第三十九話 処分
力を与えられ、使命を託された黒井。
だが、任務に失敗した彼を待っていたのは、冷酷な“処分”だった。
ブルミシアの手によって葬られ、東雲と市川は不気味な笑いを交わす。
そこにあるのは、冷徹な計算と歪んだ快楽。
利用される者の末路が、静かに示されていた。
読んで頂けると幸いです。
薄暗い礼拝堂のような空間に、重々しい沈黙が漂っていた。
東雲宗次郎は、深々と頭を下げていた。
その隣には、緊張で顔をこわばらせた若者──黒井が立っている。
「ブルミシア様、この者も我々と共に進化に不満を持つ者です。何卒、お力をお与えいただけないでしょうか」
東雲の言葉に、黒井も慌てて頭を下げる。
額に汗が滲み、喉が乾いていた。
彼は、東雲が募集していた非合法アルバイトに応募してきた。
「楽に稼げる」「仕事以外は自由」──そんな甘い言葉に釣られて。
だが、今目の前にいる“女性”は、明らかに常識の外にいた。
「これから会う女性に、絶対に失礼がないようにしてください」
「その方は、あなたに新たな力を授けてくださいます」
「その力をもって、あなたは狩り担当として仕事をこなしていただきたいのです」
黒井は内心、後悔していた。
──なんか、マジでやばそうだ。
──でも、今さら「帰ります」なんて言えない。
ブルミシアは静かに黒井の前に立ち、手を差し伸べた。
その手がほんのりと光った瞬間、空気が震えたように感じられた。
「あなたには、任意の物体をすり抜ける力を授けましょう」
「あなたは、私の協力者となりました。その力を使いこなし、使命を果たしなさい」
黒井は何が起きたのか理解できなかった。
身体に変化はない。
だが、何かが“内側”で動き出したような感覚があった。
「ありがとうございます」
東雲は丁寧に礼を述べ、黒井を連れて退室した。
通路を歩きながら、黒井は恐る恐る口を開いた。
「あの~……東雲さん、俺は何か変わったんですか?」
「ええ。これから、その得た力の訓練をしていただきます」
「訓練ですか?」
「はい。最初に説明した通り、あなたは狩り担当です」
「自身が得た力を理解すれば、役割も理解できますよ」
黒井の疑念は、訓練を通じてすぐに消えた。
壁をすり抜け、障害物を無視できる力。
その快感は、彼の中に眠っていた“万能感”を呼び起こした。
「黒井くん、あなたは当初、我々を怪しい集団だと思っていたでしょう?」
「え……」
黒井は言葉に詰まった。
「いえいえ。良いのです。皆、最初は同じ思いです」
「ですが、我々はブルミシア様に力を授かった、選ばれた戦士なのです」
「偶然進化という力を得て、それを国家ぐるみで私利私欲に使っている」
「そうした“悪”を、我々が倒すのです」
黒井は拳を握りしめ、うなずいた。
東雲の言葉が、彼の心に染み込んでいく。
──大学にも入れず、仕事もうまくいかず、実家からは勘当された。
──そんな自分が、世界を守る戦士になれる。
黒井は誇らしさに胸を膨らませていた。
「さあ、今回の任務はこの男を殺すことです」
「こ、殺す……ですか?」
「大丈夫です。あなたには、我々とブルミシア様がついています」
──そうだ。
──この力を与えてくださったブルミシア様がいる。
「この田辺哲郎という男は、進化の力を複数持ち、それを利用し私利私欲に生きているクズです」
「ただし、この男が所属するエヴォルドという国家組織は狡猾です」
「外から見れば、普通を装っています。騙されないようにしてください」
黒井は少し戸惑った。
──普通を装う?
「政治の世界を思い出してください」
「都合の良いように金を集め、国民のためのような顔をして私服を肥やす」
「SNSでも、追及する側が悪者にされることが多いでしょう?」
──そうだ。
──俺は悪者と言われるかもしれない。
──でも、本当の正義は俺たちにある。
「任せてください」
「必ず、この男を殺してきます」
数日後──
「どうなったのかしら?」
ブルミシアの声は冷たく、鋭かった。
「申し訳ありません。黒井は捕まってしまいました」
「あなたの力で、こちらに連れ戻せばよいでしょう?」
ブルミシアが東雲に詰め寄る。
「そうしようとしたのですが、何やら妨害があるようで……」
「あなたの力でも連れ出せないなんて、相当向こうにもやり手がいるようね」
東雲はすまなそうに頭を下げる。
「しょうがない。私を飛ばしてちょうだい」
「よろしいのでしょうか?」
「誰かが後始末をしなければいけないでしょう」
ブルミシアの口元が、不気味に吊り上がった。
「お願い致します」
そして──
失敗した黒井は、ブルミシアの手によって“処分”された。
その報告を受けた東雲は、口元を手で隠しながら笑いをこらえていた。
「どうした、東雲さんよ?」
市川が問いかける。
「いや、物事がうまくいくというのは、非常に愉快だと思いましてね」
「なるほど」
市川は何かを悟ったように頷いた。
「あなたは理解が早いので助かります」
「東雲さんについてりゃ、楽しく生きてけるからな」
「そう言っていただけると、嬉しいですね」
二人の不気味な笑いが、静かな部屋に響いた。
その笑いの奥には、冷酷な計算と、歪んだ快楽が潜んでいた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。次回も楽しんでもらえるよう頑張ります!
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