連動してあの金属の重りが
力に応じて、柱に沿って跳ね上がる。てっぺんのベルを叩けば成功だよ」
なるほど。
仕組みは理解した。
思ったより面白い装置だ。
ただの力任せでは力は半分しか伝達しない。
私はそのベルハンマーとやらに向かって歩いていった。
「え、ちょっと、まさかやるつもりですか?!」
結局私に釣られて4人全員でベルハンマーの前にやってきた。
ベルハンマーの前には取り仕切りをしている男が1人。
私たちを見て彼はわざとらしく全員を見回して
そのあとセオを見ていった。
「これはこれは、セオドア様。御学友と見学ですかな?」
「ああ、ぜひベルハンマーを体験したくてね」
すると少しだけ怪訝な表情をしたが、
あくまで彼は努めて平静にセオに聞く。
「セオドア様がやるのですか? その、あまり体力的には」
「そうだな、得意ではない。だからやるのは彼女だ」
私は軽く肩をぽんと叩かれた。
周りにどよめきの声が上がる。
「おやおや……セオドア様、流石にそれは。
私たちをからかっていらっしゃるのですか?」
「いや? 本気だよ」
ますますざわめきは強くなった。
……いい。昔を思い出す。
若かりし頃、私を見下したもの達のあの目線だ。
私は少しだけ高揚感を覚えた。
「いいから黙ってそのハンマーをよこせ」
私はわざと横柄な態度で言った。
しかしハンマーを持つ男性はためらっていた。
その目線はセオに回答を求めているようだった。
「大丈夫だから、渡してみて」
そう言われると男は渋々私にハンマーを差し出した。
私はそれを片手で乱暴に奪い取ると、ハンマーの感触を確かめた。
軽く片手で振ってみる。
重い。が、打ち上げるには些か軽いとも言える。
重さは2~3kgといったところだろうか。
私が素振りをしていると周りは更にどよめいた。
「あんな細くて小さい体なのにハンマーを振り回してる?!」
「はは、だから言っただろ、大丈夫だって」
「ほんと、馬鹿力ですわ」
私はそれを無視して握りの感触を確認した。
たぶん、ギミックの理解が正しければこちらの打ち方が正しいが
せっかくだから二通り試すか。
「セオ、二回試してもいいのか?」
「ああ、構わないよ。体力が持つならね」
なるほど。確かに何度も振れば体も持たない。
今度は両手で振り下ろす間隔を確認する。
両手で持ち、ゆっくりと振りかぶり、緩やかに叩く場所までの流れを確認した。
重心の移動、体の動作。大体わかった。
私は振りかぶった。
「セオドア様、本当に大丈夫ですか?」
「心配ないよ、見てて」
1度目の振り下ろし。
思い切り振り抜いた。
鈍い金属音が響き渡る。
だが、豪快な振り下ろしの割に重りは殆ど動かなかった。
「はっはっは、いやそのハンマーを振り回せるだけでも大したものだ」
ベルハンマーを取り仕切る男は私からハンマーを返せと言わんばかりに
受け取ろうとしていた。
「あと一回だけいいか?」
「おー、負けず嫌いだね、気に入ったよ。何回でもいいよ」
そういうと彼は先ほどとは違って愉しげに眺めていた。
力は共通言語。
それを探求するのに理屈はいらない。
私は再びハンマーを振り下ろした。
カンッ!という乾いた音とともに重りは跳ね上がりベルを鳴らした。
静寂。
その後、辺りには拍手が巻き起こっていた。
「いやー信じられないよ、おめでとう、これが景品だ」
するとそこにはバカでかい、ハムの原木があった。
……。
私はそれを受け取ったが……。
「セオ、お前にあげるよ。私はいらない」
「い、いや一応ぼくは主催者側だからね……」
微妙な空気が流れる。
そんな沈黙をやぶる空気を読まない女が1人。
「えーもったいない!私ハム大好きなんですよ。
貰ってもいいですか?!」
「あー別にいいよ、持てるのか?」
「担いででも持って帰ります!」
ノエルは嬉しそうにハムの原木を抱えていた。




