第四十四話 休日
命を賭けた訓練と戦いの裏側にある、誰もが持つ「普通の生活」。
束の間の休息が、二人の絆をより深く、強くしていく。
これは、戦士である前に「一人の人間」である二人の物語。
読んで頂けると幸いです。
「哲郎~、起きてよ~」
敦子の声が、まだ夢の中にいる哲郎の耳を揺らす。
「う~う~ん……」
布団の中で丸まった哲郎は、子どものように寝返りを打ちながら抵抗する。
「もう少し……」
「もう休みだからって、いつまで寝てるの」
敦子は呆れたように眉を寄せ、勢いよく布団を剥ぎ取った。冷たい空気が一気に哲郎の身体を包み込み、彼は小さく身をすくめる。
「もう十時なんだから」
「今日は二人とも休みで、久しぶりに買い物行くって約束したでしょ」
敦子の声には、半分怒りと半分期待が混じっていた。哲郎はまだ夢の余韻に浸りながら、弱々しく答える。
「あと五分~……」
その瞬間、敦子は電子レンジで温めておいた濡れタオルを哲郎の顔に乗せた。
「あ、あつーーーーーい!」
哲郎は飛び起き、慌てて顔をさする。
「やっと起きた」
「敦子、今のはちょっと過激すぎじゃない?」
「起きない哲郎が悪いんでしょ」
敦子は頬をぷくっと膨らませ、怒ったような表情を見せる。その姿が妙に可愛らしく、哲郎は思わず苦笑いしながら謝った。
「ごめん、ごめん」
洗面所へ向かう哲郎の背中を見送りながら、敦子は小さくため息をついた。
家事と成長
訓練の日々を重ねる中で、二人は精神的に強くなった。だがその分、互いに少し粗雑になっている部分もある。
「もう食事はしたの?」
「哲郎が寝てる間に、溜まっていた洗濯物と掃除を全部済ませて、軽く食事もしたわ」
敦子は、敢えて「ここまでやったんだぞ」と言わんばかりに成果を告げる。哲郎は頭を下げるしかなかった。
「あ、ありがとうございます……」
家事が苦手な哲郎は、どうしても敦子に任せきりになってしまう。そんな自分に少し罪悪感を覚え、せめて掃除くらいはできるようにならないと、と心の中で決意する。
外出の準備
顔を洗い、着替えを終えた哲郎が部屋に戻ると、敦子はすでに準備万端。髪を整え、軽やかな服装に身を包んだ彼女は、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
二人は部屋を出て、エヴォルド本部内のエレベータに乗り込む。都庁の一階へと上がる途中、哲郎はふと鏡に映る自分の姿を見て、半年間の訓練の日々を思い返した。
本部に来てから半年。近くの公園へ出かけたことは数回あったが、買い物に行くのは初めてだ。給料をもらっても、使う場所はほとんどなく、せいぜい通販や宅配で食材を買う程度だった。だからこそ、今日の外出は特別な意味を持っていた。
買い物の楽しみ
「哲郎、これ見て」
敦子が指差したのは、ガラスケースに並ぶ繊細なアクセサリー。
「いいね、それ」
「これなんかどう?」
「似合ってるよ」
敦子の笑顔は途切れることなく、次々と服やアクセサリーを見て回る。哲郎はそんな彼女の姿を見て、心の底から「来てよかった」と思った。
昼食の時間
「そろそろお腹すいてきたから、お昼食べよ」
「そうだね、時間もちょうどいいし、予約していた店に行こう」
久しぶりの外出は、二人にとって大きなリフレッシュとなった。ここ一ヶ月ほどリディーマーの動きはなく、戦いの緊張感から少し解放されている。哲郎の表情に不安がよぎった瞬間、敦子が優しく言った。
「気持ちはわかるけど、今はせっかくだから楽しみましょう」
「……ごめん。そうだね」
食事をしながら、二人はさっき見ていた服やアクセサリーの話を続ける。
「やっぱり東京って、名古屋とは違うね」
「そうだね」
「お店も歩いてる人も、おしゃれだよね」
「名古屋だっておしゃれな店や人はいるよ」
なぜか哲郎がムキになり、敦子はその様子を見て笑った。
午後の散策
食後も二人は街を歩き、様々な店を覗いた。だが、結局何も買わなかった。いざ購入しようとすると、「戦いの時にこの服は邪魔にならないか」「アクセサリーは負担になるのでは」と頭をよぎってしまう。敦子も同じように考えていた。
午後三時頃、そろそろ本部へ戻る時間となる。普通ならまだ早い時間だが、自分たちの立場や警備をしてくれている仲間のことを考えると、いつまでも街をうろつくわけにはいかない。
サプライズの贈り物
本部に戻り、警備していた仲間にお礼を言ってから部屋へ帰る。ソファーに腰を下ろした哲郎が、少し照れくさそうに敦子へ声をかけた。
「敦子」
「なに?」
「これ……敦子が欲しそうにしてたから」
哲郎が差し出したのは、敦子が店で見ていたネックレスだった。敦子は驚き、目を丸くする。
「え、いつ買ったの?」
哲郎はただ笑顔で答えるだけ。
敦子の目頭が熱くなり、涙がにじむ。震える手でネックレスを首にかけ、哲郎に問いかける。
「似合う?」
哲郎は大きくうなずいた。
「今日は本当に楽しかったね」
二人にとって、非常に有意義で忘れられない一日となった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。次回も楽しんでもらえるよう頑張ります!
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