第九話 余韻
あの決闘のあと。
セラは緊急搬送された。
幸い、ダメージは大きいが、後遺症が残ることもないらしい。
私の周りには勝利の余韻で人だかりが
……出来てはいなかった。
唯一ノエルだけが私のそばで話をしていた。
「リズちゃん、本当にすごかったよ! まさか勝っちゃうなんて思いもしなかった」
「勝つと『思っていなかった』とは心外だな」
最も私自身もあれは博打だった。
セラが魔法の絶対性を『信じ続けてくれた』から勝てた。
「だってリズちゃんは魔法使えないし、本当に殴るだけで勝つなんて思わないですよ!
会場中、全員がリズの勝ちが決まった時、唖然としてたんですよ?
きっと皆さん、リズちゃんの評価を変えたに違いありません!」
……それだけならいいのだが。
ある意味あれは「手の内を晒した」といっていい。
二度同じ手は通じない。
「そんなことより、ノエル。お前あんなクソ生意気な王子が好みなのか?
趣味悪いんじゃないか?」
「何言ってるんですか! 女子ならみんな憧れる人ですよ?!」
やれやれ。
あんなキザったらしい男の何がいいのやら。
「クソ生意気とはなかなか言ってくれるじゃないか」
完全に気配を消していた。
私が気が付かなかった。
そのクソ生意気な男は、一人の男を連れて一緒に立っていた。
足音も、影も、呼吸すら感じなかった。
両方とも化け物か。
「アルフォンス殿下!」
あくまでも貼り付けたような笑顔を崩さないこの王子からは
意外な言葉が出てきた。
「久しぶりに面白いものを見せてもらったよ」
……あくまでも強者の上から目線の言葉ではある。
そうですかと喜ぶ気にはならなかった。
「そんな事をわざわざ言うためにこんなところに顔を出したんですか?」
そういって私はティーカップをテーブルに置き
腕組みをして彼の隣に立っている男を見た。
「ああ、紹介しよう。彼はセオドア・グランツ。
君に惚れたらしいから紹介した」
「「なっ?!」」
私とその男は声がハモってしまった。
危うく口の中に残ってた紅茶を吹き出すところだった。
「アル、誤解を招くような言い方は避けていただきたい」
その男は元の雰囲気を取り戻すと落ち着いた声で言った。
線はかなり細く、どことなく冷たい印象。
「で、私に何の用だ?」
「君の戦いにおける哲学を伺いたい」
「哲学? 何言ってるんだあんた?」
直感で性格的に合わないのを感じた。
……感じたのは確かなのだが、どことなく『似た匂い』を感じる。
「セオ、じゃあ俺はそろそろ失礼するよ」
「ああ、ありがとう」
そういうと黒く長い髪がサラリと流れるように、クソ王子は去っていった。
その様子を見ていたノエルが私を見て言った。
「そういえば、リズちゃん、髪の毛切っちゃったんですね」
私の髪の毛は今は肩に掛かる程度まで短くなっていた。
試合が終わったので輪ゴム外してるが
雑に切ったので少し違和感がある。
「ああ、戦いには邪魔だったからな」
「でもリズちゃん、美人だからかなぁ、今の短いのも似合ってるよ」
正直、私にとって美観はどうでもいい要素だったが
ノエルなりの気遣いなのだろう。
言葉には出さなかったが、私は少しだけ表情を緩めることで
それへの回答とした。
「それで、セオとか言ったっけ、あんたの要件はなんだ?」
正直何時までも不気味に突っ立っていられても気色が悪い。
すると彼は澄んだ声で、私ではなくノエルに対して口を出した。
「ノエル・フェルディナンさん」
「え、私の名前知ってるんですか?」
「学園の全生徒の名前は頭に入ってるよ」
「セオドア様に名前を知って頂いてるなんて感激です!」
それは大層なことで。
私は興味のない人間の名前は全部覚える気すらなかった。
「なんだ、こいつ有名人なのか?」
「リズちゃん!? セオドア様も知らないんですか?!」
「知らん、興味がない」
ノエルは気まずそうにアタフタとしてるが
この氷のように冷たく、透き通った印象の灰銀髪の男は
気にした様子もないといった雰囲気だ。
全人類そうであってくれると私としては嬉しい。
「それで、申し訳ないんだけどノエルさん。
せっかく二人で楽しんでいる所、申し訳ないんだけど
エリザベートさんと二人で話したいことがあるんだ。
構わないかな?」
その言葉を聞いた時、何故かノエルは愉しげな表情を浮かべて答えた。
「ええ! そういうことならば、どうぞリズちゃんと二人っきりで
ごゆっくりどうぞ!」
そういうとノエルは私の側によってきて耳打ちした。
「あながち、王子様の言ってたこと、冗談でもないかもよぉ?」
そんな脳天気なことを言って鼻歌交じりにノエルはその場を去っていった。




