プロローグ
ポスッ
気の抜けたような音。
殴ると言うよりは当たったという程度の音。
しかし眼の前の男は頭からまっすぐに倒れた。
私はそれ以上、なにも確認すること無く、その場を後にした。
付き人の弟子が恐る恐る、私に尋ねる。
「あの者は……」
「まぁおそらく助からんだろう」
付き人の息を呑む音がした。
同意の上の試合、とは言え死亡したとなれば大事になる。
騒ぎが大きくなる前に場を離れたほうがいい。
私と弟子は足早にその場を去った。
そうして街を離れる時、一軒の茶屋があった。
一瞥したてそのまま去ろうとしたところに声がかかった。
「貴方様は……先ほどの御武勇、見事でございました」
商人の装いをした男が1人。
まだ日は高く、時間はある。
「見ておったのか」
「ええ、見事な戦いでした。これもなにかの縁です。どうかこれを一つ」
そう言うと彼は一つの箱を差し出した。
質素ながらも上等な木製の箱の中に入っていたのは茶菓子であった。
「さ、こちらと一緒にどうぞ」
断るのも角が立つ。
致し方なく、私は渡されたお茶を一口、口に含み
茶菓子を取ろうとした。
その瞬間であった。
舌がしびれる。
そして違和感はすぐに全身に広がった。
全身が痙攣する。
あたりを見回すと既に、先程の男は姿を消していた。
間違いない、毒を盛られた!
「せ、先生! 汗が尋常じゃない……すぐに医者を!」
「ならん! 近くにいるものは皆信用できない。
すぐに私をここから遠くに運ぶんだ」
「は、はい!」
私は弟子に背負われながら竹藪の影に身を隠していた。
「先生!」
必死に呼びかける弟子の姿が霞んでいく。
これが人を殺めた代償なのか?
私の意識は多くを考える暇もなく遠のいていった。




